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第72話『決意と約束』

 自分は目の前の少女に恋焦がれている。


 それを自覚した以上、次に取る行動なんて決まっている。この胸の奥から湧き上がる想いを伝える――それ以外にない。


 花火に照らされた澄乃の端正な顔立ちを、雄一はじっと見上げる。もう花火なんて一瞥すらしなくて、感覚の全てを総動員して、たった一人の存在に意識を集中させていた。


 好きだと伝えたい。


 我慢なんてできそうにない。


 急ぎ過ぎだとか、周囲の目があるとか、そういった冷静な部分は瞬く間にしぼんでいき、燃えるような恋情だけが雄一の心を覆い尽くしていく。


「澄――」


「雄くん」


 果たして、雄一が自らの想いを吐露しようした瞬間、先に口を開いたのは澄乃だった。


 出鼻を挫かれて少し怯む雄一をよそに、澄乃は花火に見つめたまま、ゆっくりと先の言葉を口にする。


「私ね――一度、実家に帰ろうと思うの」


 ドン、と。


 花火の残響の中、その言葉は確かに雄一に届いた。











「実家にって……親に会ってくるってことか?」


 雄一の問いに、澄乃は緩やかに首を縦に振る。


「うん。夏休みで時間に余裕がある内に、会いに行こうと思うんだ」


「そう、なのか……。連絡ついたんだな」


 澄乃と彼女の親の折り合いが悪いことは、すでに雄一も把握している。具体的に何があってそのような関係になったのかはともかく、およそ一筋縄ではいかない問題であることも。


 引っ越してからこっち、お互い連絡を取り合うことはなかったと聞いているが、ようやく少しは状況が好転したということなのだろう。


 けれど雄一のそんな予想とは裏腹に、澄乃は首を横に振った。


「ううん。連絡自体はついてないんだ」


「え?」


「夏休みに入ってから何度かメールなり電話なりしてるんだけど、向こうからはちっとも反応無し。でも、もう立ち止まりたくないから……」


「だから直接……ってことか」


「うん、カチコミかけてきますっ」


「カチコミって」


 物騒な物言いに思わずツッコんでしまったが、案外それぐらい勢いがあった方が良いのかもしれない。小さく握り拳を作る澄乃は意外に元気そうで、そこまで気負っているようには見えなかった。


(……いや、違う)


 そんなわけが、ない。


 いわば澄乃は、自分のトラウマに立ち向かおうとしているのだ。


 気負わないわけがない。尻込まないわけがない。それでも必死に強がろうとしている。自分を奮い立たせるために。そしてたぶん……雄一に心配をかけないために。


「俺が力になれること……あるか?」


 その言葉は自然と口をついて出た。


 好きな人だから、というのはもちろんある。だがそれを抜きにしても、目の前の健気な少女のために何かしてやりたいと思う。


 こちらを見下ろしてぱちりと瞳を瞬かせた澄乃は、ややあってから口許に柔らかい笑みを浮かべた。


 心配しないでと、そう語りかけてくるように。


「大丈夫。別に付いてきて欲しいとか、そういうつもりで言ったわけじゃないの。ただ何と言うか……私なりの、決意表明って感じかな」


「……そっか」


 チクリと、ほんの少しだけ雄一の心は痛んだ。


 力になれないことを歯痒く感じる。澄乃自身がそれを望んでいるのは理解していても、心の片隅ではやり切れない想いを抱える自分がいた。


 もっと頼って欲しい――なんて思うのは、もしかしたら烏滸おこがましいのかもしれないけど。


 それでも、俺は――


「雄くん」


 氷嚢がどけられ、代わりに温かな手が雄一の額に触れた。いつの間にか痛みは引いていて、じんわりと沁み込んでくる温もりが心地良い。


「帰ってきたらね……伝えたいことがあるの。だからその時は、聞いてくれる……?」


 微かに震える声で、澄乃はそう尋ねた。


 そこで雄一は悟った。今の澄乃に必要で、自分が与えるべきもの――それは“信頼”だ。


 澄乃なら大丈夫だと、きっとやり遂げることができると、そう信じて背中を押してあげること。なら雄一の答えは、これ以外にないだろう。


「ああ、聞くよ。だから待ってる」


 ――伝えたいことなら、こっちにもあるから。


 今はそれを飲み込んで、雄一はさらに別の言葉を口にする。信じて、送り出すために、きっと彼女が一番望んでいる言葉。


「いってらっしゃい、澄乃」


「いってきます、雄くん」


 そう言って柔らかく微笑む澄乃。


 一際大きな花火に照らされたその笑顔は、とても幻想的で――まるで壊れ物のように儚かった。

 ここまでお読み頂きありがとうございます! これにて第二章『縮め合う距離』(しれっと途中で章タイトル追加しました)は終了となり、次回からは第三章となります。


 ここで一つお知らせですが、次の第三章は最終章となります。一応最終回までのストーリーはすでに出来上がっており、恐らく90話前後で終わる見通しです。まぁ、色々と欲が湧いて追加なりがあるかもしれませんが(プール回とかは当初は予定に無かったです。夏らしいことがしたかったんや……!)、少なくとも100話にはいかないかと思います。


 単純計算で残り18話。今のところ基本的に二日に一ページのペースで投稿してますので、あと一月ちょい。八月中に終わるかどうかぐらいですね。なろう初投稿の処女作なので、色々と至らないところはあるでしょうが、完結までもうひと踏ん張りしたいと思います!


 読者の方々にはあと少し、お付き合い頂ければ幸いです。ブクマや↓からの☆☆☆☆☆評価、感想、レビューなど頂けると励みになりますので、よろしければそちらの方もよろしくお願いしますm(_ _)m

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