第二章 最初の村・第一話
草原の中に土がむき出しの道が一本通っていた。そこを走るシルバーのバンが一台。道は車がすれ違えるだけの広さがあり見晴らしも良い。バンは空の高い位置にある日の光を受けながら、軽快に進んでいた。
バンの中にはスーツ姿の男が6人、大量の荷物に埋もれるように収まっていた。
「腰が痛えよぉ。オジサンにこの姿勢はこたえるぜぇ……」
「諏訪さん……、俺、足がつりそうっす……」
宿を出たのが日の出直後だった。心配していた道の状態も移動に困るほどの悪路は無く、スムーズに進んでいった。
問題は車内にあった。
宿から持ち出した缶詰や乾き物の保存食、水道水を詰めたポリタンクの他に宿の土産物コーナーにあった日持ちする菓子を持てるだけ持って、加えて自分たちの荷物によって車内はすし詰め状態になっていた。
道なりに移動を続けてそろそろ半日が経つ。始めのうちは日比谷が喧しく騒ぎながら風景を眺めていたのだが、見えるものは自然ばかりで特に異世界らしいものは見えてこなかった。次第に一行の元気も削がれていき、ダラダラと不満を述べるだけになっていった。
山を下りた頃に一度休憩を入れたのだが、不満の声は再び上がってきた。
「みんなもそろそろ限界かな……。曽根崎君、もう一度休憩しようか」
安西の言葉に返事をする前に、曽根崎はゆっくりと減速し車を停めた。
道の先は二つに分かれ、左側の道の先、林が見える辺りに視線を向けていた。
「休憩は構いませんが、もう少し辛抱していただけますか?……恐らく、この先に集落があります」
曽根崎が指差した方向に全員が一斉に顔を向けた。視線の先、林の上空に煙が幾筋か立ち上っているのが見えた。木々の隙間には、建物の壁なのか、レンガの色合いがちらほら確認できた。
「ぉぉぉぉおおおおおお!第一村人発見!」
「村人はまだ発見してねぇだろうが」
誰もが内心では不安を感じていたが、ようやく人の営みを見つけられて気力も回復した。
「それじゃあ、みんなもう少し我慢してね。曽根崎君、行ってみようか」
「了解しました」
車は再び発進し分岐を左へ、林の中の集落へ向かっていった。
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道は林を迂回するように続き、視界が開けた先に集落の入り口と思しき場所が見えた。
木々に囲まれたようなその集落の入り口には、左右を丸太の支柱で支えられた木製の看板、らしき物が立ててあった。
そこには文字のようなものが彫られているのだが。
「…………読めね~」
「やっぱり、『最初の村』とか、そんな感じのことが書いてあるんでしょうか?」
「いや、RPGではないからその名称は無いだろうが、……恐らく集落の名前が書いてあるんだろう」
直線と曲線と点を使った記号のような文字は、誰も見たことのないものだった。
「え、これもしかして、言葉通じない系じゃないっすか?」
「あり得るな……」
一行が未知との遭遇を予感して困惑していると、突然目の前に『黒い靄』が現れた。
それは炎のように空中でゆらめいていたが、次第に中心部分に別の空間が見え始めた。
「……あぁ、無事に人里に着いたのね。やっぱり車は速いわね」
「……マリヤスカ!」
魔女マリヤスカが『黒い靄』から見える空間に現れた。靄の縁に肘をついて6人を横目で眺めていた。
「てめえ……!」
野口が怒りを込めた表情で詰め寄るが、靄の手前で足を止めた。
「うん、賢明ね。これに触れたら飲み込まれてたわ」
つまらなそうに言葉を返すマリヤスカに、野口は歯ぎしりしながらも睨みつけるのをやめない。
そこへ、曽根崎が落ち着いた口調で割って入った。
「おい、魔女。聞きたいことがあるんだが」
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待っていただいていた方、大変お待たせしました。
この章から世界観が語られていきます。どうぞお楽しみに。