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ファントム・オブ・ヴェノム -The Beginning-

 アルマンド……。


 彼女はそう名乗った。

 そして自分の身に起こったことを把握していたのだ。


 魔女。

 魔術師の中でも異端に異端を重ね上げ辿り着いた境地に立つ者の総称。


 このワードを聞いたとき、ある都市伝説を思い出した。

 『劇場の地下には恐ろしい魔女がいる。ゆえに誰も地下へ行ってはならない』と。


 国王一座に入ったとき、先輩にこんな話をされたことを思い出す。


 しかしイメージとはだいぶ違う、この魔女はかなりガサツでフランクだ。 

 とはいえ怪しいことには変わりないが、今はこの女の話に乗ってみるしかない。


「ぁ……あぁ」


「ん? オイ、どうした? ……あぁ、まぁこんな状態だからな。いいだろう、話は目覚めてからだ」


 ロクサーヌの意識が遠のく。

 視界はぼやけ褐色肌の彼女の姿も薄っすらと消えていった。


「……やれやれ、まずは止血とベッドと……」


 アルマンドはロクサーヌをひょいと抱えてこの地下空間の奥へと進んでいく。

 



 ――――ある夢を見た。


 それは幼い頃から憧れた舞台。

 そして何度も失敗を繰り返しながらも舞台に立って輝くことを夢見た年頃。


 15歳を過ぎてもずっと夢見続け、そしてこの歳になってついに叶えた。

 だが、輝きなどほんの一瞬で後は暗い闇の中。


 2人の人物に裏切られた挙句殺されかけ、自分は深い深い闇の中へと貶められたのだ。

 もう決して光の中へは戻れない地獄への道へ……。



「ん……ッ、今のは……」


 ロクサーヌは目覚める。

 ベッドの上で寝かされており、身体には治療の痕がある。


 抉られた脇腹はまるでなにごともなかったかのように治癒しており、暴行の痕も完全に消えていた。

 ただひとつ、失った左腕のみを残して。


「いよう、目覚めたか。……ある程度の治療はしておいた。点滴もしたし回復の魔術もかけておいた。これでアンタは全快だ」


 テンテキ……? というのがよくわからないがとりあえず自分は助かったらしい。

 だが左腕が治らなかったのは残念だ、回復したはいいものの更に心に傷を負う。


「オイオイ本命はこっからだぜ」


「え?」


「復讐したいんだろ? だったらオレの検証に協力する気はないか?」


 検証とは?

 確かに復讐はしたいが検証とはどういうことだろうか。


 話が読めない。

 彼女は自分になにがしたいのだろう。

 そう思うと不安がみるみるうちに心を黒く満たしていった。


「どういうことなの? ……検証って私をどうするつもり?」


「……力、欲しくないか?」


「そりゃあ、欲しいけれど」


「今のカルラータのバックにはかつての魔王の部下である黒魔術師がいる。奴等は互いに契約を結んだ」


「そ、そんな! じゃあゼーマンも……?」


「アイツは心を完全にカルラータの方に入れ替えたよ。……因みにあの橋の件から5日経ってるが、アンタは凶悪な殺人鬼に腕を切り落とされて拐われたって筋書になってるよ。せめてもの慈悲で悲劇の女優として幕を下ろさせたみてぇだ」


 あまりの現実に放心する。

 あの出来事は完全に不幸な事件として処理されたのか?


 となれば今の自分は死人同然。

 最初から希望など存在しなかった。

 そう思うと涙が溢れ出て嗚咽が漏れる。


「このままいけばカルラータと黒魔術師にこの王国を乗っ取られ、裏から支配されることとなる。そしてカルラータは今主演女優として舞台で頑張ってるよ。勿論、黒魔術師の魔力で補正をかけてもらって自分が王国一番の女優になるようにな」


「そんなのバカげてるッ! ゼーマンは私を裏切って……カルラータが私の代わりに!? そんなの……酷い、酷いよぉ……」


 またもや泣き出すロクサーヌにアルマンドは歩み寄りベッド端に座る。




「――――……だから今オレがいる」


「アルマンド……」


「選びな。このオレの検証に協力するってんなら力を与えてやる。嫌だったら、このまま立ち去ることだ。これはアンタにとって人生最大のチャンスだ」


「チャンス?」


「世界は報復の意志と慟哭の念で満ちている。……オレは色んな世界の中で様々な理由で悪に墜ちた奴を見てきた。大抵の奴等が力や権力によって地獄へ落とされた連中さ。……オレはそういう奴等と関わって色々手助けしたりちょっかいかけたりするのが楽しくてな」


「……私をどうするつもり?」


「簡単だ。……ある検証データをもとに開発した力をアンタに付与する。以前オレが関わった奴は人間と邪竜その他生命体のハイブリットとして生まれ変わった奴がいてだな……」


 即ち人間から化け物になった。

 ロクサーヌはギョッとして思わず掛布団を握りしめる。


 化け物になるなんて嫌だ。

 醜い怪物だなんて……。


「まぁ落ち着けや。……そのデータ収集の中で様々な検証方法が浮き出てきた。人間と他の生物との魂を融合させたり出来るってことは、それなりの応用が利く」


「応用? ……化け物にならなくていいってこと?」


「正確には自分の中に化け物を宿すって方法だ。例えば、その斬り裂かれた左腕とかにな」


 思わず左腕を見る。

 存在しないはずの左腕が一瞬強張ったようかな感覚がした。


「どうだ? 検証である以上ちゃんとこっちからのフォローはしてやる。カルラータが黒魔術師をバックにしているようにアンタもオレをバックに復讐に乗り出す。……嫌なら構わない、オレは他の奴を探す」


 正直言ってこの女の言うことは要領を得ない。

 ただ自分を恐ろしい実験の材料にしようとしていることは確かだ。




 だがそれがどうした?


 元々死人同然の身、この身体に残されているのはかつてのロクサーヌの残滓。

 舞台を愛しゼーマンを愛したロクサーヌは死んだ。


 ロクサーヌは拳を握りしめる。

 そして覚悟を決めたように彼女に向かって力強く告げた。


「お願いアルマンド。私に力をッ! 奴等が私の全てを破壊したように……私にも奴等を破壊する力をッ!!」


「オーケイ、契約成立だ。安心しろ、最高のパワーをアンタにくれてやる。その代わりオレを楽しませてくれよ?」


 アルマンドとロクサーヌは互いに手を取り合う。

 これはきっと神の教えにすら背く悪の法なのだろう。


 だが、今は神より更に力のある存在へと付く!!


 これが最善手だ。

 煮え滾る憎悪カオスが奴等の築き喘げた秩序を破壊していく。


 ロクサーヌはこの日から無情の鬼になることを決めた。


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 魔剣使いの元少年兵は元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい

最新作です! スローライフをテーマにした物語です
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