カルラータへの復讐の前日
祝宴の日前日。
その有り余る才能で披露される演劇の内容や動きまでを全て把握したロクサーヌは、地下空間のベッドで仮眠をとっていた。
それにしても国王一座の内部事情はかなり酷いものだった。
ベルジュラックが暗闇に紛れ人影に紛れでの諜報で仕入れたのだ。
黒魔術師を倒したとはいえ彼が仕掛けた術が消えるわけではない。
その影響でカルラータは支配人クラスの扱いを受ける云わば国王一座の女王として君臨していた。
団員や関係者に対して怒鳴り散らすこともしばしば。
ときには戯曲の内容にまでケチをつける有り様。
ロクサーヌが舞台にいたときには考えられない状況だ。
「……んっ」
仮眠から目覚めて身体を起こす。
ベッドの傍にはベルジュラックが控えており、水と簡単な料理を持ってきてくれた。
料理すらも簡単にこなす彼に感謝の念を抱きつつ少しずつ摂取していく。
「よぉ、目ぇ覚めたか」
「うん、久々に寝たからちょっとすっきりした。ホント丈夫になっちゃったのね私」
「まぁアンタにとっちゃ驚きだろうが、オレはコイツが多才過ぎることにビックリしてるよ」
「お料理だけじゃないわ。裁縫にお化粧にあとお掃除も出来るって」
「なんだこの女子力の高さは。オレこんな風に作った覚えねぇぞ?」
小首を傾げながらアルマンドは古びた椅子に座る。
するとベルジュラックが彼女の方へ歩み寄り、ワインボトルとワイングラスを取り出して上品に振る舞った。
「ほう……年代物か」
アルマンドがワインに舌鼓をうつと、彼は執事のように頭を垂れてから離れる。
一体どこでそんなものを覚えてきたのだろうか。
「この子将来有望ね」
「ただしアンタと一心同体な。……さて祝宴は明日になった。準備はもう出来ているのか?」
「えぇ勿論。今日はゆっくり休もうかなって思うけど……最近魔物が増えてきてるしまた今夜あたりにね」
「まぁた行くのか。別にいいけどよく飽きないよな」
ワインを堪能しながら気怠げに答えるアルマンド。
「最終調整のひとつよ。ここ最近演劇の練習ばっかりで行けなかったから」
「真面目だねぇ。まぁ好きにやんなよ。オレは明日が楽しみでならないよ」
クツクツと嗤うアルマンド。
とうとう明日に迫った運命の日。
ここまでこれたのは彼女のおかげだ。
アルマンドが力をくれなければきっと今頃ドブネズミ達の餌だった。
「あぁ礼はいらないよ。アンタがその格好してくれるだけでかなり満足してるし、うん」
前言撤回。
やはり一度だけでもいいから殴っておくべきだった。
「出来ればその格好で街中歩いてくれりゃあなぁ。んでラウルに見せるの」
「するわけないでしょバカ! っていうかなんでラウルが出てくるの!?」
「あれ? 会いたいんじゃないの?」
突然言われてロクサーヌは顔を赤らめ口をつぐむや、身支度を済ませてさっさと行ってしまった。
ベルジュラックはなにも言わず彼女の後を追う。
ひとり地下空間でワインを堪能するアルマンドはしたり顔で見送った。
「あんれまぁ照れちゃって。……前のダーリンにこっぴどくやられたからトラウマかな」
その後カルラータは地下空間へは戻らず、調整の為魔物狩りをずっと行っていた。
それは夜遅くまで続き、村を襲うゴブリンを討伐して、ようやく王都へと戻る。
「ここまでくればもう後戻りは出来ない。いいえする気もない。カルラータ、アナタは私を貶めて野望を果たす為に怪物になった。……私もそうよ。明日の祝宴の日に決着をつけましょう? もうお互い後戻りは出来ないのだから」




