宣伝効果
「今日のお客さんは、昨日とはだいぶ層が違いましたね」
ライドさん、セスさん、ジェリーさん、そして私の4人で、モールの飲食店での夕食時。朝から疑問に思っていたことを聞いてみたの。
ジェリーさんが水餃子をお箸で持ち上げながら頷いた。
「セスから提案があってね。ちょっと宣伝の趣向を変えてみたんだ」
ここは、中華料理というか点心というか、そんな感じのお料理屋さんよ。大根もちが美味しいわ。
大根もちってなんでこんなにモチモチするんだろう。
大根なのに。大根、なのよね?
異世界だけれど、こういうところは元の世界と遜色ないのよね。料理の種類が豊富で味も美味しい。しかも馴染みのある料理が多くて、本当に不思議なところだわ。
宣伝の趣向…?
「そうだったんですか?」
昨日のお客さんは二十代から三十代の女性がほとんどだったけれど、今日は年代も性別も様々だったわ。
少し年齢の高めな男性も興味深そうにやって来たし、妙齢の女性も、若い男性もいた。
子供連れのお母さんも何人かいたわ。
目的を考えたら、幅広い層のひとたちに来てもらえた方が良いわけだけれど。
なんていうか、なんか不思議な感じだったのよね。
お客さんたちの私を見る目に、好奇の色が見え隠れしてるっていうか…。
「いったい、どんな宣伝を?」
恐る恐る聞いてみると、ジェリーさんはちらっと私を見て、ひとこと、
「企業秘密」
って言ったのよ。
「う…………」
ううう。ずるい。
そう言われたら、追求できないじゃない。
いったい、どんな宣伝をしてるのかしら。ユニークな夢占いをする旅芸人的なヤツだったりして。
…当たらずとも遠からずなんじゃないかしら、これ。
だって、それならお客さんたちが、興味津々って感じに私を見るのも納得だもの。
「ビーストに関する情報は無かったようだが、何か、気になることがあったんじゃないのか?」
ライドさんが酢豚を取り分けながら言った。
今日はね、宣伝っていうか客引きっていうか、をジェリーさんとセスさんが担当して、ライドさんはテントに残って私のフォローをしてくれていたの。
お客さんが多いと儲かってると思われて、タチの良くない輩がやってきたりするからって、その対応も兼ねてね。
気になること、あったわ。ライドさん、気付いていたのね。相談したいと思っていたの。
私は頷いた。
「そうなんです。実は昨日も泥棒を心配する方が何人かいたんですけれど、今日もそういうひとが数人いて。ご本人が心配しているかどうかは別にして、実際、えーと、盗難の相? が出ているひとがいまして」
「盗難の相? そんな相があるの?」
あ、はは。さぁ…、どうかしら?
まあ、無かったとしても、私には見えるのよ。
だから、ジェリーさん。そんなに疑わしそうに見ないで?
「えーと、それでそういうひとには戸締りについて気をつけるようにお話したんです。普段鍵をかけない裏庭に面した扉とか、面倒で開けっぱなしにしている裏通りの門とかから泥棒に入られた様子が見えたので」
つまり、この街には泥棒がいるのよ。
すでにかなりの被害が出ているようで、心配しているひとがいたのよね。
でも、大抵そうやって心配しているひとはちゃんと戸締りしてるから大丈夫なのよね。
「…ふうん?」
「…奇妙だな」
「…どの客だったか覚えているか?」
3人ともちょっと難しい顔になったわ。箸を動かすペースは落ちないけれど。私もね。
ああ、にら饅頭も美味しいわ。
私は今日のお客さんを思い出しながら頷いた。
「はい。3人目の恰幅のいい男性と、お昼頃にいらしたお年を召した女性と、最後から2番目の小さな男の子を連れていた女性です」
今思えば、3人とも上品でお金持ちっぽい雰囲気があった。着ていたものも高級そうだった、気がするし。
ライドさんがふむふむと頷いたわ。
「同じ犯人かな?」
ジェリーさんがそう言ってセスさんが答えたわ。
「複数の違う泥棒がたまたま同じ日に犯行に及ぶとは考え難い」
「ああ。ヨツバの助言で昨日の犯行に失敗しているとすると…。早めに押さえた方が良さそうだな。今夜、張ってみるか」
「その3つ、時間差があるはずだけど、順番わかる?」
え? えーと。……無理よ。私が見たのは翌朝泥棒に入られたことに気付いて、怒ったり、嘆いたり、悲しんだりしている彼らの様子だもの。
「…そのお家を見れば、分かると思います」
えへ。
ジェリーさんの目が、半目になったわ。
「分かるんだ? 本当に君の占いって面白いよね」
ええ…。聞いておいてそれは酷くなーい?
