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レパートリー

どうして、マイクはライドさんを狙うのかしら。


ライドさんは言ったわ。

「恨みを買いやすい職業だからな」

って。

それは、ハンターのお仕事のこと? それとも…。


ビーストが増えてしまったことやそれによる被害の増加は、決してハンターさんたちの怠慢が引き起こしたことではないでしょうに。


ジェリーさんとセスさんは、なんとも言えない複雑な表情をしていたし、ライドさんが自嘲するように口の端を上げるのを、なにも言えずにただ見ているのが切なくて。


ソファに座るライドさんの正面で、ちょこんとラグに膝をついて見上げると、ライドさんは目を瞬いて私を見たわ。


ひとは、いろいろな感情を持つわ。嬉しさも、楽しさも、小さな幸せも、大きな満足も。同じ事象に対してだって感じ方はそれぞれ様々。


そしてそれらの良い感情は、悪い感情と背中合わせなの。

悲しみも苦しみも不幸も不満も、ほんの少しの気持ちの傾きですぐに心に忍び寄ってくる。

誰かを恨まなければ立ち上がれないひとだっているかもしれない。


だけど惑わされないで。


「もしも恨みの感情を向けられたとしても、その感情の隣には、たくさんの恩があるわ。被害にあってしまったひともいるけれど、助けられたひとたちもたくさんいる。ライドさんたちがビーストを倒す度、多くの人が救われるし魔法石は人びとの生活の助けになる」


ライドさんには、被った被害を嘆く人びとの声に耳を傾ける優しさがある。悲痛な叫びに潰されてしまわない強さがある。だけど、心が痛まないはずもない。


でも。


「たとえ恨みの声が大きく聞こえても、ひとりで受け止めようとしなくて良いと思うの。ジェリーさんもセスさんも、もちろん私もいるわ。嫌なこともみんなで分けちゃえば少しはマシになるんじゃないかしら」


ね? って微笑んで見せたら、ライドさんは微かに憂いの滲む表情で笑ったわ。


「ヨツバも、一緒に抱えてくれるのか? 嫌なことも良いことも、お互いに分け合って?」

うん?

うっとりと甘やかな声に調子良く頷いたけれど、なんかニュアンス違ってなかった??


まあ、でも。

珍しく沈痛な雰囲気を醸し出していたライドさんがご機嫌を取り戻してくれたみたいだから、いいか。

なんだか思いの外、嬉しそうにしてくれたし。


ライドさんが嬉しいと私も嬉しい。

ライドさんが笑っていると私も笑顔になれる。

凛々しいその笑顔をずっとそばで見ていられたら…。


「ヨツバ? どうした?」

「うううん、ライドさん。なんでもないわ」



翌日。

ロイス・ファースの死体が見つかった川原に私たちはやってきた。

ライドさんが確認したいことがある、と言ったからよ。


ここに、マイクも現れるわ。


夕べ、今日のことを予知の力で見ていなければ、ライドさんはきっと、ひとりでここに来たのだと思うの。

でも、マイクが現れる、しかもナイフでライドさんを襲う、なんて私が言ったから、ジェリーさんとセスさんも

いっしょに来ているわ。


ライドさんたちは何かを探しているみたい。

私はその様子を眺めながら考えてみたの。


もしもマイクがライドさんを恨むとするなら、理由はかれの犯罪を暴こうとしているから、かしら?

だとしたら実際、ライドさんだけじゃなくて、私たちみんな対象になり得るわよね。

ライドさんはリーダー的存在だから、矛先が向けられてしまったのかも。

あら?

ちょっと待って?


もしそうだったとして、マイクはいつ、私たちが彼の罪を暴こうとしていることを知ったのかしら?


「………???」


そのとき、がさっと茂みが音を立てて、中から男が奇声を上げながら飛び出してきた。

男の手には大振りのナイフが握られていたわ。

だけど予め分かっていたから、ライドさんたちはとても冷静にあっさりと男を捕らえた。


そして、潜んでいた数人の警察官も男に駆け寄ったわ。

万が一、逃走されたときのために、警察には連絡してあったのよ。


「ご協力、ありがとうございました」

はきはきとした若い警察官が笑顔で言ったわ。

男は錯乱したように奇声を上げ続けていて、確かにマイクだけれど頬がこけて、目の下にクマもあって、すっかり面変わりしちゃってる。


「イヤだ…! 殺されるっ! 助けてくれ! ()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


ーーー?!

