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懸賞金

ホームでは、マーサ先生が私たちの帰りを待っていてくれたわ。

「みんな無事ね。怪我はありませんか? さあ、お入りなさい」

私たちを見て安堵したように微笑むと、ホールに招き入れて肉団子の入った野菜スープを出してくれたの。

今日はずいぶん肉団子が沢山入っているわ。

これじゃあ、野菜の入った肉団子スープね。


みんながスープを食べ終わる頃、アリーさんがくれた紅茶を入れたの。

ひと口飲んで、ジェリーさんが驚いたように言ったわ。

「これ、クーリッジ・ティーかい? もしかして…」

「そうですよ。先日のお礼にってアリーさんがくれたんです」

答えると、ジェリーさんはくわっと目を見開いたわ。

「お礼、だって? ビーストを退治したのはライドとセスじゃないか! 君だけがお礼を受け取るのはどうかと思う!」

あらやだ。ジェリーさんったらセコいわね。

「だって、相談を受けたのは私だし、解決策を考えたのも私ですもの」

それに、約束通りビーストの情報はあげたでしょう?

私が情報元とどんなやり取りをしようとジェリーさんたちには関係ないわ。


私はビーストの情報を提供して、ライドさんたちはそのビーストを退治した。それは私とライドさんとの契約通りのこと。


ただ、結果としてカイルさんはビーストに襲われずに済み、その結果はアリーさんの望むものだった、ってだけ。


それに、ビーストはその体内から採取される魔法石はもちろん、お肉も毛皮も骨や牙や角さえも高額で売買されるらしいじゃない?

私は情報提供に関しては十分な報酬をもらっているけれど、ライドさんたちだって損はしてないハズ、よね?

最初にそう言っていたもの。


ライドさんがふっと微苦笑して、私とジェリーさんの言い合いに割って入った。

「落ち着け、ジェリー。ヨツバの主張は正しい」

「だけど!」

「お前はヨツバが情報を入手するための努力や苦労を勘定に入れて無い。アリー嬢からの礼はヨツバが受け取るべきものだ」

「………だって、クーリッジの紅茶だよ? 王宮でだって滅多に手に入らないのに。(いた)っ」


不満そうにぶつぶつとこぼすジェリーさんの声に被せるようにライドさんが言ったわ。

「ジェリーは紅茶に目がなくてな。気を悪くしないでくれ。根は悪い奴じゃないんだ」

ええ。それは全然気にしませんけれども。


それより今、なんかゴツっていわなかった?

恨めしそうにセスさんを睨むジェリーさんとそっぽを向くセスさん。何してるんだろう?


「ところで、王妃様のことですけれど」

マーサ先生が仕切り直すようにこほんと咳払いをしたわ。

うん? 王妃様?

「ええ、困りました」

ライドさんがため息をつきつつ、苦笑いを浮かべて頷いたの。

王妃様がどうかされたのかしら。

首を傾げる私に、マーサ先生が言ったわ。何故だかちょっとだけ瞳が彷徨ってた。マーサ先生にしては珍しいわ。

「ええっと、そう! 最近のビーストとその被害の多さを憂いて、とうとう伏せってしまわれたそうなの」

あらららら。

それは心配ね。

王妃様、ということは王様の奥様であり、王子様方のお母様よね。

つまり、ブラッドリー王子のお母様、ということじゃない。

あの、優しい王子様のお母様だもの、きっと、王妃様も優しい方に違いないわ。


そうよ。今日みたいなビーストの襲撃が度々起こったらその被害は大変なものだわ。

王妃様は心労で倒れてしまうくらい、国民のことを思っていらっしゃるのね。


「ああー…、そう、だな」

あら? なんだかライドさん、微妙ーな反応。

不思議に思ってジェリーさんを見たの。でも、目を逸らされちゃったわ。セスさんとはそもそも目が合わないし。

…………?


ジェリーさんがうーんと伸びをしながら、

守護者(セイバー)も見つかってないしねー」

って、言った。


守護者(セイバー)って、カミラおばさんが言っていた預言のひと?

カミラおばさんの話を思い出す。

確か、マヨイビトのひとりなのよね?


セスさんが、低い、静かな声で言ったわ。

「ああ。ビーストの被害が増えているのは大きなコロニーが出来ているからだと報告が上がっている。そのコロニーごと始末しなければならないが、それには守護者(セイバー)が不可欠、とライシャが言っている」


ふうん?


「王は頭を抱えていてね。とうとう懸賞金をかけると言い出した。明日にでも発表されるだろう」

ライドさんの言葉に、ちょっと頭が固まっちゃったわ。

「懸賞、金…?」

「そう。守護者(セイバー)を見つけた者に賞金を出すんだ。守護者(セイバー)はマヨイビトだから、本人が預言のことも国が探していることも知らない可能性がある。それと並行して、ビースト退治が捗るように眼病根治の魔法石にも懸賞金をかける」

「眼病根治の魔法石…?」

「ああ。王妃は少し前から目の病気を患っていてね。その魔法石があれば治せると言われている。ただ、とんでもなくレアな魔法石でね。見つかる可能性は限りなくゼロに近いだろう」

「そんな魔法石があるんですね」

病気が治る魔法石。まさに魔法ね。

ライドさんは目を細めて微笑んだわ。

「魔法石に無いものはない、と言われている。見つからないだけでね。眼病根治の魔法石も、王は王妃のために見つけたいと願っているが、見つからなかったとしても、懸賞金をかけることによってビーストを減らすことが出来れば良いとお考えのようだ」

