その7 スキップ
「どうしたんだい、今日は。何も言わないで」
「えっ?」
「いつもと違うじゃん」
「……」
「……」
「ねえ、さっきの子。あの子でしょ」
「えっ?」
「あなたが最近ちょっかい出しているって」
「ちょっかい?」
「そ。図書室のあの子。あなたをかくまったりして……」
「わかってったん?」
「あたりまえでしょ。図書室に入ったのは見てたんだから」
「あっちゃあ。人が悪いよ。相変わらずだなあ」
「あら、感謝してもらいたいんだけど?せっかく、あの子が合わせてくれたのに、いきなり見破っちゃ可哀相じゃない?」
「それにしても、『ちょっかい』はひどいなあ」
「違うの?」
「……」
「ねえ?」
「……違わない、……と思う」
「本気?」
「うーん、よくわかんないな、いまんところは」
「それってサイテーじゃない?」
「いや、仲良くしたいとは思ってるさ。でも、その先となるとな……」
「向こう次第ってこと?」
「うーん……」
「あの子が本気になっちゃったら、どうするの?冗談じゃすまなくなるわよ」
「うーん……」
「だいたい、もうそれっぽいしね。知らないわよ、どうなっても」
「ま、そんときはそんときで考えるさ」
「ほんとサイテーなんだから」
「意外と真面目に考えてはいるつもりなんだけどな」
「どうだか」
「ほんとさ」
「まあいいんだけどね。それにしても……」
「?」
「生意気そうな子ね」
「おまえがそれを言うかあ?それに、むこうだって、そう思っているんじゃないか」
「だからよ」
「?」
「それに、たぶんあの子、私達のこと誤解してるわよ」
「はあ?」
「にぶいわね、ホントに」
「えっ、もしかしてオレらのこと?」
「っそ」
「ちっ。……そうかあ。まずいなあ。……って、あれ、もしかして?」
「……」
「わざとか、名前出したの?」
「正解。これは早かったわね。」
「悪魔だな、おまえ。ほんと、根性が曲がっているというか……」
「あら、あなただって相当なものでしょ。あんな子、毒牙にかけようってんだから」
「ちょっと待て。それは語弊があるぞ」
「結果的には変わらないと思うけど?」
「そんな素直に毒牙にかかるような子に見えたか?」
「それもそうね。どちらかというと、あの子のほうが毒を持っていそうだし」
「だろ。結構苦労してるんだよ、これでも」
「でも、すぐに飛びついてきた感じだったから、不思議と脈あり、なのかもね」
「おまえの言うことは当てにならんし……。というか、初対面の子にいきなり罠仕掛けるようなことすんなよなあ」
「なに言ってるの。向こうにその気がなかったら、罠にもならないのよ」
「そりゃそうだけどさあ……。あっ、てことは、いい感じなのかな?」
「まったく、あなたのドコが気に入ったんだかね」
「もしかして、このまま押せ押せでいけば……」
「ゲットだぜって?。……でも、あの子、ちょっと危ないかもね。気を付けたほうがいいかもよ」
「うん?」
「刺されないようにしなさいってこと」
「おいおい、いくらなんでもそれは……」
「……」
「あり得るな……」
「でしょ。でも……あの子には聞かせらんない会話ね」
「まったくだ」
「で、どうするの? 話はしておく? なんなら、わたしから言っとくけど?」
「んにゃ。おまえが絡むとろくなことにならんし。それにもっと変なことやられそうだ」
「ちぇっ」
「やっぱり」
写真部の部室。残っている二人の生徒が交わしている会話。
写真を貰った次の日の放課後。いつものごとく、当番でもないのにカウンターに陣取ったわたしは、下校チャイムが鳴るまで、都合のいい想像を広げて悦にひたっていた。
(でも、ここまでくると『妄想』だなあ)
このごろ、夢想癖に拍車がかかったみたい。
(でも、それもこれも先輩のせいですからね)
そして、わたしは貰った写真を栞代わりに、読みかけの本にはさみ帰りの支度を整える。
(先輩、今日は来なかったなあ)
とりあえず、写真のお礼だけは言っておきたかったんだけど。会いたい?と思っているときには来ないんだから、あの人。
先ほどの妄想の続きで考えると常套手段の「じらし作戦」を仕掛けられたのかしら。
(まさかね)
だいたい、昨日の今日でじらすもなにもないでしょうに。このままだと埒もない想像はとどまることもせず暴走しそう。
(でも……こういうのって……)
司書の関先生に挨拶を済ませて、図書室を出たわたしは急ぐ必要もないというのに、自然と早足になり、スキップしながら昇降口へと向かうのだった。そしてついには抑えきれずに口に出してしまう。
「なんか、いいよね♪」




