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第一章 秘湯温泉宿にて・第四話

 魔女マリヤスカは舞台縁に腰掛けたまま、6人を見下ろしながら話を続けた。


「私は、魔女マリヤスカ。私を知る人からは『永遠の魔女』とも呼ばれているわ」


 マリヤスカは既に和装ではなく、漆黒のドレスに身を包んでいた。頭のティアラや大きなルビーのネックレスから高貴さを感じるが、黒いドレス、周囲に纏う黒い靄、そして本人の人形めいた無表情によってその印象が禍々しいものに塗り替えられてしまう。

 顔自体は先ほどの女将と同じはずなのに、雰囲気が変わるだけで、愛嬌のある可愛らしさが刃物のような冷たい美しさに変わってしまった。


「あ、あの、……何ですかこの人。……ていうか、何なんですか、これ」


「手品とかCG、ってんじゃないっすよね……」


 野口を除く5人も事態の異常性に気づいたが、まったく理解の及ばない状況に変わりはなく、結果やはり動けずにいた。

 野口にしろ未知の存在を相手にしているのだが、『こういった状況』には耐性があるためマリヤスカへの問いかけを続けた。


「魔女、とやらが俺たちに、何の用なんだ?……何が目的だ?」


 マリヤスカは変わらず、淡々と言葉を返す。


「……貴方達に、私の世界を変革してほしい」


 6人は魔女の言葉を固唾をのんで聞いていたが、マリヤスカはそれきり黙り込んでしまった。


「………………あの、もう少し説明を、もらえないか?」


 野口の言葉にマリヤスカはほんの少し首を傾け、数秒の沈黙の後、やはり淡々としかし今度は詳しく目的を語った。


「……私は、ここではない違う世界で生きているの。そこは、大きな争いのない平和で穏やかな世界で、そこに生きるもの達はみんな小さな幸せと小さな不幸を積み重ねて、毎日生きているわ。


 ……でも、そこは停滞している。みんな今の暮らしに満足しているせいね。……箱庭の人形達は、世界を広げようとはしないのよ。豊かではないけれど、大きな悲しみもない。自分と自分の手が届く範囲のものを守って、静かに暮らしていく。そんな状況が、もうかれこれ400年近く続いているのよ。


 ……私は、もう我慢できない。本当なら、もっと豊かに、もっと多くの幸せを誰もがつかめるのに、その可能性を考えようともしないあの世界に、……そうね、ムカついているわ。


 私自身でもなんとかしようとしてね、何度かあの世界を滅ぼすくらいの争いを起こして、ぐっちゃぐちゃにかき混ぜてあげたんだけど……。その度にあいつが、邪魔をして、……あいつが、……あいつ、本当に許さないんだから。


 ……とにかく、私自身は動けないの。だから、貴方達にお願いするのよ。


 私の世界を、変革してちょうだい」


 マリヤスカの説明に、今度は6人が黙り込んでしまった。違う世界、400年の停滞、世界の変革。荒唐無稽すぎて誰もが思考停止していた。

 そして、やはり説明が不足していた。再度野口が問う。


「……あー、その、世界を変革?とは、具体的には、どういう……」


「それは貴方達の得意分野で適当におまかせするわ」


 6人の怪訝そうな顔を順番に確認したマリヤスカは、ようやく本来の問いに対する回答を返した。


「……私の世界を、貴方達の商売の力で変革してちょうだい。ねぇ、株式会社ヨロズ商事営業課のみなさん?」

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