散歩
シュエットの街は長閑な田舎町といった風情の街だったわ。大きな街だけれど自然が多くて魔法石を加工する工場がたくさんあるのですって。
私たちはホテルに宿泊するのではなく、家を一棟借りることにしたの。前回みたいなことがないようにね。
広くはないけれど、それぞれ一部屋使える部屋数のあるお家よ。お風呂は一つしかないから、私が使う時間だけは厳しく決められたわ。その時間は男性陣は浴室に近づかない。私も、それ以外の時間は浴室に近づかない。
ルール、大事よね。
まあ、お互いにイロイロあるものね。
この街も中心に商店街があって、色々なお店が集まっている。どの街にも旅の行商人っていうひとたちはいるらしくて、思い思いにお店を出している一角があるわ。
私たちもそこにスペースを借りてさっそく占いを始めたの。
どういう宣伝なのか相変わらず教えてはもらえないのだけれど、お客さんはそれなりに来てくれるわ。
でね。
タロットカードに釘付けになるのよ。
みんなアークさんの絵だってすぐに分かるみたい。
アークさんの絵を見たくて来るお客さんもいるくらいなのよ。
アークさんって本当に有名な画家さんなんだってこと、改めて思い知らされるわ。
知らずに来たひとはすごく驚くの。そして、伏せたカードが開かれるのを興味深そうに見ている
ふふ。占いの結果なんてそっちのけなの。
ぶっちゃけ、占いの方はかなりインチキだから助かっちゃう。
だって、お客さんが引いたカードに関係なく、見えた未来についてのアドバイスをしているのだもの。
あは。ほら、太陽のカードが出ちゃった。これ、とってもいい意味のカードよ。望みは叶う、成功する、そんなカード。
でもね。
「残念ですが、お相手の方には他に気になる方がいらっしゃるようです。ですが、あなたの存在とそのお気持ちは、お相手の方にとって大変心強く嬉しいものであるようです。どうぞ、気落ちされませぬよう」
なんて言っても無理よねー。
ああ、肩を落として悲しそう。やだ、泣かないで?
だって、告白が上手くいくか、とか聞くんだもの。
こういうの一番困っちゃう。上手くいってくれれば良いけど、残念な結果が見えちゃったときはね…。
太陽のカードが恨めしくなっちゃう。
私、占いの才能は無いわね…。
この男性、見た夢も残念だったわ。土砂降りの雨の中をひとりで歩いている夢だったんですって。
それで不安になって占いに来たっていうのよ。
「甘いもの好きです? 良かったら一緒に召し上がりません? 紅茶もどうぞ?」
最後のお客さんだったからサービスしちゃう。
すぐそばのお店から差し入れでもらったスコーンに、カミラおばさんがくれたリンゴのジャムを添えて出すと、男性はちょっとだけ笑顔になったわ。
「ありがとうございます。僕、甘いもの好きなんですよ。いただきます」
どうぞどうぞ。
私も食べちゃう。疲れると甘いものが食べたくなるわよね。しっかり目に焼かれたスコーンに酸味の効いたジャムがよく合うわ。うん。美味しい!
「土砂降りの雨って、夢としては悪く無いんですよ。そういう雨って、どばっと降ってすぐに止むでしょう? 困難な状況が終わりを迎える兆し、とも言われているんです。でも、その雨が辛いことに変わりはないですものね」
元気になって欲しくて言ってみたけど、どう言っても慰めにはならないわよねぇ。
「そうなんですね。…彼女は幼なじみで、ずっと好きだったってわけじゃないんですけど、仕事の関係で一緒に過ごす時間が多くて、気がついたら大好きになってたんですよね。気がつかなければ良かったんですけど…」
…恋ぞつもりて淵となりぬる、か。
「長い時間をかけて育った気持ちなんですね。素敵です。私も、そんな風にひとを好きになってみたいです」
男性は恥ずかしそうに眉を下げたわ。
「成就すればなお良かったですけど。でも、ありがとうございます。そんな風に言ってくれて」
「たとえ成就しなくても、育った気持ちが無駄になるわけじゃありませんよ。気持ちと一緒に心の器も大きく育つんですもの。あなたはその大きな器で、またきっと違う気持ちを育てることが出来ます」
男性は微笑んで、美味しそうに紅茶を飲んだ。
「お疲れ様。じゃあ、帰ろうか」
男性を見送った後、片付けを済ませてライドさんが言った。
「はい。あ、少し、お散歩しながら帰りませんか?」
まだ午後の3時くらいだもの。
遠回りをして帰っても良いわよね?
