昴side~回想~
それは今から17年前…
僕の父は酒ぐせと女ぐせが悪く、暴力的だったため、母は僕を置いて、僕らの前から居なくなってしまった。
それからは、僕と父の2人で生きてきた。
父は、いつも家に居なくて、月に何回か、机にお金を置いてくれるだけだった。
そんな生活が続いて2年がたったある日、予想だにしなかった出来事がおきた。
「ただいま」父が帰ってきた。
「おかえりなさい。えっ」僕は固まった。父が、女の人を連れていたからだ。
さらに、その女の人は3歳くらいの男の子を抱いていた。
「お父さん。その人誰?」
「あっこの人か、春子さんだ」
「違う。名前じゃなくて…」
「今日からお前の母さんだ」
「よろしくね、昴君」僕はこの出来事に、ついていけなかった。
「えっ何で勝手に…」僕はそうお父さんに言ったが、
「俺に文句あるのか!!」って言われて、僕はもう何も言えなかった。
春子さんとお父さんは、もう籍を入れているみたいで、春子さんは、本当に僕の母さんになるみたいだ。
春子さんの抱いていた男の子は、『正』って言うらしい。
正くんは体が弱いらしく、春子さんは、いつも正くんに付きっきりだった。
それから5年たって、正くんは8歳、僕は19歳になった。
僕はランニングを毎日欠かさずするようにしていた。
正くんは僕になついてくれて、
「すー君。だっこして~」とか言ってくれる。
ある日、僕がランニングに行こうとすると、正くんが、
「僕も一緒に行く~」って言ってきた。
「正くん。あんまり動くと、春子さんに怒られるよ」そう言ったのに、
「お母さんは関係ないもん!僕、すー君と一緒に行く~」ってただをこねた。
僕は、ランニングくらいならいいのかな?って思い、正くんと一緒にランニングに出発した。
そして事件がおきた。
僕は正くんに合わせて走った。順調に走っていたが、500メートルくらい走ったとき、正くんの息が上がってきたことに気づいた。僕は、
(疲れちゃったかな?)って思って正くんの顔を覗き込んだ。
しかし、正くんの顔は青ざめていて、『疲れた』とかじゃなく、苦しそうだった。
「正くん?大丈夫?」って言ったけど、正くんは胸を押さえて、地面にしゃがみ込んでしまった。
僕は春子さんに電話して、迎えに来てもらった。
「正?大丈夫?今すぐ病院に連れて行くからね」そう言って、病院に連れて行った。
正くんの細い腕には、点滴が3本も刺さっていて、痛々しかった。
「ねぇ昴君?どういうつもりなの?」僕は春子さんに病院の外に連れて行かれて、そう聞かれた。
「ごめんなさい」僕はそう謝った。
「私の子供を苦しめて…」
分かっていたことだけど、
僕は彼女の子供だとは思われていなかった。
「ごめんなさい」僕は何度も何度も頭を下げた。
「『ごめん』で済んだら警察は要らないって教えられなかった?」彼女はそう言って、僕の頬を叩いた。
痛かったけど、仕方のないことだと思って納得した。
お父さんも、正くんが倒れたって聞いて、病院に駆けつけた。
「お前何してるんだよ。俺が春さんに嫌われたらどうしてくれるんだ?」僕にそう言って、僕の頬を叩いた。
正くんの病室に行くと、正くんは目を覚ましていた。
「すー君そのほっぺたどうしたの?」僕の腫れた頬を見て、心配そうに聞いてきた。
「ううん。何でもない。それよりごめんな。正くん」
「何ですー君が謝るの?心配かけたの僕でしょ?」
僕はその言葉に安心してしまった。
「本当ごめんな」
「何で泣いてるの?」いつの間にか、僕は泣いていたみたいだ。
僕は涙を拭うと、正くんの頭をなでた。そして、
「僕がお兄ちゃんでいい?」そう聞いていた。
返ってきた答えは、
「うん!当たり前でしょ?」嬉しくて、せっかく止まっていた涙が、また溢れだしてきた。
「もぅすー君」そう言いながら、正くんは僕の頬を拭ってくれた。
正くんの手は、僕の頬の痛みを癒やすようで、心地よかった。