明らかに、怯えた様子のマイクに、私は眉をひそめた。

どういうこと?


少し年配の警察官は、暴れるマイクを後ろ手に縛り上げながら言ったわ。

「こいつはまず病院で治療が必要だな。まともに話ができるようになるまでにどれくらいかかるか…」


マイクは落ち窪んだ目でライドさんを凝視して叫んだわ。

「お前が死ねば俺は助かるんだ! そうじゃなきゃ、俺もロイスみたいにくわ…」


「……っ!!」


ぱすっ、という微かな音が聞こえた気がしたわ。

マイクの額に穴が開いて、彼の体はもんどり打ってばたりと背中から倒れたの。


ち、っという舌打ちの音は誰のものだったのか分からないけれど、私は目の前で起きたことが信じられなくて膝をついた。

騒然となったわ。

捕らえた横領犯を目の前で殺されてしまった警察官は血相を変えているし、怒鳴っているひともいる。


すぐに大勢の警察官がやって来て、あたりの捜査を始めたけれど、マイクを狙撃した犯人はおろか、どこから狙撃したのかさえも分からなかった。



どうして…。

どうしてマイクの未来を確認しなかったんだろう。

見ていれば、殺されずに済んだかもしれないのに…。

助けられたかも、しれないのに。


私は唇を噛み締めて、マイクの亡骸を見ていた。大きな布に包まれて運び出されるまで、じっと見つめていた。



家に帰れたときはすでに夕方になっていたわ。

今日は私が食事当番なの。

警察の捜査に協力して疲れていたし、美味しいものを作れる自信がなかったから料理をするのはイヤだったのだけれど、仕方がないから作ることにしたわ。


レパートリーがほぼ無いからな。

何が作れるだろう。

冷蔵庫をのぞいたら、ケチャップとベーコンが入っていたわ。

これ、使っていいかな?

玉ねぎとピーマンはあったはず。よし。ナポリタンにしよう。


私は大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし始めた。


私がキッチンで四苦八苦している間に男性陣はお風呂を済ませたようでみんなサッパリしていたわ。

手際が悪いもので、だいぶお待たせしてしまった。

さあどうぞ、召し上がれ。



「おかしなことを言っていたな」


くるくると上手にスパゲティをフォークで巻き取りながらライドさんが言ったわ。

「ロイスは殺された、と言っていたことか?」

口に合うかどうかは分からないけれど、セスさんもひょいひょいと食べてくれているわ。


「ああ。ビーストに殺された、と言えなくは無いが、あの怯えようはまるでビーストが意志を持って殺しにくるとでも思っているかのようだった」

「そうだね、確かにそんな感じだった。それに、ライドを殺せば自分は殺されないみたいなことも言っていたよね」

ジェリーさんがゆっくりと食べながら言ったわ。

セスさんがおかわりを要求してきたのでお皿に盛りきれずに避けてあった分をあげたわ。

残ってるのが見えたのね。目敏いわ。

そんなセスさんが言った。

「ヨツバはどう思う?」

「私?」

「そう。ヨツバの奇抜な意見が聞きたい」

奇抜って…。


「そうですね。誰かが、ビーストを使ってロイスを襲わせた、とか?」

単純、というかオーソドックスに考えたらそうじゃない?

だけど、ジェリーさんが「まさか!」と肩をすくめたの。

「ビーストを手懐けるなんて出来っこないよ。他人を襲わせる前に自分が襲われちゃうさ」

「確かにそうだが、それが出来れば辻褄が合う」

「だが、そんなことが出来る人間がいる、としたら大問題だ。そいつがライドを殺せとマイクに命じたとするなら、いずれライドにビーストをけしかけてくるかもしれない」

セスさんのややつり気味の目がさらにつり上がったわ。


ビーストを手懐ける方法、か。

「あの。そういう、魔法石はないんですか? 動物を調教出来るような」

思いつきを口にしたら、みんなぴたりと食べる手を止めたの。


3人は顔を見合わせて視線で攻防を繰り広げた結果、ジェリーさんがため息と共に言ったわ。


「調べてみるよ」


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