第二章 最初の村・第二話
「おい、魔女。聞きたいことがあるんだが」
「……何かしら?」
曽根崎の声に、渋々といった様子で返事をしたマリヤスカ。
相変わらずの非友好的な態度も気にせず、曽根崎は質問した。
「この看板、恐らく文字が書かれていると思うのだが私達には読めない。私達とこの世界の住人との対話は可能なのか?」
「……あぁ、そのこと」
マリヤスカは溜め息を一つ挟んで、曽根崎への回答と自分の来訪の目的を語った。
「昨日言い忘れてたことがあってね。曽根崎、貴方の疑問にも答えられる話よ。
……この世界の言葉だけど、貴方達の世界のものとは全く違うわ。探せば似たようなものもあるかも知れないけど、この看板が読めないならどの文字も読めないでしょうね。
でもまぁ、会話もできないんじゃ貴方達の武器も活かせないだろうから、……はぁ、そこは大サービスで何とかしてあげたわ」
そこまで言って、マリヤスカは口を閉ざした。憂鬱そうに視線を逸らしてそれきりだった。
野口が苛立ちを隠さず先を促した。
「……説明が、足りない。何がどう、何とかなってて、俺達にどんな影響が、あるのか、そこまで話せ」
「うるさいわね……。説明したところで貴方達には分からないわよ。……まぁバカでも分かるように言うと、魔法の力よ」
魔法、という単語に一行は呆気にとられたが、曽根崎は『そういう世界観か』と内心で納得し、野口は似たような力に慣れ親しんでいるので特に追及はしなかった。
「この世界では、簡単な魔法なら少し修行すれば誰でも使えるわ。でも、相手の認識を変えて同じ言葉を使ってるようにするだとか、遠く離れた場所を繋いで顔を合わせるみたいなのは、まぁ、私くらいしかできないわね。
……とりあえず、貴方達はこの世界で言葉を持つ種族なら誰とでも話せるようにしてあげたから、大いに感謝しなさい。……結構メンドウだったんだから。
……あぁ、それからね、この世界には一つの宗教があって皆それを大切にしてるんだけど」
マリヤスカは一度言葉を区切り、全員の目を順番に、睨むように見据えてから今日の本題を話した。
「……貴方達が『魔女マリヤスカの手を借りて』この世界に来たことは、言わないこと」
ごくり、と喉を鳴らし日比谷がマリヤスカの言葉の意味を確認した。
「……それは、つまり、宗教上の理由、みたいな?」
「そうね、その理解で間違ってないわ。……まぁ、中には私を崇めてる変なヤツらもいるんだけど、平和に生きていきたかったら私との関係をべらべらと話したりしないことね」
そこまで話したところで、『黒い靄』が溶けるように消えていき魔女の姿も見えなくなった。
残された一行は、しばらくの沈黙の後に不満を口々に吐き出していった。
「何なんすかあいつ!最初っから最後まで、ず~っと上から目線で!」
「見た目がかなりいい分、あの性格はもったいねぇなぁ」
「でも、魔女ですし、なんかラスボスっぽいですし、かなりヤバイ人なんじゃ……」
「高度な魔法を使えて、宗教絡みで異端視されている、か。なるべく敵対しない方が無難だろうな」
「……あんなバケモノ、関わりあうべきじゃ、ない」
「まぁまぁ、みんな。とりあえず言葉の心配はないみたいだから、まずは誰かに会ってみないかい?」
魔女への不満を諫める安西の号令により、一行は次の行動へ、村人との接触を図ることとなった。