プロローグ ーファントム・オブ・ヴェノムー
ヴィヴァーチェ王国王都。
そこはある人物と邪悪なる魔術師によって支配されたかつての芸術の都。
ある日、黒魔術師の術によって召喚されたゴブリンの群れがある村を襲う。
そのある人物が不要と感じた村を襲っているのだ。
かつて存在した魔王は勇者によって倒されたはずにも関わらず、魔物達が横行する時代へと逆戻りした。
その激動の中で、――――憎悪は生まれ出でた。
美しい肉体に激しい感情を宿し暗闇の中を駆けていく。
「きゃああああッ!!」
村から悲鳴が上がる。
ゴブリン達の群れが村の家々に火をつけ人々を嬲り殺しにしようとしていた。
「ぐわぁッ!!」
「ぎゃあああッ!」
ゴブリン達の下卑た笑みと振るわれる武器によって次々と殺されていく。
そんな中で村の女達を一か所に集め、今まさに慰み物としようとゴブリン達が詰め寄っていた。
「だ、誰か……助けて……ッ!!」
「ギギ……ッ!」
下卑た笑みのまま女達に襲い掛かった。
だが、突如その女を守るかのように巨大な影が現れる。
それはヒト型にも見えるがどこか不定形で黒い霧のように揺らめいている。
顔と思わしき部分には牙の生えた大きな口と4つの狂気に染まった緑色の目。
2mは越すだろう細身の体躯で腕は長く爪は剣のように鋭かった。
「■■■■■■■■■――――ッ!!」
巨大な影は天に向かって吠えるやゴブリン達をその腕で薙ぎ倒しながら蹂躙していった。
ゴブリン達は臨戦態勢に入るが相手の圧倒的な猛攻に手も足も出ない。
「ギギギギャッ!!」
リーダー格らしきゴブリンが指揮をとり退却しようとした次の瞬間、月明かりが突如影に阻まれる。
黒のマントを翼のようにはためかせた女が宙から舞い降りてきてゴブリン達の前に着地した。
揺らめく黒のマントにシルクハット。
黒を主とした露出の多めのジャケットに、下はショーツのような出立。
血濡れたサイハイブーツが土を踏みにじりながら前へ出る。
黒く長い髪と白く艶やかな肌、そしてアメジストのように輝く瞳。
そしてなにより特徴的なのが、彼女には左腕がない。
あの巨大な影のようにそこから黒い霧のようなものが漏れている。
「ギギ、ギッ!」
ゴブリン達がその女性に襲い掛かる。
斧を振るい棍棒を振るい鋭い爪を立てて、殺意をまとった攻撃を放った。
「……ふん」
女性はそれらを軽い足取りで躱していく。
それは宛ら舞台の上のダンスのように軽やかでエキゾチックな動きだ。
彼女の繰り出すは足技。
ヒール部分が更に凶悪な威力を増してゴブリン達をなぎ倒していく。
カポエイラのようにアクロバットに、そして輪舞のように美しく。
その身体能力は先ほどの巨大な影と引けを取らない。
彼女の身体に掴みかかってもまるで赤子の手を捻るよう。
「死になさい」
足を大きく高く広げての踵落とし。
その威力は尋常ではなく、地面にクレーターを残すほど。
後ろからはあの巨大な影が雄叫びを上げながら迫り、前からは謎の美女が華麗な体術で嬲り殺しにしてくる。
あれほど優勢を誇っていたゴブリン達はあっという間に劣勢を通り越して、壊滅にまで追い込まれた。
辺りにゴブリンが殺した村の男達と女性と影が殺したゴブリン達であふれかえった。
「取りあえずは全滅、ありがとう。もう戻っていいわ」
先ほどとは違い優し気な声で巨大な影にそう言うと、影は素直に霧散し彼女の左腕の断面の方へと入っていった。
残った村の者達は恐ろしい物を見る目で彼女を見つめる。
「……さて、ウォーミングアップはこれくらいでいいわね。――――いざ、我が復讐の舞台へ」
そんな目線など気にせず、女性は高らかに笑いながら超人的な跳躍の元、王都へと去っていく。
復讐。
彼女はかつて、ある人物とその邪悪な黒魔術師に全てを奪われた。
そしてもうひとり、忌まわしい相手がいる。
彼奴等に復讐する為に自らを"怪人"とした。
この力で全てを終わらせてやる。
私の全てを破壊した連中全てを、今度はこちらが破壊するッ!!
これはある出来事によって復讐の道へ進んだ"ある女性"の物語である。