期待の新星、ロクサーヌ
緑豊かで海の加護にも愛されたヴィヴァーチェ王国。
この美しき王国には、貴族すらも羨むほどにまで綺麗な巨大劇場がある。
今、その舞台にてひとつの幕が上がっていた。
国王一座で今一番の注目の的。
名を『ロクサーヌ』、21歳。
持ち前の美貌と才能で一気に頭角を現した若手歌手。
黒く長い髪と白く艶やかな肌、そしてアメジストのように輝く瞳。
長年の夢であった主役での舞台に立ち、拍手喝采の中で舞台の成功を飾る。
観客の貴族達は彼女の歌や演技、そして美貌に賛辞を贈った。
「すごいわロクサーヌ! 舞台のアナタとても輝いていたッ!」
「ロクサーヌ、君はこの国王一座の誇りだ」
「ありがとうございます! 私、ようやくここまで……ッ!」
舞台後、一座の皆からも賛辞を贈られて感極まる。
小さな頃から憧れた世界で自分が必要とされていることが嬉しくてならない。
さて、明日からもまた舞台だ。
寮へ戻り身体を休めるべきなのだろうが、ロクサーヌにはどうしても行きたい場所がある。
馬車を走らせ城下町の端の方にある小さなアトリエで止める。
ここに以前から愛しく思っている人がいるのだ。
「ゼーマン! ゼーマンいる!?」
「あぁロクサーヌ、ごめん今開けるよ」
扉が開くとボロ着の青年が出てきた。
彼は『ゼーマン』といい、歳は25。
有名な画家になる為に日雇いの仕事をしながら絵を描いている。
実際彼の絵は素晴らしく、ロクサーヌは初めて出会ったときにその素晴らしさにときめいたほどだ。
だが現実厳しく絵は売れず日雇いと想い人であるロクサーヌの稼ぎから少しずつ分けてもらい食いつないでいる。
「聞いたよ。今日の舞台大成功だったって?」
「ありがとう。私あんなにも嬉しかったのは生まれて初めてよ」
「僕も早く立派な画家にならないと」
「アナタはすでに立派な画家よ。皆流行りの絵に流されてるだけでアナタの才能を全然わかってないだけ。……ハイこれ。パンとチーズ、あとハムもあるわ」
いつも悪いね、とゼーマンは申し訳なさそうに笑う。
ロクサーヌはゼーマンを心から愛し応援していた。
ひたむきに頑張る彼を見ていると、自分ももっと頑張らなくちゃと元気づけられる。
彼の元へ行ける日があれば、それが雨の日でも風の日でも訪れ少しでも足しになるようにと尽くした。
きっとゼーマンは立派な画家になる。
それこそ歴史に名を残すような存在に。
ロクサーヌは舞台でもっと活躍することの他に新しい夢も抱いている。
ゼーマンと生涯共に支え合って生きていくこと。
それだけでロクサーヌの世界は輝いて見えた。
舞台の光は天使の微笑で彼との出会いは主の御導き。
自分の人生の道はあまねく加護で舗装されている。
明日の公演が終わるまでは……。