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図書室と先輩  作者: アデル
18/22

その18 落としドコロ

 開けることのできない小さな窓を通して、わたしは普段見ることのない空の色を見ていた。身動きすらままならないような狭い空間は、かつては苦痛しか感じられなかったのだけれど、今のわたしはそれすら楽しむ余裕を持って座っている。不思議なものだ。

 とはいえ半日というのは、さすがにきつい。


「ハイジ。大丈夫かい?」


 精神的なものだろうか、体調を崩し嘔吐感に苦しんだ以前のことを知っている祖母が、気遣わしげに聞いてくる。


「ん、大丈夫よ。」


 わたしは今自分がどのくらいゆったりしているのか教えたい気分でもあった。


「でもバーバ、いつも言っているけど、お願いだからその名前で呼ばないで」


「ああ、ごめんよ」


 口に手を当てて、ついうっかり、というそぶりを見せる祖母。


「でもね、向こうについたらみんなそう呼ぶかも知れないんだから、あまりね……」


 神経質になるな、と続けたいのだろう。わかってはいる。でも、それこそ「向こう」についたときの話。今はその愛称で呼ばれたくない。


「アデーレ! あまりつまらないことで突っかからないで!」


 祖母の隣から苛立ちを隠しもせずに母がわたしを嗜める。しかも本名ではない呼び方で。

 わたしにとっては大事なことなのに。

 しかし、今更この人に反論しても、聞き入れてもらえるはずのないことは、経験としてわかっているので、わたしはそのまま黙り込む。そして以前同じような場面があったことを思い出す。

 そのときのわたしは、癇癪をおこして祖母をオロオロさせてしまうという、なんとも不孝を地でいってしまう情けない孫娘を演じてしまったのだった。

 でも今日は……。なんだろう、この気持ち。

 いったん、落としドコロを見つけてしまうと、人は嫌だと思っていることにも、かなり冷静でいられるのかもしれない。この「落としドコロ」については、うまく説明はできないのだけれど。

 投げやりになっているわけではなく、ただ、うまくそれを受け流すことを覚えた、といってもいいのかもしれない。

 どちらにしろ、好きな祖母にこれ以上心配をかけたくはない。娘と孫娘の険悪さに悩む祖母。その心痛の片棒を担いでいるのは、他ならぬわたし自身なのだから。

 母とはいずれ、ちゃんとした形で話をしなければならないだろう。いつもの口喧嘩のレベルではおさまらないかもしれない。それは今日かもしれないし、明日かもしれない。もしかしたら、ずっと先のことになるかもしれない。

 けれど今は…。

 そう、誕生日を迎える曽祖父に、どんなことを話そうか、それを考えることだけに神経を傾けよう。うまく話せればいいのだけれど。

 どうやって話そうか、先輩たちのこと。

 そして思い出す。あの日のこと、図書室での出来事を。

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