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図書室と先輩  作者: アデル
13/22

その13 ブルータスおまえもか

 そういえば……関先生はどうしたんだろ?

 こんだけ騒がしくしてたら、イカヅチまとってご登場!とか思っていたんだけれど。恐る恐る司書室のほうを見やってみても、ドアが開く気配なし。

 もしかして気付いていない?さすがにそれはないと思うんだけど。忙しくて、わたしたちにかまっている余裕無し?それならラッキーって感じなんだけど、後で何か言われそう。

 うう、それも怖いものがあるよなぁ。

 さて、ひとしきり笑い続けて、ようやく落ち着いた様子の小峰先輩。目に浮かべた涙を細い指でぬぐいながら


「今日は時間もおそいし、これでお開きにしない?」


とわたしの挙動を察してくれたのか、助け舟をだしてくれた。


「詳しい話はまた今度ということでどう?」


 わたしにとっては、実にありがたい申し出で。


「いいでしょ。ジン」


 笑い疲れてグッタリしていた先輩は、左手を振ることでその案に了承の意を示す。

かと思ったら……。


「だめだぁ。くっくっく……」


 座り直してわたしの顔を見るなり、もう一度おなかをかかえて笑い出した。

 もう、いいかげんにしてくださいよぉ。

 そんな先輩を横目でちらりの小峰先輩がわたしにちくり。


「あなた、ジンのツボつくのうまいのね。」


 あのー、鍼灸師になった覚えはないんですけど。もうため息すら出やしない。


「さてと、こんな人は放っておいて、さ、帰りましょう。」


「わかった、わかった」


 小峰先輩の容赦ない一言で、先輩も居ずまいを正す。でも顔が微妙にひくついていたりして。わたしのことを見ないようにしているし。まったく、この人は。

 小峰先輩が司書室のドアをノックして、先生に帰ることを告げる。


「先生、おそくまですみませんでした。帰ります」


 怒られるかなと思っていたけれど、あにはからんや


「そう。気を付けてね。」


と生徒を思いやる言葉で対応してくれた。さすが先生。


「でも今日だけですからね。次はダメよ。」


 釘を刺すことを忘れないところが、先生の立場としては当然で。


「はい。すみませんでした。気をつけます」


 それに対し気後れせずに堂々と応酬する小峰先輩もスゴイ。


「それじゃ、すみません。失礼しまーす」


 先輩の影で頭を下げて、そそくさと退室しようとするわたし。


(こら! 礼儀知らずにも程があるでしょ!)


とは思いつつも、なんか顔合わせづらいんだもの。許して。

と、そこへ先生が声をかけてきた。


「タカハシさん、ほんとに大丈夫?」


 その場で両肩が3cmほど上がってしまう。後ろめたい気持ちがそのまま動きに表れてしまった。優しい気遣いに恐縮至極。


「はい、大丈夫です。すみませんでした」


 カウンターまで出てきた先生に向かい、わたしはあわてて頭を下げる。


「……」


 あれ、なに、この間は?

 疑問符とともに顔をあげてみると、右手を頬にあてた先生が少し微笑んでいるというか……。

 あの~、なにか口元がひくひくしているんですけど。

 そして先生は自分の額をトントンと指でさす。


「じゃなくて、お・で・こ。こぶになってない?」


とそこまで言うやいなや、いきなり吹き出した。


「だめよ~、タカハシさん。テーブル壊そうとしちゃ。大事な設備、なんだから」


 笑い声が混じって、最後は「ふぁんなから」にしか聞こえなかった。

 きょとん。

 そしてあれこれ考え付く前に、額に手を当て、顔を一気に赤くするわたし。

 一瞬の間をおいて、先輩二人がその場でおなか抱えて再び笑い出す。

 先生、もしかして見てたのぉ~!出てこなかったのは、忙しかったわけじゃなく、笑い転げていたのね~!

 オー、マイ、ガッ!

 三人の笑い声の中、わたしはシェークスピアの中から一つのセリフを取り出して、心の中で先生に向かって思い切り投げつける。


(ブルータス、おまえもか~)

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