新たな力、そして……あの衣装
ベッドの周りには見たこともないようなものばかり。
舞台装置以上に造りこまれた物体が所狭しと並んでいた。
魔術師の工房はこれに近いと聞くが、実際見るのは初めてだ。
「オレのを魔術師のソレと一緒にすんな。あぁいう連中の技術よりも何千年も先行っとるわ」
「う、うん。……でも良くこんな場所に作れたわね」
「……あれ知らないか? ここ、国王一座が使ってる劇場の地下だ」
「そうなの!?」
知らなかった。
ずいぶん遠くまで流されたとは思っていたが、劇場の地下にこれほどまでの空間があるとは思わなかった。
まるで運命が再びロクサーヌを招き寄せたかのよう。
全ての思い出が詰まった劇場に今は誰にも知られずに、過酷な現実に囚われている。
「ここから聞こえる音楽、……嫌いじゃない」
「でしょう? 国王一座と劇場はこの王国で最も夢の詰まった場所。……女の子なら誰もがあの舞台に立つことに憧れを抱く。アナタも立ってみたら? プロポーションとか良いんだし、きっとすぐに演じれるわよ」
「ハハハ冗談。オレの舞台はもっと広いのさ」
そう言って装置をいじりながら軽く笑って見せる。
空気が唸るような音を立てながら装置は作動し、ロクサーヌに未知なる光景を見せつけた。
まるで別の世界に飛ばされて来たのではないかと思うほどにこの空間に広がる光景は異質だ。
しばらくするとアルマンドは装置から出された小瓶を取り出すとこちらに歩み寄ってくる。
小瓶の中には黒い霧のように揺らめく液体が入っている。
「……あの、これは?」
「これがアンタの復讐道具だ。アンタに最恐のパワーをもたらす」
そう言って手渡されるとロクサーヌはまるで吹雪に見舞われたかのようにその身を震わせた。
こうして触っているだけで魂の奥底まで寒気に覆われる。
化け物を身体に宿す。
化け物を我が子として共に生きよ。
それが復讐の方法。
「安心しろ、飲むだけでアンタは力を得られる。苦労したんだぞ? ホントは陣痛並の痛さが体中に流れ渡るってんだから」
「ひっ!?」
「大丈夫だってオレを信じなさい。ワイン飲むみたいにスッと効果が出るさ」
「ホントに痛みはないのね?」
「インフォームドコンセントは重視してるつもりだ。聞きたいことあったらジャンジャン言え」
その他の山のような質問もアルマンドはすんなり答える。
途中からめんどくさくなっていたのは目に見えてはいたがそれでもしっかりと受け答えしてくれたのはありがたい。
「じゃあ、飲むわね」
「ロクサーヌちゃんのぉーちょっとイイとこ見てみたーい、ぱーりらーぱりらぱーりらふーふー!」
「……」
「……ごめん、普通に飲んで、どうぞ」
ロクサーヌの無言の圧力に凄まれ引き下がるアルマンドを横目に、彼女はついに小瓶の蓋を開け中身を飲み干す。
臭いや味はしない、水を飲んだときのような爽やかさの中で自分の身体を様子を見てみた。
「……――――ねぇ、これで終わり? 私変わった?」
「あぁこれで終わり。これでアンタは復讐の力を手に入れた。――――その証拠に……ほれ、左腕の断面みてみ?」
言われた通り見てみると、左腕に妙な黒い霧らしきものが漏れ出ていた。
それらは宙に漂うようにして左腕の断面に張り付いている。
「凄い……なんだか力が溢れてくる」
「だろう? ……よし、その左腕から化け物を出してみな」
やり方はなんとなくだがわかる。
念じて外へと『彼』を送り出した。
するとすぐ隣に黒い霧がヒト型の巨大な影が現れる。
どこか輪郭が不定形で黒い霧のように揺らめいている。
顔と思わしき部分には牙の生えた大きな口と4つの狂気に染まった緑色の目。
2mは越すだろう細身の体躯で腕は長く爪は剣のように鋭かった。
彼は小さく不気味な唸り声を上げるや、ロクサーヌの方に視線を移す。
不思議と恐ろしさは感じなかった。
まるで我が子のように愛おしくもあり、相棒のように頼もしくもある。
「これはアンタの憎悪を基に創り出した化け物だ。ただ憎悪だけでは心許なくてな……色んな魔物やら知識やらをふんだんに使わせてもらったよ。……とどのつまり、自らの体内及び精神状態で生み出せるバイオウェポンだ」
巨大な影はロクサーヌに膝まづく。
王に忠誠を誓う騎士のように頭を垂れ命令を待っているのか。
「……どうだい? 名前のひとつでもつけてやったら? これはアンタの分身でもありアンタの子供でもあるんだ」
これが、自分の生み出した子供。
自らの胎盤から生まれ出でた憎悪の怪人。
――――いや、2人で1人だ!!
この巨大な影と自分、2人合わせて憎悪の怪人なのだ。
となればいい名前を付けてやらねばならない。
なにがいいだろうかと思った矢先、ふと戯曲での記憶が蘇る。
……決めた、この子の名前は――――。
「――――"ベルジュラック"。それがアナタの名前よ」
ベルジュラックと名付けられたこの化け物は嬉しさの表現として、勢いよく立ち上がり咆哮を上げる。
雄々しくも邪悪なその姿にロクサーヌは"光"を見出した。
最高の力を手に入れた、この力なら奴等を叩き潰せる。
「そうだ。……おまけといっちゃなんだが、アンタの身体能力もかなり向上してるはずだ」
「え? そうなの? 確かに力が溢れてくるような感じはするケド……」
「まぁそれは追々わかるさ。――――そしてこっからが一番大事な所だ。これに全てが掛かっていると言ってもいい」
「全てが……? 教えて……どんなことだってするわ!」
決意を秘めた瞳でアルマンドを見る。
その言葉に満足したかのように目の前の魔女は嗤った。
「――――衣装だ」
「……」
「いやだから衣装。そんな恰好で動き回られてもオレがつまらん!! ……安心しろ、最高のコスチュームを用意した」
「……え? それって大事なこと?」
「当たり前だ、オレが関わる復讐はオレ自身がまず楽しくなくちゃダメだ! オレがルールだ! さぁ来いコラ!」
無理矢理引っ張られ、その衣装を見せられる。
黒のマントにシルクハット。
黒を主とした露出の多めのジャケットに、下はショーツのような出立。
そして足を包むサイハイブーツ。
あまりのセンスにロクサーヌは別の意味で絶望した。
なぜ魔女の愉悦の為にこんな衣装を着なければならないのか。
「安心しろ……絶対似合う。絶対似合うから」
満面の笑みをロクサーヌに向ける。
改めて魔女というモノが如何に糞のような存在かを理解した瞬間であった。
(コイツから先に殺してやろうかしら?)
「ほーら着ないとその力取り上げるぞー。着-ろ、着ーろ!」
「……わ、わかった、わよぉ!!」
申し訳程度に吊るされたカーテンの中で着替えを始める。
恥ずかしさのあまり死にそうになりながらも、その裏で復讐を固く決心した。
必ず奴等をぶちのめしてやる、と。




