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図書室と先輩  作者: アデル
2/22

その2 高鳴る鼓動

「あれっ」


 先輩だ。どうしたんだろ?

 昼休み。お弁当食べ終わって、しばしのまどろみタイム。

 頬杖ついて閉じかけた視界の隅。教室の入り口のところに先輩がいる。眠気が少し遠のく。このクラスに写真部の子っていたっけ?

 先輩が教室を覗き込む。右手でちょいちょい。おいでおいでと手招き。周りを見回す。反応している人ゼロ。もしかして、わたし?

 右手の人差し指を鼻にあてて、少し顔を前に動かしてみる。


(わたしですかぁ?)


(うんうん!)


 ぶんぶん、という感じで先輩がうなづく。ちょいちょいの右手もぶんぶん。近くにいた男子がビックリしている。

 さて、どうしたものか。先輩が来るなんてどういうことだろう。いそいそと先輩のところへ駆け寄るのも可愛らしくていいかな、と思いつつも、ここはやはり、いつものわたしでいくべきか。少し意地悪な気持ちがわいてくる。

 机に座ったまま、ため息仕草をひとつ。右手をそのまま先輩に向けて伸ばしてみる。手のひらを上にむけて、ちょいちょい。


(用があるなら、そっちからきてください)


 生意気千万なジェスチャーで応じてみる。一瞬動きを止めた先輩。

 ヤバッ、怒らせたかな。

 がくーっとうなだれること、およそ2秒半。顔をあげた先輩は、いかにもしかたないといった風情で肩を落とす。

 下級生の教室にはいることに、なにかうしろめたい気持ちでもあるのか、ズカズカというよりは、むしろコソコソっとわたしの席の前までやってきた。

 大きな体。聞いたところだと、176センチ76キロ。初めて会ったときは、柔道部?と思ったもの。


「なにか御用でしょうか?」


「あのね……。お願いだから、素直に出てきてくれよ」


「素直じゃないのは先刻承知のはずでは?」


「いや、だからね」


 そこでため息ひとつ。

 わたしはこらえきれずに笑い出す。

 周りの子が少し驚いたようにわたしを見ている。それもそうだろう。たぶん、無口でとっつきにくいというのがわたしの人物評価。あまりクラスの子とも話をしないそのわたしが、上級生と楽しそうにしているのだから。


「ちょっと外でいいかな?」


 このたった数秒で、たちまち居心地の悪さに耐えられなくなった様子。


「しかたないですね。廊下でいいですか?」


「ああ、助かる。」


 別に助けてあげるわけじゃないんですけど。わたしも聞き耳たてられるのがイヤだから。

 ドアに向かって先輩が歩き出す。大きな背中。あとをついていくわたし。


「で、なんでしょう?」


 教室から足を一歩出した途端に聞いてみる。


「いきなりかい!」


 振り返った先輩は、漫才のツッコミの仕草で返してくる。

 だけど素早く周りを見回して、近くに他の子がいないのを確認すると


「今日、図書室行く?」


 と、それでも小声で聞いてきた。


「はぁ? なんですか、それ?」


「いや、だから図書室。」


「今日、当番じゃないんですけど」


「えっ、いつも当番じゃないのに来てるじゃん」


 それはそうですが……。

 わたしの顔と同じ高さに背をかがめて、内緒話をするように右手を口元に添える先輩。こんなに近くで顔をみるのは初めてだ。少し、緊張する。このあいだ言っていた写真のモデルの件かも。


「ちょっと、お願いがあるんだけどさ」


 高鳴る鼓動。気付かれませんように。


「はい、なんでしょう」


 先輩の口に耳を近づけるわたし。顔が少し赤らんでくるのが自分でもわかる。けれど、先輩の次の一言は、わたしの期待を見事に裏切るものだった……。

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