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聖なる海を抱く大陸  作者: 壺中櫟
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青空の下にて

  青い青い空の下、見渡す限りの麦畑が、広がっていた。

  麦の色は、まだまだ青く、初夏の風に揺れている。

  そんな麦畑の一角に小さな村が、あった。

村の建物という建物は、粗末な木製であり、また、村そのものが麦畑より、やや高いところにあるため、村は、まるで緑の海に浮かぶ島のようだった。

いつもなら村人は、緑の海ならぬ麦畑に野良仕事に出て、汗を流しているのだが、この日は、違った。

村人達は、小さな村のほぼ中心に位置する広場に集まってい。た。人の数は、50人ほど服装は、地味なもだが、皆、汚れは、ない彼らにとっての晴れ着なのだろう。

村人の表情から、これから厳粛なものが、始まろうとしているのは、見て取れた。そして、それ以上にめでたいものが、始まろうとしているのも……。…

天の日(てんのひ)が、一番高くなった頃、一組の若い男女が、村人の中から、一歩、二歩、三歩と進み出てきた。ゆっくりと、ゆっくりと、踏みしめる大地を確かめるかのように。

進行方向に向かって 、男は右。女は左という位置で並び、立ち止まった。

二人が身に付けているものは、他の村人に比べれば 、よほど、あざやかで色とりどりだった。なにしろ二人が着ているものは、純白の生地で出来たものなのだが、その白い生地が見えなくなるまで、本物の花、花、花が縫いつけられているのだ。まるで花畑を身に付けているようだ。やり過ぎのように思えるが、貧しいこの村では、それが伝統となっていた。今日が、主役の新郎新婦のささやかな贈り物として。

新郎新婦の前に一人の少年が、立っていた。

新郎新婦も若いが、二人は十七、八才。少年は、せいぜい十五才。子供と言っても良い。左手には、大きく分厚い本が一冊。

 年齢も年齢だが、彼は他の村人とは、明らかに毛色けいろが違っていた。さらに言うと村人の中にも、もう一人混じっている。しかも少年以上に目立つ存在。新郎新婦の主役を奪ってしまうのではないかと少年は、密かに心配していたのだが、杞憂ですんでホッとしていた。

  少年は左手に持った本を左手の親指だけで開き、開いたページの右側に、まるでペンを持つような仕草の右手を近付けた。

 その瞬間である。少年の右手、そして開かれたページの両側が、ほのかに青白く輝きはじめた。

  今まで沈黙を守っていた村人達から、「おおっ」というざわめきが広がった。

 しかし、ざわめきは、すぐに収まった。結婚式が終わるまでは、沈黙を守る掟だからだ。立会人を除いて。

 その立会人である少年が、ゆっくりと口を開いた。

「新郎に問う。汝は、昼空ひるぞらに輝く太陽のように常に強くあることを誓うか?」

 それまで青白き光を驚眼差しで、見つめていた新郎が我に返った表情になり、頷く。真面目そうな青年だ。

 少年も応えるように頷くと、新婦の方を向く。

「新婦に問う。汝は、夜空に輝く月のように常に優しくあることを誓うか?」

 青白き光を美しい宝石でも見るような、うっとりとした表情のままで、新婦も同じような仕草で頷く。それなりに美しい娘である。

 少年もまた、頷く。そして、顔をやや斜めに上げると高らかな声で村人達に問うた。

「村人達に問う。汝ら真夜中に瞬く星々のように新婦新婦を常に優しく見守ることを誓うか?」

 村人全員は、無言のまま頷く。意義無し。皆、この婚姻に賛成といことだ。

 その様子を見て、少年は大きく頷く。

「よろしい。新郎新婦、村人達に太陽と月、星々の加護があらんことを」

 少年は、手にしていた本を静かに閉じた。

 結婚式は、無事終了である。

 少年は、安心すると同時に静かに息を吸いながら、村人に紛れ混んでいる相棒のことを思い出した。彼女は、少年の立会人の姿を見て笑いを堪えていただろう。


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