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考察

「君はそうではないと思うんだね?」

その日の夕食後、みんなでお茶を飲みながらの寛ぎタイム。一家団欒っぽくて、こういうのも良いわね、って思いながらエリックさんとウエンディさんの話をしたら、ジェリーさんがそう言ったの。


ちなみに料理は当番制よ。予算内なら作っても買ってきてもいいことになってるの。

私は料理出来ないから、必然的に私が当番の日は買ったものになるわ。


「だって、3年ですよ? 「仕方なく」3年もコツコツ盗み続けます?」

例えば、なにか同情出来るようなのっぴきならない事情があったとして、よ?

そのために、止むに止まれず犯罪に手を染める、というのと、定期的に魔法石を盗みだす手口とがこう、しっくりこないっていうか…。


「…まあ、違和感はあるかもね。でも、そういうこともあるかもしれないよ?」

そりゃあ、“そういうこともあるかもしれない”と言ってしまえば、なんだって“あるかもしれない”でしょうけれど。


「それに、すごく計画的な感じがします。最初から魔法石を盗むためにウエンディさん家の工場に就職したとしか思えません」

ウエンディさんが思っているよりも、マイクは悪人なんじゃないか、と思えて仕方ないの。

「まあ、ね。でも、社長令嬢に恋をして変わったかもしれないし」


ジェリーさん、わざと私と違う意見を言ってるわね?

まあ、色々な可能性を考えられて良いのだけれど。

そうね、想像してみる?

…盗み目的で工場に入り込んだマイクが、ウエンディさんと恋をして盗みを止めようと決意する…?

う〜む…。


「…ジェリーさんって、ロマンチストなんですね」

思ったことを口に出したらむっとされてしまった。

「…バカにしてるの?」

「いいえ、まったく」

睨まないでくださいな。

そういうこともあるかもね、という気になりましたよ。

今のところ、ウエンディさん自身が怒り心頭というわけじゃないんだし、私が口を出すことじゃないけれど。

なんていうか、どうにも騙されてる感があって、もやっとするのだもの。


「それは?」

セスさんが私の手元を覗き込んだ。

「マイクの写真です。ウエンディさんから借りたんですよ」

ハンサムなのよ、とウエンディさんが言っていたとおり、爽やかな笑顔のイケメンさんよ。


「ヨツバ、何か食べてる?」

およ?

「はい。べっこう飴ですけど、食べます? 砂糖を溶かして固めただけの飴ですよ」

さっきキッチンの隅っこで作ってみたの。

ちょっと焦げたけど、まあまあな感じよ。

甘すぎたかしら。セスさんはべっこう飴を口に入れて、なんとも奇妙な表情をしていたわ。


「それにしても、3年も盗み続けて返せない借金ってどんだけなんですかね。働いていたんだから、お給料はちゃんと貰っていたわけでしょう?」

盗んだ分だけじゃなく、お給料からも借金は返せたはずじゃないかしら?

利息がとっても高くて元金が減らない、とか?


「継続的に盗み続ける理由が、なにかあったのかもな」

ライドさんがそう言うの。

「借金の返済とは別に、ですか?」

「そもそも、借金返済のために盗んでいた、と言う考え自体が推測に過ぎない」


そうね、確かに。借金があるという事実と魔法石を盗んでいたという事実から当然そうだと思っていたけれど。


「どうして、姿を消したんでしょうね?」

ふと呟いたら、3人の視線が集まった。

「どうしてって、盗んでいたのがバレそうになったからじゃないの?」

ジェリーさんの言葉に、ライドさんが首を横に振ったわ。

「いや。ウエンディ嬢が、連絡の取れないマイクの行方が占いで分からないかと相談に来たときは、そんな話はしていなかった」


そうなのよね。

ロイス・ファースの死体が見つかって、そこに魔法石が落ちていたから調査が行われたのであって、それまで魔法石の盗難には気付かれていなかったわ。

それでも、マイクが「バレる」と思ったのなら、それはどうしてかしら。

それとも、姿を隠した理由は別にある?


マイクはロイス・ファースの死体が見つかる数日前から行方が分かっていなかったわ。

そして、ロイス・ファースの死体は死後数日が経っていた。

ロイス・ファースは魔法石を持っていたのだから、亡くなる前にマイクから魔法石を受け取っている、つまり、マイクは亡くなる前のロイス・ファースに会っているということよね?


マイクとロイス・ファースは盗みの実行犯と、盗品のバイヤーよ。

ライドさんの言うように、借金とは関係なく継続的に魔法石を盗む理由があったとしたら…。


「やっぱり、密輸ですかねー」

みんな、考えることは同じよね。

3人とも、そうだろうねと頷いたわ。


「盗んだ魔法石を売るとなったら国内よりも国外の方が高く売れる」

これはセスさん。

「顧客を抱えているんだろうね。注文に応じるためには継続的に入手する手段が必要だよ」

そう言ったのはジェリーさん。

「となると組織的な犯行だな。単独でできる犯罪じゃない。以前の、ビーストそのものの密輸とはわけが違う」

渋〜い顔でため息ついたのはライドさんよ。


「マイクもその組織の一員なんでしょうか?」

「おそらくね」

ライドさんは言ったわ。

ロイス・ファースの死によって、魔法石の盗難だけでなく、犯罪組織の存在も明るみになる可能性があった。

だからマイクは姿を消したのではないか、と。


え、それって、消されたってことじゃないですよね?


多分、思ったことが顔に出たんだと思うわ。

ライドさんがぽんぽんと頭を優しく撫でたの。

ちょっと待って。それってどっち?!


ぞわぞわっ。

やだ。なんか、怖っ。


怖い、と言えば。

「私、もうひとつ疑問に思っていることがあるんですけれど」

「なんだ?」

「ロイス・ファースを襲ったビーストです。退治されてないですよね? あのビーストはどこに行ったんでしょう」

ライドさんたちも気にはなっていたみたい。

「君の占いでは分からないの?」

ジェリーさんに言われたけれど、私は首を横に振った。

「あの川原には再び現れる様子はありませんでした」

「そう…」


ライドさんがマイクの写真を指差して言うわ。

「マイクの方はどうだ? 住居に行けばなにか分かるか?」

うーむ。どうかしら? 

こういうとき、過去がわかる能力ではないことを残念だと思うわ。

写真から被写体のことが分かれば良いのだけれど、本人を見ないことにはそのひとの未来は分からないし…。


住居に行っても、私が見ることのできる範囲にマイクが現れなければ分からない…。

そう言おうとしてライドさんに向き直ったときよ。


「…あ!」

白昼夢を見るように、目の前に映像が閃いたわ。

「え?」

「見えました!」

「本当に…?」


見えたわ。マイクよ。間違いない。

あら? だけどこれ、うん?


「マイクは、ライドさんをナイフで刺そうとしているみたいです」

ライドさんは刺されたりしないけれど。

マイクは体術や戦闘の訓練を受けているわけではないみたいで、まったくライドさんには敵わない。

不意打ちを狙うようだけれど、ライドさんはかすり傷さえ負わないのではないかしら。


でも、マイクは無事だわ。やつれてるようにも見えるけれど、生きてる。良かった。消されてないわ。


マイクのことに気を取られて、説明が足らなかったみたい。


「なんだって?!」


血相を変えたジェリーさんの大きな声に、ぎょっとしてしまったわ。


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