「優秀と言って下さい」
思わず言い返してしまった。私も図々しくなったわ。
そんな私たちの様子にくすりとライドさんが笑ったの。
「そうだな、ヨツバは優秀だ。疲れているだろうが、この後該当の家を一緒に回って確認してくれるか?」
泥棒を捕まえようってことね?
良かった。泥棒に狙われたひと、みんながみんな占いに来てくれるわけじゃないし、どうにか出来ないかと思っていたの。
私は力強く頷いたわ。
「はい。もちろん」
そうしたらね、ライドさんがよしよしって褒めるように微笑んだのよ。
ライドさんの凛々しい笑顔が素敵だなぁって、ほんの少し見惚れちゃったわ。
少しよ?
だって、本当に格好いいんだもの。
「ん? ヨツバも食べるか?」
あ、いえ。決して召し上がっていた胡麻団子が食べたくて見ていた訳じゃ無いんですよ。
でも、ありがたくいただきますね。
ライドさんがお皿に乗せてくれた胡麻団子は、熱々でパリパリでモチモチで、とっても美味しかったわ!
三軒のお宅を見てみたところ、最初に泥棒が入るのは3人の中で一番高齢なおばあさんのお家だったわ。
お家、というか、立派な邸宅だけど。
こちらはシール伯爵家の邸宅なのだそうよ。占いに来たおばあさんは伯爵夫人だったのね。
間も無く夜の9時。泥棒が現れる時間よ。
邸宅の明かりはすっかり落とされ、寝静まっていることが窺えるわ。
私は問題の裏門から少し離れたところに隠れているの。ライドさんに、絶対に出て来ないようにって言われているけれど、まあ、そこは臨機応変にね。
現れる泥棒は5人よ。
鍵のかかっていない裏門から簡単に中に入ってしまう。昼前までは、そうなるようになっていた。
今は施錠されているわ。
静まり返った門前に、足音を忍ばせた人影が現れた。
来たわ。
門を開けようとして、開かないことに気付いたみたい。
がんっ、と門を蹴飛ばしているわ。
「ったく、どうなってるんだ?!」
「ずっと開けっぱなしだったのに。今朝だって鍵なんかかかってなかったぜ!」
「どうする?」
「どうするって…」
「古い門だが鍵を破るのは無理だ」
「乗り越えられないか?」
「ああ。やってみよう。2日続けて失敗するのはマズイ」
男たちはひそひそと話し合った後、門を越えようとした。そのとき。
ひゅっと音がして、門をよじ登ろうとした男に何かが投げつけられた。
「痛え!!」
「なんだ?!」
「誰だ!!」
「ぐえっ!」
動揺する男たちにライドさんたちがささっと忍び寄って、あっという間に伸してしまったわ。
すごい。ライドさんもセスさんも、意外だけどジェリーさんも強いんだわ。ビーストを倒す様子とか、鍛えられた体躯の感じとかから、なんとなくそんな気はしていたのだけれど。
特にセスさんは動きが素早くて、容赦ない感じだったわ。そういえば、この間も2人組のチンピラをひとりで押さえつけていたっけ。
男たちを縛り上げると、ジェリーさんがどこかに連絡を始めた。
警察に通報してる、のかしら?
「なんだてめぇら! 何しやがる!」
縛られながらも男たちの一人が大声をあげているわ。
「名乗る義理はない。お前たちは不法侵入の現行犯だ」
ライドさんの言葉に男がふんと鼻を鳴らした。
「未遂、だ。てめぇらのおかげでな!」
「いくらでも余罪があるだろう。きっちり調べてもらえ」
足元に転がってきたのはソフトボールくらいの大きさの球だったわ。最初に投げつけていたのはこれね。
何気なく拾い上げて、その男を見たの。
「余罪…」
無意識に近づいてしまった私に、ライドさんが気付いて、厳しい声で言ったわ。
「来るな! 下がっていろ」
ライドさんの視線を追って、男が私を見た。
そして、見えたの。
ビーストよ。でも、その男が襲われているわけではないわ。男が見ているビーストはすでに死んでいて、数頭の死骸が梱包されていく。そしてそれらは別の誰かに引き渡されて、男は現金を受け取っているわ。
これって…。
「ビーストの、密輸…?」
「なに?!」
ぎくりと肩を揺らした男を、ライドさんは鋭い瞳で睨み据えた。