ライドさんは笑って頷いてくれた。
「ヨツバの国のことを聞かせてくれないか。この国とはだいぶ違う?」
のんびり歩きながら、ライドさんがそう言ったわ。
うーん、そうね?
「違うと言えば全く違いますけど、同じところもありますよ」
「例えば?」
ライドさんは背が高いから、歩きながら顔を見ようとすると見上げちゃうわ。
「大きく違うのは、ビーストと魔法石です。この二つは私の世界にはありません。でも、魔法石と同じようなことが出来る別のものがあります」
「他には?」
私は思いつくままに、違うと思うことをあげていった。
交通手段のことや王政ではないこと、でも王政の国もあること。
「それに、この国は道がとてもきれいに整備されています」
「というと?」
「私の国の道はもっと曲がりくねっていて複雑です。でもこの国の道はほぼ直線ですよね」
京都の街って道が碁盤の目のようになっているじゃない?
この国の道もほとんどがそうなのよ。
街に迷う心配が無いし、慣れない街でもお散歩がしやすいわ。
「何代か前の王の命令でこのように整えられたんだ。王政だから出来たことかもしれないな」
ああ、きっとそうね。まっすぐな道路を作るためには土地の持ち主の理解が必要だもの。元の世界ではきっと難しいわ。
「ヨツバは、元の世界でも占いを?」
「いいえ。元の世界では私はまだ学生でしたから。占いは趣味レベルでした」
そう答えたら、ライドさんは驚いて目を開いたわ。
…そんなに驚くことかしら?
「そうなのか? 何か、学んでいる途中だった?」
「学ぶ施設に種類があって、それまで学んでいたところでの学習を終えたところだったんです。進学が決まっていたんですけど…」
高校を卒業した途端、この世界に来ちゃったからな。
「…そうか。なにを学ぶ予定だったんだ?」
「保育です。ひとが成長していく過程に携わる仕事がしたくて。でも多分向いてないんです」
「なぜそう思う?」
「厳しくできないんですよね。つい、甘やかしちゃう。だから保育の現場には向いてないと思うんです」
厳しくするのが本人のため。そういう場面でも、私は厳しくできない。…根が薄情なのよね、私。
「でも、学びたかった?」
「はい」
他にも心理学を勉強したら占いをするとき役立ちそうだなと思ったのよね。
「この国にも保育が学べる学舎がある。ビーストのことが落ち着いたら紹介しようか?」
ライドさんは優しい。私がこの世界に来て失くしたものを、補おうとしてくれているんだわ。
「ありがとうございます。そのときまた考えます」
ふふ。ライドさんの優しさが嬉しくて自然と顔が笑う。そうしたらライドさんも微笑んでくれたわ。
暖かく包み込んでくれるような、優しい微笑みだった。
その笑顔を見て、私もまた微笑むの。
翌日、最初にやって来たお客さんに見覚えがあった。
誰だっけ。
えーと…?
「昨日、幼馴染みがこちらで占ってもらったと聞いて参りましたの」
明るい笑顔のその女性に言われて、思い出したわ。
このひと、土砂降りの雨の夢のひとが告白しようとしたひとだ。
快活そうなその女性は、ぴしりと背筋伸ばして言ったの。
「相談したいことがございまして」
あはは…。
なんか、嫌な予感がするわ。