なるほど。

目の病気、かぁ。お気の毒ね。その魔法石、見つかるといいけれど。

目、と言えば…。


「ん?」

隣に座るライドさんを見つめると、ライドさんは少し首を傾げたわ。私は「男前」という言葉がぴったりの、精悍でちょっぴり色っぽいライドさんのお顔にずいっと顔を近づけてその瞳を覗き込んだ。

「っ???」


驚いて見開かれた目の色は薄い灰色。

でも、眼鏡があるのだもの。コンタクトレンズだってあってもおかしくないわ。

うーむ。


「ずいぶん、積極的だねヨツバ。でもそういう事は、2人きりのときにしてくれないか?」

うっとりと見惚れてしまいそうな魅力的な微笑みを浮かべ、大きな手が背中を撫で下ろして腰に巻きついた。

「……………」

ダメよ、ライドさん。ぷく、っと膨れて見せてから、ライドさんから身体を離した。

「ライドさんは女性に不自由してないでしょう? 私にそんなこと言っても本気じゃ無いのがバレバレよ」

ライドさんはくすっと笑って私から手を離したわ。

「俺の顔に何かついてた?」

「…ついてないかな、と思ったのだけれど、気のせいだったみたい」


テーブルの向かいでジェリーさんがため息をついたわ。

「本当に大物だよね…」

なんのことかしら。私はわりと小柄な方よ。

「ヨツバちゃん…」

おっと、いけない。マーサ先生がいらしたんでした。マーサ先生のため息は、少し胸に響くものがあったわ。

ごめんなさい、先生。はしたない真似をして。


「…それで、あなた方はこれからビースト退治を?」

マーサ先生に問われて、ライドさんが頷いたわ。

「ええ。なんとかしてコロニーを潰さなければ平穏はありませんし、可能性が低いとは言え、眼病根治の魔法石を見つけることを諦めてはいません。実はここを活動拠点にと考えていたのですが、今夜の、レイの街の被害で親を亡くした子供が何人かいるようですから」

レイの街を出るときに見た、テントに集められた子供たち…。

心細い思いをしているのでは無いかしら。

突然家族を失った子供たちを思うと、やりきれない気持ちになる。

マーサ先生も痛心に耐えないという表情になったわ。

「ええ。先程、保護の要請がありました。今空いている部屋は埋まってしまうわ。申し訳ないけれど」

「構いません。子供たちの方が大事ですし、ここはそのための施設ですから」


そうか。あの子供たち、このホームに引き取られるのね。

「マーサ先生。それなら私、ここから出るわ」

そうすれば、私が使っている部屋の分、ひとり多くの子供をここで保護することが出来るものね。

「ヨツバちゃん。でも…」

「私は大丈夫。先生たちのおかげで仕事もできるようになったし、ライドさんとの契約のおかげでお金も少しは貯まったのよ。アパートを借りるくらいは出来ると思うの」


そう言った私に、ジェリーさんが言ったわ。

「それなら、僕たちと一緒においでよ。ビーストを追いかけてのホテル暮らしになるけど、君には協力してもらおうと思っていたし、遠く離れたところにいたら君がビーストの情報を掴んでも退治しに行くことが難しくなるしね」

ジェリーさんたちと一緒にホテル暮らし?

たしかに、アリーさんみたいな相談があったとき、すぐに駆けつけてもらえなかったら困るわよね。

「だが、帰る家は欲しいんじゃないか?」

意外にもそう言ってくれたのはセスさんよ。

セスさんは真っ直ぐに私を見ている。表情には出ないけれど、心配して気遣ってくれているのが分かる。


そうね。帰ってほっとできる自分の家は、あった方がきっといい。本来ならね。

でも私、いつか元の世界に帰れるかもしれないわ。

時空の穴が元の世界につながる未来を、その場所を、見つけることが出来るかもしれないもの。


ビーストを追いかけて各地を移動する生活は、私にとっても都合がいい。


「ホテル暮らしで大丈夫です。よろしくお願いします」

椅子に座ったままペコリと頭を下げると、ぽんとライドさんが頭を撫でてくれたわ。

「じゃあ、決まり。とりあえず今夜の宿を取るけど、君はどうする? 部屋を空けるにしても荷物結構あるでしょ?」

「あ、いいえ。ものはほとんどありません。持ち物は着替えだけなのですぐに用意できます」

「………そう。なら、君の分も部屋を手配するよ」

「お願いします。支度して来ますね」


急いで部屋に戻って荷物をまとめた。

いつか帰るときのために、お金が出来てもモノは一切買わなかったから、着替え以外は本当に何もない。身だしなみを整えるために必要なヘアブラシや基礎化粧品だけ。それらを衣装ケースの代用として手に入れた旅行カバンに詰め込んで、準備完了よ。

このカバン、役に立ったわ。


さて、と。

床に座って少し考える。

急展開だけれど、ビースト退治の旅はいいと思うわ。

未来を見る力を役立てることができそうだし、元の世界に戻る手がかりも探せそう。


でも、私がマヨイビトだってことは隠しておきたい。

間違って守護者(セイバー)に祭り上げられたりしたら目も当てられないわ。ビーストから人びとを守る、なんて出来ないもの。


それに、もしそんなことになったら本物の守護者(セイバー)を見つける妨げになってしまうわ。


うん。そうよね。そうよ。

ああ。早く守護者(セイバー)が見つかるといいけれど。

それまでは、私がマヨイビトだってことはバレないように気を付けなくっちゃ。


さあ。あんまりライドさんたちをお待たせするわけにはいかないわね。

気合を入れて立ち上がると、荷物を持って部屋を出た。


お役に立てるよう頑張らないとね!


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