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図書室と先輩  作者: アデル
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その21 魔女

 それから、わたしたちは先生の前に仲良く並んで立たされて、痛くないゲンコツを一つずつ。てっきり、本気で怒られるかと思っていたわたしは拍子抜け。


「あれ?」


 それは先輩たちも同じだったようで。驚いた顔で関先生を見ている。


「ラ・リーヴだったら、わたしはレアチーズがいいなあ」


 センセ、どこで聞いていたんですか~。


「一度戻ってきてみたら、あなたたちがいるじゃない。怒るのはいつでもできるから、ちょっと聞かせてもらっちゃった」


 どうやら後半部分、わたしのカミングアウトからほとんど見学されていたようで。先輩の出入りのときには見つからないように隠れたって……。

 センセ、いったい何歳ですか。まぁ、そんなお茶目なところも好きなんですけど。


「はい、行きなさい。早く帰るのよ。それと試験中は図書室閉めちゃうから。わかっているわよね」


 そこで如才なく小峰先輩が一番に頭を下げる。


「すみませんでした。ありがとうございます」


「でも小峰さん?前に言ったでしょ、次はないって。ペナルティは用意しておきますからね」


「はい、わかっています。テスト明け、なんでも言ってください」


「あら、ききわけいいのね。そう来られると、なんだかつまらない」


 いえ、センセってば、そういう問題じゃないような気がするんですけど……。

 でも本心はセンセの言葉にいたく同感。

 小峰先輩だったら、機転を利かせてなんとか逃げるのかと思っていたのだけれど。しかしその美女はこちらの推測のななめ上を行き、すかさず言ってのける。


「小森君が主犯ですので、なんなりと言いつけてください。必ず行かせますから」


 やっぱり魔女だ、この人は。


「写真部の肉体労働担当を行かせるんですから、副部長のわたしとしては痛手なわけで。これってかなりのペナルティですよね?」


「おいおい」


 あわてて先輩が口を挟もうとするも、二人の会話は先輩抜きに進んでしまう。


「それもそうね。じゃあ、それで手を打ちましょ」


「ありがとうございます。じゃ、そういうことで小森君、よろしくね」


 ポンと美女に背を叩かれた先輩はというと、すでに諦めきった表情で肩を落としてしまい、先生は先生でにっこりと微笑んで、その肩に手を置いている。

 うわぁ、悲惨。先輩って女難の相でも出てるのかしら?わたしが言うのもなんだけど。


「へいへい。もうこうなりゃ、なんでもやらせていただきますよ」


「本の整理がたんまりあるのよ。頼りにしているからね」


 満面の笑みで今度は二、三度肩を叩く先生。うーん、少し可哀相になってきたぞ。


「あの、先生?夏休み終わったら、わたしが手伝いますから、残しておいてください」


「あら、ダメよ、そんなこと言っちゃあ。魔女だったら、そこで「イッヒッヒッ」って笑うものよ」


 いえ、センセ? なった覚えはないんですけど。


「さ、行きなさい。今日はもういいから早く帰るのよ」


 こう言われては食い下がることもできなくなって、わたしは仕方なくお辞儀をし先輩たちの後に続こうと図書室を出た。


「あ、そうだ、高橋さん?」


 二、三歩進んだところで呼び止められたわたしは、手招きをする先生の元に逆戻り。


「はい、なんでしょうか?」


 わたしだけでも怒っておこうとか?それはイヤですよ、センセ。


 一瞬のうちに駆け巡った不安が顔に出たのかもしれない。そんなわたしを目を細めるようにして見た先生は、耳元に顔を寄せ、そして優しい声で囁いたのだ。


「… … …」


 えっ?それって……。

 飛びのくようにして一歩あとずさったわたしを見て、さらに目を細めた先生は、ポンとわたしの肩を軽く叩く。

 そして「じゃ、ね」と、そのまま後ろ手を振って司書室に向かって行った。


「高橋さーん」


 小峰先輩が声を掛けてくれなかったら、わたしは呆然と立ち尽くしたままであったろう。我に返ったわたしは、思わずその場で笑いをもらす。


「やられた……」


 言葉とは裏腹に湧きあがってくるのは愉快な気持ち。


「どうしたの?何か言われてたみたいだったけど」


 わたしが怒られるのではないかと気を揉んでいたのだろう、かけ戻ったわたしに小峰先輩が聞いてくる。

 わたしは視線を上げて答える。


「えーと、内緒、です」


「あ、気になるなあ」


「うーん…」


 人差し指であごにあて、ちょっと考え込む素振りをしてみるけれど


「やっぱり内緒、ということで」


と、今このことを話すのはもったいないなと秘密主義を貫いた。


「ふーん」まじまじとわたしを見つめる小峰先輩。


「いいんじゃないの?なんか楽しそうな感じだったし、二学期になったら聞かせてもらえば? 忘れてなければ、だけどさ」


 先輩の助け舟に、今度はわたしが先輩をまじまじと見つめる番。別になんのことはない言葉だけれど、フォローしてくれたことが嬉しくて、わたしは上がったテンションの勢いもあってか、ずっと言ってみたかった言葉をついに口にする。


「先輩? わたし、先輩のそういうところ、大好きですよ」


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