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軋みを上げるロクサーヌの運命

 結婚を誓ったあの日から数日、ロクサーヌは更なる活躍を見せる。

 なんと我が国の王が主催する祝宴で一座による演劇を行うこととなったのだ。


 祝宴の日は6ヶ月先。

 それもこれもロクサーヌの存在が大きい。

 新しいドレスに新しい化粧、新しい台本に新しい後輩達。


 とてつもないプレッシャーの中でもロクサーヌの心は依然変わらず燃えていた。

 自分はゼーマンを心から信じている、だから恐れるものはない。


 今まで通りやっていけばいいのだと意気揚々として一座の新星であり続けた。


「あぁらロクサーヌ。そろそろレッスンを切り上げて休んだ方がいいんじゃない?」


「カルラータ……そうね、そうするわ」


「ふふふ、アナタは今や皆の憧れ。あーあ、先越されちゃったなぁ」


「カルラータだって魅力的よ。私アナタが輝く舞台を見てみたいッ!」


「ありがとロクサーヌ。……さて、私は少し用事があるのでこれで失礼」


 そう言って踵を返しそそくさと立ち去るカルラータ。


(私の輝く舞台を見たい? えぇ、えぇ。見せてあげるわよ。――――地獄の底でなぁッ!!)


 苛立ちと嘲笑の入り混じった心情を隠しながらいつものように美しい微笑みを浮かべながら廊下を歩く。

 そして服を着替えるや劇場の裏口から出た。


『やれやれ、儂を待たせるとは……』


 裏口のすぐそばにあった聖人の石像に一匹の烏。

 町娘のような格好のカルラータを石像の上から睨み下ろしていた。


 黒魔術師が目立たぬように変化の術で化けているのだ。

 自分のような存在がそのままの姿で入り込めばたちまちここの魔術師共に察知される。


 これが今できる最善手だ。


「女の支度は手間取るモノなの、特に私のようなスーパースターはねッ!」


『わかったからさっさと行くぞ。――――しかし、やけに遠回りなことをするな』


 黒魔術師は近くを飛びながらもカルラータに着いていく。

 カルラータが向かったのはゼーマンの家。


 かつてロクサーヌと彼が愛を誓い合った場所。

 そこに思いっきり乗り込むッ! ……わけではなく。


「ふふふ、見つけたぁ」


『貴様この間もここであの男を覗き見ておったな。なにをしておるのだ?』


「見てわからない? ……あの整った顔立ち、まさに私好みの男よ」


 カルラータは舌なめずりしながら家から出て絵を描く為の道具を持ってどこかへ行こうとする彼を追う。

 

 ロクサーヌが密かに付き合っていた男。

 これをばらすだけでも世間は騒ぐだろう。


 これをネタにロクサーヌを脅すことも出来る。

 だがそんなものでは心が満たされることはない。


 ――――破壊だ。

 ロクサーヌの持つ栄光全てを破壊するには全然足りない。

 そしてその上に自らの栄光を築き上げるのだ。

 

 しかしその過程の中でとんでもないお宝を見つけた。




 ――――カルラータはゼーマンに一目惚れした。


 ロクサーヌと愛を誓い合った男と知ったときからどんな男かは気になっていたが、あれは中々の上玉だ。

 自分が権力を持った後見栄えさえ良くすれば更にいい男になるだろう。


 なにより芸術家であるというのがカルラータの心を捉えた。

 


「黒魔術師……早速だけど彼を私のモノにするわ」


『それは貴様の計画の内か?』


「勿論よ。もしどうでもいい男ならソイツごと破壊してやる所だけど。ほら見て、あの人……いえ、あの御方の姿を。あのスラリとした体躯なのにどこか逞しさを感じる肉質、そしてなによりあの顔ッ!」


『あー、もうよい。それでどうするのだ?』


「任せて、お芝居は得意なの。今からその手筈を言うからアナタはその通りに動いてね」


『いいだろう』


 こうして黒魔術師はカルラータの策を聞き入れ行動に移す。

 まずは最初の段階、カルラータは絵画が趣味な女として振る舞い近づいた。


 こう見えても絵画には明るい、ゼーマンとも話を合わせられるだろう。




「あら……もしかしてアナタ、画家を目指しておられるのですか?」


「え? ……あぁ、はい。まだまだですけどね」


 王都の公園で散歩している風に見せかけ、椅子に座りながらキャンバスに絵を描くゼーマンに話しかける。

 町娘の格好から少し貴族めいたお洒落な恰好で着飾り、ロクサーヌよりも大きい胸を強調するように胸元を開けておくことも忘れない。


 早速手応えあり。

 ゼーマンが振り向いた直後、胸元を見て赤らめたのを見逃さなかった。

 

 恥ずかしそうにしながらすぐさまキャンバスの方へ顔を向けるゼーマン。

 動揺して集中力が乱れている様にゾクゾクと感じ入るものがあった。



「あらあら、画家でしたら裸の女性を描くこともあるでしょうに。……意外と初心なのですね」


「あ、あはは。裸婦は描いたことがなくて……いや、ダメなんだろうけど」


「ふふふ、いいえそのようなことはありません。……ねぇ、少し見せていただける?」


 そう言って座っている彼の背後に身を寄せ、覗き込むように絵画の出来を見た。

 ――――思っていた以上に良い。


 カルラータもまた彼と彼の絵画に魅了された。

 ますます手放したくない。


 繊細な筆使いからなる独特なタッチで描かれた風景画。

 彼の絵には人がいない、とても静かで寂しい感じがしたがそれがまたよい味を出している。


 他にも画家の男は知っていたが彼ほどの才はなかった。

 これは逸材だ、まさしく自分の伴侶に相応しい。


(ますます大当たりね。こんなイイ男をロクサーヌに渡すなんて出来ないわ)


 先ほどから自分の胸や顔にチラチラと目線を感じる。

 彼の呼吸と鼓動そして心の乱れが手に取るようにわかった。


「あ、あの~、……もうよろしいでしょうか?」


「……えぇ、ごめんなさい。アナタの絵を見せてもらいましたけど……大変素晴らしいわ。アナタはもっと画家としての輝かしい人生を歩むべきよ」


「え、あ、あはは、ありがとうございます。……あの~、一体アナタは何者なんです?」


「私? ……―――アナタの"大ファン"の女よ」


 そう言って情欲で燃え上がった瞳でゼーマンを見つめた。

 彼は生唾を飲み顔を赤らめながら頭を掻いている。


 印象付けはばっちり。

 このまま時間をかけて彼に自分を馴染ませていく。


 最初はロクサーヌとの関係で思い悩むだろう。

 だがそれも計画通り、だから焦らない。

 

 時間はあるのだ。

 じっくりたっぷり自分の色に染めていけばロクサーヌのことなどすぐに忘れる。


 ロクサーヌは舞台で忙しい、前のようにしょっちゅう会えない。


(安心してロクサーヌ。私が全部やったげる。……舞台で輝くアナタの代わりに私が全部彼の全てを引き受けてあげる。……そして最後、アナタは地獄へと落ちることとなるの。天国のような日々を過ごす私達を見ながらねぇ!!)

 

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 魔剣使いの元少年兵は元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい

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