占いとは
今後の私たちの行動についての相談中、話の途中で言葉を切って、ジェリーさんが私を見たの。
「ところで、君の占いでビーストのコロニーがどこにあるかは分からないの?」
うん?
「無理です」
即答したら、
「なんで? 昨日はあんなに明確にビーストの居場所を言い当てていたでしょ」
って、ちょっぴり目を吊り上げたの。
やだ。睨まないで?
私は別に千里眼ってわけじゃないのよ。
「私の占いは人を介すか、または場所を介す必要があります。しかも分かるのは2、3日の間に起こること。それ以上先のことと過去については占えません。2、3日の間にコロニーに遭遇するひとか、コロニーが現れる場所を占うことができれば分かりますけれど…」
「あ、そ? それはザンネン」
ジェリーさんったら。ご期待に添えなくて申し訳ないけれど、あからさまなため息つかないで?
感じ悪いわよ?
ぷく、っと膨れる私の頭を大きな手がぽんと優しく撫でたわ。
ライドさんよ。
「十分だ、ヨツバ。ヨツバの占いは役に立っている。俺たちが無傷でビーストを倒せたのはヨツバのお陰だからな。ジェリー、大人気ない意地悪するんじゃない」
仕方のないやつだなってジェリーさんを見て、それから私には優しく微笑んでくれた。
本当にライドさんは優しいわ。こうして味方してくれるところは、本物のお兄さんみたい。
ライドさんの微笑みが暖かくて、私は自然と笑顔になれる。
ライドさんに窘められたジェリーさんは、軽く肩をすくめたの。
「はいはい。その子の占いが確かなことは僕も昨夜理解したよ。だから、その占いでコロニーの場所が分かるんなら先に教えてもらおうと思っただけ。でも、そうしたらどうしようかなぁ」
地図を指先でつつきながらジェリーさんは頬杖をつく。
その横でそれまで拳を顎に当てて考え込んでいたセスさんが、ふと私を見たの。
うん? なにかしら?
「動物は占えるのか?」
動物? ビーストを、ってこと?
「…直接、見ることができれば」
セスさんの言葉にそう答えると、
「なるほどな」
ライドさんが得心したように笑って頷いたの。
なんなの? なにが「なるほど」なの?
「そうだね。いいんじゃない」
ジェリーさんまで分かっている風なのね? どういうこと?
なんで今ので分かるんだろう。エスパーなの?
置いてけぼりにされて眉間にシワが寄っちゃう。
言い出しっぺのセスさんを見つめたら、
「ビーストは雑食だ。多少は果物なども食べるようだが肉を好む。餌を捕まえるためにはあまり大きな集団では不都合だろう」
って言うの。
「それは、餌を捕まえるためにコロニーを離れるってことですか?」
セスさんは頷いたわ。
「そうだ。餌を捕まえてコロニーに持ち帰る。そうしてまた餌を探しに行く。幼獣や弱い個体を守り数を増やすために強く大きい個体が餌を確保するようになるんだ。そこで、ビーストを見つけたら、まずヨツバが占う」
「はい…?」
占って、そして?
「そのビーストがコロニーに帰るかどうかをチェックする」
「なるほど」
やっと分かったわ。
単独行動をしているビーストの中にコロニーに所属しているビーストがいれば、そのビーストを追跡してコロニーの場所を見つけようってことね。
「じゃあ、基本的にはその方法で。問題は、どうやってビーストを見つけるかなんだけどね」
ジェリーさんは頬杖をついたままそう言ったわ。
私は印のついた地図を指差した。
「この、目撃情報のあったビーストを探すんですか?」
「いや。ハンター協会が公開しているビーストの情報にはすでに沢山のハンターが討伐のために動いている。事故防止のためにも、そちらには近寄らないほうがいい」
そう言ったのはライドさんよ。
「事故…?」
「流れ弾に当たりたくはないでしょ」
ジェリーさんがそう言うの。
流れ弾…。
そうか。大勢のハンターがいっぺんにビーストを狙ったらそう言うこともあるわよね。
ぞぞぞっ。怖いわ。
じゃあ、どうするの?
