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図書室と先輩  作者: アデル
11/22

その11 消したい過去

 顔をあげてから謝るべきか、謝ってから顔を上げるべきか。

今わたしは人生最大の難問に直面していた……。って、こら、わたし! まったくもって、わたしもおバカ。くだらない選択肢を自分で用意して、半ば本気で考えている。

 なんでこうなのかなぁ、わたしって。真剣に考え続ける、ということがなかなかできない。わたしらしいといえば、わたしらしいんだけど。

 とはいえ、ここはあまりおちゃらけている場合ではなし、さっさと次の行動に移らねば、このままでは話が進まない。事態の収拾なんて望むべくもない。

 俯いたままでいることでこの場をやり過ごし、なんとかうやむやにしてしまうという反則技もあるのだけれど、幸か不幸か、こんなわたしでも持ち合わせている、なけなしの矜持というものがそれを許さない。まったくもって困った性格だ。

 と、そこへいきなり叱咤の声が頭の中で響く。


(もう! いいかげんにしなさいよ!)


 できれば登場して欲しくない人物。


 多重人格めいた性格の中で、一番真っ当で、その生真面目さゆえにメインの「わたし」が疎んじている「私」が顔を出す。


(くだらないことばかり考えてないで、さっさとどうするか決めなさい。あまり迷惑ばかり掛けてるんじゃないの!)


 言うことがイチイチもっともなので、カチンとくるこの「私」。正直ちょっとうざったい。いつもなら、それこそさっさと退場願うのだけれど、今日のところは素直に従うしかないだろう。

 下手に逆らったら、人格の主導権争いになりかねないし。

「わたし」VS「私」

 これにはまると時間がかかるのよね。


(はいはい。わかりました、わかりました)


 げんなり感たっぷりに言い返すと、真っ当な「私」は珍しくも、何の文句も言わず引き下がってくれた。ほんと、いつもこうならいいのに。


(そうよね、やっぱりちゃんとしなきゃね)


 さて、ころっと考えが変わるメインのこのわたし。なんのかんのいっても、出てきた「私」の影響を受けやすい。切り替えが早いと長所として見るか、脈絡のない滅裂思考の短所として見るか、自分では判断……できないというよりしたくないので、これは保留することにして。

 えーと……?

 謝るというのは頭を下げることで、下げるからには上がっていなければならないわけで……。そこまで考えたら、顔を上げることが優先順位一番のように思えてきたから不思議。

 となると、わたしの行動は「躊躇」という二文字を蹴っ飛ばす。後先考えない欠点を丸出ししているわけなんだけど、まぁ、いいよね。


(よし! 顔を上げて、ちゃんと謝ろう)


 さっきまでのウダウダはいったい何だったのか、ある意味前向き思考が猪突猛進。みっともないことになっているだろう顔だけど、いまさらそれを気にしても仕方なし。

 わたしは一気に顔を上げ、背筋を伸ばし姿勢を正す。

 目の前では先輩が横向きに座り、不機嫌そうに頬杖をついていた。ふて腐れたような横顔に、罪悪感めいたものを感じてしまって、わたしは少し体をこわばらせてしまう。少し怯んでしまった。


(ごめんね、先輩。後で怒ってもいいから、今は先ず謝らせてください)


 小峰先輩はというと、少し目を細め優しそうに微笑みを浮かべ、こんなわたしの所作を見守ってくれていた。


(ありがとう、小峰先輩)


 わたしは、その笑みに励まされるかのように、自分の心に喝を入れる。深呼吸。息をゆっくりと吐き出すと、わたしはもう一度自分に掛け声をかけた。


(よし!)


 しかし、このときわたしは、自分が致命的なミスを犯していたことに、まるで気付いていなかった。ましてやそのことが、この日の出来事を「消したい過去」にしてしまうなんて、夢にも思っていなかった……。

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