キャッチボール
僕には、自慢の兄と弟がいる。
兄とは11離れていて、弟とは8離れている。
兄は天才ドクターで、弟は少年野球チームのエースだ。
「お兄ちゃ~ん」って言ってくる弟は、とっても可愛い。
僕はというと…
ちょっと野球が出来るだけの、普通の高校生だ。
いや、普通でもないな…
僕は元々心臓に病気を抱えていて、兄が僕の先生だ。
そして、僕の命の期限は残り2年。
だから僕は、残りの人生を悔いのないように生きるって決めたんだ。
***
僕は今、元気なのに、病院のベッドの上にいる。
なんか心臓の数値が悪かったらしくて…
僕は、こんなところに、1秒も長く居たくないんだ。
だからいつものように病院を抜け出した。
家に帰ると、弟が
「お兄ちゃんキャッチボールしよー」って言ってきた。
弟は、僕の病気のことを、あまり知らない。
本当はあんまり動いたらいけないんだけど、
(キャッチボールくらいならいいか)って思って、
「青ちゃんやろう」そう言ってキャッチボールを始めた。
僕の弟は青波せいはだから、僕も兄も青って呼んでいる。
ついでに言うと、僕は正で、兄からは正君って呼ばれている。
兄は昴で、弟はお兄ちゃん。僕は兄貴、たまにすー君って呼んでいるんだ。
バシュ! バシュ! バシュ!
「青ちゃんいい玉!」弟は真剣に僕に向かってボールを投げている。
エースとして活躍しているだけあって、とってもいい玉を投げてくる。
その姿は、とってもかっこよかった。
ずっと弟とキャッチボールをしていたかったけど、やっぱり息が上がってきた。
「お兄ちゃんどうしたの?大丈夫?」弟がそう聞いてきたから、
「お兄ちゃんちょっと疲れたから、休憩な」そう言って家に入った。
薬を飲んで息を整えると、ソファーに横になった。
プルルル‥プルルル
電話がなったので、
「青ちゃん電話でてくれる?」僕はそう言った。
「もしもし一之瀬です。」
「あっ青ちゃん?正君いる?」電話は兄からだったようだ。
「うん!いるよ」
「正君どんな感じ?正君と何かした?」
「えーっと、お兄ちゃんとキャッチボールしてたら、お兄ちゃんが疲れたって言って、今ソファーで横になってるよ」
「キャッチボールか…正君と代われる?」
「はーい」弟が、僕に電話を代わるように言ったから、体を起こして、電話にでた。
「兄貴?なに?」ちょっと冷たく言ってみた。
「なに?じゃないだろ。また病院抜けだして…今から帰るから、ちゃんと家で待ってろよ」
「はいはい」
その10分後、
「ただいま」って兄が帰ってきた。
「正君、病院帰ろ?」兄は僕を見るなりそう聞いてきた。
「いやだ」
僕はけっこう気分が悪かったんだけど、気づかれたら病院に帰されるって思ったから、それを悟らないように気をつけながら…
「正君?病院にいてくれた方がお兄ちゃん安心何だけどなぁ」
兄が心配するのも分かる。でも…
僕が病院に居たくないのには、ちゃんと理由がある。
家にいたら、僕の大好きな兄の手料理が食べられるし、
『なにより、兄が僕を心配してくれるから…』
そんなこと、絶対に兄に言えないけど…
考え込んでいると余計に苦しくなってきた。
「ねぇすー君…」
僕がそう言うと、兄は優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。
<昴side>
正くんが僕のことを『すー君』って呼ぶのは辛いとき、苦しいとき…
だから病院に連れて行きたいけど、感情的になって発作起きたりしたら大変だから…
「正君。今日だけな」僕はそう言って、弟の頭をなでた。
弟はもう眠そうで、明らかに食欲も無さそうだけど、何か食べないと薬が飲めないから、
「正君。なに食べたい?」って聞くと、返ってきたのは、意外な答えだった。
「えーっと…すー君の手料理食べたい。」
「えっお兄ちゃんの手料理?分かった。ありがとな」
嬉しい答えだ。弟はやっぱり可愛いところだらけだ。
「ねぇ青ちゃん。夕ご飯お兄ちゃんが作るけど、なに食べたい?」
「うーん…チャーハン!!」
「了~解」
「正君出来たよ。起きれそう?」
「うん」僕は簡単なチャーハンを、弟たちのために作ってあげた。