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図書室と先輩  作者: アデル
17/22

その17 素直になれば

 こんな感じでわたしが言いよどんだりすると、先輩がさらに苦境に立たされてしまうわけで。

 ごめんなさい、と思いつつ、いい気味とも思っているわたしも酷い?

 先輩を救うべく?わたしはなんとか口を開いて先を続ける。


「母はですね、なんていうのか一方的に家を出て行った人なんですね。で、それなのに、なにかにつけてですね、わたしを巻き込もうとするんです。それであわよくば、わたしを引き取ろうとか考えているみたいで」


「……」


「わたしとしては、もう母方の家系とは、あまり付き合わないほうがいいんじゃないかって……」


「……」


「これって、おかしいですか?」


 考えていたことの半分も話せていない。意味も通じてないかも。しかもいきなり質問しちゃって。


「ちょっとタンマ」


 手の平を向けて、先輩がわたしを制する。


「肘も勘弁な」


 小峰先輩にも一声かけておくところを見ると、あの肘攻撃はかなりの威力みたい。


「ちょっとわかりづらかったんだけどさ、つまりは、離婚して出て行った、お母さんの家系の、ひいおじいさん、てこと?」


「はい」


 ゆっくり言うことで再確認している先輩。すみません、話が下手で。


「んで、そのひいおじいさんの、誕生日祝いに行くことになった、というわけだよな」


「ええ」


「家の事情とか、そっちのことはわかんないけどさ、行きたくないの?」


 そういうつもりで話していたんですが……。

 でも先輩の顔は真剣そのもので、目を移すと小峰先輩がかすかに首を振って、視線でわたしの話すべき相手を示す。なにか感じるところがあるのかな?

 わたしは視線を戻し、先輩の質問に答える。


「はい。できれば行きたくないです。それに、夏休み入ってからだってよかったと思うのに勝手に決められちゃって、試験終わったら行かなきゃならないんです。あの人、私のことを嫌っているんですよ。でもこういうときだけ母親面して……」


「ああ、悪い。ちょっと落ち着いて、順序よく話してくれる?」


 先ほどまでの鈍感ぶりはどこへやら、少しいきり立ってきたわたしの機先を制して、話の展開を正す提案をしてくる。豹変というほどではないにしろ、実に久々に見る先輩の真面目顔。

 あ、ツボかもしれない。時折見せるこの表情。ふにゃっとしたボケ顔とのギャップがたまらない。でも見とれている場合じゃないんだってば。


「はい、すみません」


 素直に先輩に従い、わたしはもう一度頭の中で話を組み立て直す。


「……」


 でも、いろいろ考え始めたら、どこから話し直せばいいのかわからなくなってしまい、わたしはまたしても言いよどんでしまう。

 小峰先輩もさすがにもう肘鉄は繰り出さないみたいだけれど。


「ひいおじいさんの誕生日だから、お祝いに行くことになったんだよね」


 埒があかなくなるとふんだか、先輩が会話の主導権を握ってくれた。


「はい」


「でさぁ、わからないのは、なにがそんなに嫌なのかってことなんだけど……」


 言うべきか言わないべきか。たぶんその理由を話すのに、わたしは冷静ではいられないだろう。少し上目遣い気味に先輩を見上げると、そのことを察してくれたのか、


「これは俺たちじゃわからないこともいろいろあるんだろうから、まぁいいや」


と的確に地雷から遠ざかってくれた。わかってくれている、とひたって喜ぶのもいいんだけど、裏を返せば、わたしが面倒くさい性格をしているということに他ならず。

 これ以上わたしに振り回されての泥沼は嫌なんだろうなあ。

 そんなことを考えると、申し訳ないような気がしてくるけれど、わたしがこんなになるのは先輩だけなんですからね、と半ば八つ当たり気味にも思ってしまう。あー、ホントわたしってワガママ。


「んじゃさ、ちょっと行って、お祝いしたらすぐ帰ってくるってのはダメなんかい?」


 わたしの精神的負担の軽減に重きをおいてくれたのか、そんな案を提示してくる先輩。


 それができたら、どんなにかいいだろう。


「すみません。ちょっと……。遠方なんで」


「ふーん。北海道とか九州とか?」


 なにげなく聞いてくる先輩。さて、なんて答えよう。はっきり言うのもなんだし、かといって嘘つくのもなんだか、と思っていたら、先輩の服をちょいちょいと引っ張る手。


「うん?」


「もう、ジンてば。そこはたいした問題じゃないでしょ」


 小峰先輩はうすうす感づいているみたい。もう隠していても意味ないかな。


「ああ、一応さ、本人の口から聞いておこうと思っただけ、なんだけど」


 あ、やっぱり。先輩も気付いていたんだ。よくよく考えればそうよね。名前が名前だし。

 ここでわたしは、胸につかえていたものが一気におちたような感覚にとらわれる。そう、あまり言いたくないと思っていたことが多すぎたみたい。誤魔化し誤魔化し、頭の中で辻褄合わせするのに疲れて、勝手に混乱していたって感じ。

 ここまできて、隠し事八割のまま済ませようなんて、初めから無理だったんだ。さすがに全てをさらけ出すってわけにはいかないけれど、自分で勝手にこだわって、言うまい知られまいとしてきたことなんて、別にたいしたことじゃない。

 ああ、そうか。あれこれ考えないで、ただ、素直になればよかったんだ。

 思っていたじゃない。先輩の前だと鎧が脱げちゃうって。それでいいのよ。へんに身構えるのはもうヤメ。 なんだろう?そう思うとなんだかすごく楽。

 あ、でも先輩相手に素直? それもちょっと恥ずかしい…かな。

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