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優美に、滑らかに、哀れに

「ころしてやる……」


 ゼーマンを誑かすカルラータに煮え滾る殺意を抱き、殴り殺すには丁度いい大きさと硬さの枝があったのでそれを拾う。

 そして一目散に林から庭の方へと駆けていった。


 だが、ここで見えない壁にぶつかった。

 これは魔術による結界だ。


 庭に入るスレスレのところで足止めを喰らい中へ入れない。

 甘かった、屋敷を囲む壁があまりみられないのはこの為か。


 それでも収まらない殺意を胸に枝を振り回して結界を何度も叩く。

 だがそんなもので壊れるのなら誰も苦労はしない。


「うわぁあ!! うわぁあああ!!」


 無我夢中で叩き続けるもビクともしない結界の中で、ふたりの情事は更に激しくなっていく。

 ゼーマンはこちらに気付いていないのか、それとも結界の効果で彼だけ見えなくしているのか。


 最早無理矢理半裸状態にしたカルラータの肉体を昼の庭で堪能している。

 カルラータはか弱い女を演じてゼーマンの成すがままにされていた。


 時折こちらを挑発するようにほくそ笑みながら……。


(やめてよ……。ねぇ、そんなもの見せないでよぉ!! 返してよぉ!! ゼーマンに……汚い手で触らないでよぉおおお!!)


 結界を叩く力は肉体が悲鳴を上げても尚強まっていく。

 それこそ今後の活動に支障が出てしまうほどに。


「開けろ! 開けろ! 開けろォォオオオッ!!!」


 最早悲鳴にも等しい怒号を上げながら何度も叩き続ける。

 だが、その成果は虚しくふたりは情事を終えると屋敷の方へ行ってしまった。


 ゼーマンのあの自信と決意に満ちたあの顔が今でも脳裏にこびりついていた。

 心に深い暗闇が広がり、その中へと延々と落下していっているような気分にロクサーヌは脱力する。


「……嘘、こんなの嘘よ……そうよ、嘘よ。これは夢なのよ……」


 ブツブツとうわ言を呟きながら枝を力なく放って屋敷から去っていく。

 帰りはどうやって帰ったか覚えていない。

 馬に乗って帰ったのかそれとも歩いて帰ったのか。


 気づけば寄宿舎の暗い自室の中でふさぎ込んでいた。

 何人か声を掛けて気がするが誰がどうだったかもわからない。


 食事もとらずずっと引き籠る日々が続いた。

 レッスンにも顔を出せないほどのショックでなにもかもがどうでもよくなる。


 密かに付き合っていた彼が寝取られた……こんなこと誰にも言えない。

 ひとりで抱え込む内に1週間が経ち、また舞台に立つ日課が訪れた。


 舞台のひとつひとつが大事な大仕事。

 だがあのショックから立ち直れない彼女に降りかかるのは歓声と拍手による輝きではなく、更なる絶望への旋律だった。


 思うように歌えない。

 思うように踊れない。

 台詞が頭から飛んだ。

 挙句の果てには大勢の貴族達が観ている中で転倒。


 あれほどまでの輝きが嘘のように無様を晒した彼女の評判は一気に落ちた。

 当然これは王の耳にも入ることとなる。


 "祝宴の日の演劇はロクサーヌ以外の者を主役とせよ。"

 

 それが王のお達しであった。


 


(なんで……? なんでなの? 私、一体どうしちゃったの? どうしていつもみたいに出来ないの? 出来なくなっちゃったの?)


 全てが絶望にのまれていく中、ふとあの光景がよみがえる。

 発情したあのふたり、全てを破壊したあの女。


 憎い、――――全てが憎いッ!!


 だが、無力な彼女に出来ることはなかった。

 というのもカルラータの行動があまりにも早かったからだ。


 カルラータは黒魔術師の力を借りて様々な人間の心を操っていた。

 国王一座の支配人やそれこそ魔術師達を統括する貴族も全て。

 

 最早王国の大半に彼女の魔の手が広がっていた。

 そんなことは露知らず、嘆き悲しむ日々を過ごすロクサーヌ。


「ゼーマン……お願い……帰ってきて。……もうアナタしかいないの……アナタの為だったらなんだってする。だからお願い……私の元に帰ってきてぇ……」


 締め切った部屋の中でロクサーヌはひたすら祈り続けた。


 だが、ついにカルラータの魔の手はロクサーヌへと伸び始めていた。




「さぁて……この国もあらかた掌握したことだし。最後の仕上げと行きますか。――――アイツを地獄へ送らなくちゃ……ね?」


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 魔剣使いの元少年兵は元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい

最新作です! スローライフをテーマにした物語です
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