回想
それから1年、春子さんとお父さんの間に、青波が生まれた。
青ちゃんはお人形みたいに可愛くて、小さくて、僕も正くんもこの小さな命にメロメロだった。
それからまた1年がたったある日、春子さんの部屋から、お父さんとのある会話が聞こえてきた。
「ねぇヒロ君(お父さん)」
「なに?」
「私、赤ちゃんが欲しかったわけじゃない」
「ん?」
「ヒロ君と愛し合いたかっただけなのに…」
「仕方ないだろ?出来ちゃった事は…」
「そうだけど…何かと面倒じゃない?あっ」
「なに?」
「子供たち置いてさ、2人でどっか行かない?」
「2人で?」
「そう!そしてずっと帰って来ないの…」
「正はいいのか?」
「うーん…でもあの子私のこと嫌ってるし、昴君がいるから大丈夫だよね」
「そうだな、遠くに行って、2人でやり直そう!」
僕はなぜか、あまりびっくりしなかった。
『いつかは僕らのこと置いて行く』そんな気がしていたのかもしれない。
そして、それは現実におきた。
僕は、ごそごそって言う音で目が覚めた。
春子さんとお父さんが、荷物をまとめているところだった。
「春子さん?」
「あっ昴君起きたの?ごめんね、私たち、この町から出て行くから…」
「正くんは……どうするんですか?」
「やっぱり連れて行こうかな?」
「えっ何で?やめて…ください」
そう言うと、あの日のように、頬を叩かれた。
「あの子は私の子なの。あなたに権限はないのよ」それでも僕は、引き下がらなかった。
「正くんは僕の大切な弟です。正くんは僕が絶対に守ります!だから…」
僕は、『叩かれる』と覚悟したけど、春子さんは直前でやめた。
「今までごめんね。正のこと守るって約束してくれる?昴」春子さんは、僕のことを、呼び捨てで呼んでくれた。
自分の子供以外は呼び捨てで呼ばないって言ってたから、僕のことを、『自分の子供だ』って思ってく
れたのかもしれない。
「約束します!今までこめんね、お義母さん…」
そして、お母さんとお父さんは、この家を出て行った。
リビングの机には、お父さんたちからの置き手紙があった。
青ちゃんはまだ分からないようだったけど、正くんは、いきなりのことで、かなり動揺していた。
「ねぇすー君?僕がこんなだからお母さんたち出て行ったの?」
「違うよ、多分。そんなわけないだろ?」
「嘘だ!僕がこんなだから…ハァハァ」正くんは、泣きながら叫んだせいで、過呼吸ぎみになっていた。
「正くんは僕の大切な弟だからな?」そう言いながら、正くんの頭をなでてあげた。
「すー君…本当?」
「当たり前だろ?」
「うん!」背中をさすったり、頭をなでたりしていると、正くんの息は整っていった。
(僕が絶対守るから)
それからは、バイトを頑張りながら、奨学金とかを使って、大学にも行った。
やっぱり、生活費と病院代を稼ぎながら、学費を稼ぐのは大変で、弟たちには、たくさん苦労をかけてしまった。
僕が頑張れるのは、やっぱり、
「お兄ちゃんおかえり」「すー君おかえり」って言ってくれる、可愛い弟たちのおかげだった。
それから1年たって、僕は大学を卒業して、今日から、医者として働くことになった。
ーそして今に至る…ー