「そうだね、君に頑張ってもらいたいなと思ってるんだけど」
うん?
出来ることがあれば頑張りますけど。
ジェリーさんの言葉に背筋を伸ばす。
視線を感じてライドさんを見ると、ライドさんは困ったような心配しているような、そんな表情で私を見ているわ。
「君の占いを宣伝して出来るだけたくさんのひとを占ってもらいたいと思っているんだ。君には負担をかけるけれど、やってもらえるかな」
あらやだ。それは私の方こそ願ったり叶ったりだわ。
「ぜひ。やらせて下さい」
にっこり笑って頷くと、ジェリーさんは少し首を傾げたの。
「そう? ありがとう。じゃあお願いするよ。ただし、無理はしないで。疲れたら言うこと。いい?」
「はい。分かりました」
「助かる、ヨツバ。だけどジェリーの言う通り無理はしなくていいから」
「大丈夫ですよ、ライドさん。それに、占いはビーストは関係なく誰かの役に立ちたくて始めたことなので、続けられるなら嬉しいんです」
ビースト退治ももちろん人助けになるわ。それは分かっているけれど、ちょっとしたことでも、求めているひとには応えたいから今まで通りの占いも出来るなら是非やりたいの。
「でも、君の占いって面白いよね。ビーストも占えるなら夢って本当は関係ないんじゃない?」
ぎくっ。
「あはは。夢を聞くと、より占いの精度があがるんですよー。詳細は企業秘密ですー」
ライドさんがくすっと笑った。
「占いの詳細はさて置き、よく当たると評判も高いようだな?」
ライドさんたら、煽てても何にも出ませんよ?
「ねえ、試しに僕のこと占ってみてよ」
「はい?」
にんまり笑うジェリーさんを思わず見返してしまったわ。
ライドさんはまた、仕方がないやつだなって顔をした。
本当に試そうっていう気かしら。
まあ、良いけれど。ここで役に立つアドバイスが出来れば、意地悪言われなくなるかもしれないし。
「私の占いは高いですよ?」
悪戯っぽく言ったら、
「金額に見合った占い結果を聞かせてくれるなら構わないけど?」
ジェリーさんもそう言って、ふふんと笑ったわ。
よーし。見てなさい。ばっちり当てちゃうんだから。
「昨夜は夢を見ましたか?」
「夢? そうだね、マングースがハブと戦ってるんだけど、もうちょっとで倒せるってところでハブに噛み付かれる夢だったよ」
「それはまた暗示的な夢ですね…」
っていうか、本当かしら?
つい、疑いの目で見ちゃうわ。
そう思いながらジェリーさんの未来を見てみる。
あら?
「その夢、わりとそのまんまな気がします。ジェリーさん、喧嘩しますよ。相手は女性です。綺麗な金髪の、グラマラスな女性。あ」
「…………」
「なんか喧嘩っていうか一方的に怒られてるみたい…? そうですね、アドバイスできるとしたら、汚れても良い服装をしていた方が良いかな、ってことくらいですね」
ジェリーさんがなんか言って、さらに怒ったその女性はコップの中身をジェリーさんにぶちまけていた。
中身は水ではなさそうだったわ…。
くっくっくっ、と隣から堪えきれない笑い声が聞こえたわ。
「ライド、笑い過ぎ」
ジェリーさんは、むす、っとした顔をした。
「いやほんと、ヨツバは優秀な占い師だ。占ってもらえて良かったじゃないか。心の準備が出来る」
ライドさん、楽しそう。ライドさんもその女性に心当たりがあるのかしら。
セスさんもなんとも言えない目でジェリーさんを見ているの。心配している感じじゃないわね。どちらかというと呆れているように見えるわ。
誰なのかしら。金髪の美人さん。
コイビトって雰囲気ではなかったけれど…。
渋ーい顔でコーヒーを飲むジェリーさんは、大きな大きなため息をついたわ。
「君の占い、本当に変な占いだよね。夢を話しただけで、そこまで具体的に分かるなんて」
はは…。そうですよねー。意気込んだあまり、ちょっと喋り過ぎた気がしているのよ。
占い師っぽい小道具、用意しようかしら。




