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ゆきけしき  作者: 燈真
Memory1 雪会ーユキニアウー
2/69

M1-2

 視覚以外の全てがその機能を忘れた。それほどに、目の前の存在に心奪われた。

 風を含んでふわりと揺れた長い袖。裾に向かって白から藍へとグラデーションがかかるそれには、小さな雪の結晶がちりばめられている。帯は背中から伸びる蝶の羽のように結ばれ、濃い銀色が月の光にきらめく。その上で輝くのは白銀の長い髪。頭の中程には青い曼珠沙華が咲いている。白基調の着物から覗く手は、これも雪のよう。その手と同じ色の、少しだけ幼く見える顔の真ん中で、真ん丸に開かれた白藍の瞳が、こちらを凝視している。

 その娘は、明らかに、異形だった。

 言葉もなく見つめ合うこと僅か数秒。

「~~!!」

「待、ケホ、待、て」

 窓の向こうに身を乗り出した彼女の袖の端を、彼は起き抜けにしては奇跡的な速さで捕えた。急な動きに腕や肩や腰が痛みを訴えたが、知ったことではない。衣が突っ張り、振り返った顔には怯えと非難が満ち溢れていた。

「答えて、くれたら、離す。……俺を、助けたの、あんたなのか」

 彼女が怯えたまま、無言で小さく首肯する。身体中から気が抜けて、布団に深く沈み込んだ。

「……どうして」

 重ねて問うた声は先ほどよりも掠れきっていて、我ながら非難めいていた。

「どうして、助けたんだ。あんた、雪女だろう」

 その昔、祖母の寝物語に聞いた。この町には雪の神を祭る御社があるのだと。冬になると雪の神たちはこの町から、日本のあちこちに雪を降らせに行くのだと。そして、雪に惑った人や獣の命を、魂を、こっそり吸い取っていくのだと。そうしてそれら魂の欠片を雪に変えて、また地上に降らすのだと。

 助けてくれた恩人になんてことを、と一般的には非難される言葉かもしれないけれど。ありがとうと笑顔で礼を言うのが普通のあり方なのだろうけれど。それでも、思いは止められない。あまりの皮肉さに笑えすらしそうだった。人を助ける雪女がどこにいる。吸い取って吸い尽くしてくれれば良かったのだ。こんな命など、いくらでも。雪になってしまった方が、幾分もましだ。

 戸惑うように彼女の目が伏せられて、そのまましばし。答えるまで解放するつもりがないのを悟ったのか、ぽつり、と応えた。

「……から」

「……は?」

 聞き間違いかと思った。聞き間違いであってくれと願った。しかし彼女はもう一度、小さな声だがはっきりと、彼にその言葉を突き刺した。

「泣いてた、から」

 あまりの衝撃に手の力が緩んだその隙に、するりと裾が離れて翻った。ふわり、と雪が舞い、彼女の姿は消えていた。ただ、雪を吹き込む風がカーテンを翻すだけ。やがて巡回に来た看護士が気づいて駆け寄るまで、彼の目は愕然としたまま、その動きを映していた。

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