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 その日の内に水瀬から、成功報告が全員に届いた。そしてオレの家には、幸せそうだけど困惑した幸成が突撃して来た。


「何その格好?!まさしく?!!」

「まさしくだよ。邪魔しやがって、クソっ」


 オレの格好は下着にシャツ羽織っただけ。無視しようとしたのに、呼び鈴連打されて渋々出て来た。

 一人暮らしのアパートの部屋の奥ではガタガタ音がしてる。多分月穂が、真っ赤な顔で慌ててるんだと思う。


「何ギャルゲーの世界でエロゲーしてんの?はっ!もしやハーレム?!」

「この童貞が。妙な想像すんな。」

「童貞バカにするならもげてしまえ!」

「お前がもげろ。」


 舌打ちして、オレは幸成を部屋に招き入れる。激しく追い返したい。でも音が止んだし、月穂の支度が出来たんだろう。あいつも巻き込まれたんだから、話、聞きたいと思うんだ。


「えぇ?!海野月穂、さん?なんで?」


 動揺を落ち着ける為に真っ赤な顔でお茶の用意をしてる月穂を見て、幸成が叫ぶ。


「オレと月穂は去年から付き合ってる。」


 更に大きな驚きの叫びが上がった。幸成の話を聞く前にどうやら、オレは月穂の事を説明しないといけないらしい。


「オレがマジ惚れした。アタックしまくった。オーケーもらった。今ラブラブ。以上。」

「か、簡潔な説明をありがとう…」


 引きつった顔で納得しようとしてる幸成に茶を出して、月穂がオレの腹にグーパンを入れた。照れ隠しだ。真っ赤だ。オレは掌で受け止めた月穂の拳を握って、解いて、指を絡めて手を繋ぐ。月穂は沸騰しそうな顔して受け入れた。


「こ、恋人がいるのにどうして…僕に付き合ってくれてたの?」


 苦虫を噛み潰したような顔。そんな幸成の顔を見て、オレは小さく笑う。


「初めは気まぐれ。同じ世界で生きてた記憶持ってるやつが現れて、嬉しかったから。」


 それと、水瀬しおりの話をする幸成の顔が恋してるように見えたから気になったってのもある。あわよくばキューピッドでもしようかなっていう、軽い気持ちだ。


「水瀬とはちゃんと、話せたんだろ?」

「う、うん。話した。」


 赤い顔した幸成は喉が渇いてたのか、マグカップを手に取って冷めたお茶をごくごく喉鳴らして飲んだ。

 こいつはヘタレのくせに、水瀬とちょこちょこ接触してたらしいんだ。それで、水瀬に聞かれた。オレがよく一緒にいる幸成の事。友達なのかって。詳しく話聞いて、ピンと来た。


「水瀬には、心の無いオレの台詞よりも、辿々しくても心が込もりまくったお前の言葉の方が、比べられないくらい響いたみたいだな?」


 どんな言葉だったのか水瀬は教えてくれなかったからきっと、幸成が水瀬に掛けた言葉は、水瀬の大事な宝物なんだと思う。


「今回の事、発案は洋人だって聞いたけど…なんでゲームのシナリオ通り動いて、ハーレムだったの?」

「あぁ、水瀬はそれ、教えてくれなかったんだ?」

「うん。聞いたら目を逸らされた。」


 まぁ言いづらいよなって、オレは苦く笑う。月穂も握ってた手に力を込めたから、少し怒ってる。

 怒るなよって、逆の手で月穂の手の甲をぽんぽん叩いたら力が抜けた。きっと今、可愛い顔してるんだろうなって思ってチラ見したら案の定。


「見ないでよ。」

「なんで?」

「私は気にしないで。ほら、話続けてよ。」

「拗ねるなって。また甘やかしてやるからさ。」

「うるさい!バカ!変態!」


 手を繋いだままで月穂は怒る。怒ってるアピール。耳が赤い。


「あのぅ…僕を忘れないで……」


 遠慮がちな声に視線を戻して、オレはニッコリ邪悪な顔で笑った。


「シナリオ通り進めたのは、幸成の自覚を促す為。オレが水瀬に近付くとどんどん辛そうな顔になってたの、気付いてなかった?」

「全然。普通にしてるつもりだった…」

「ハーレムは幸成の怒りを煽る為。幸成はハーレムを嫌悪してたし、大詰めの所を邪魔されたあげくハーレムになってたら、キレて出て来るかなってさ。」

「……僕、掌の上で転がされてたの?」


 呆然としてる。

 間抜けな顔だなって笑ったら、幸成と月穂、二人に怒られた。


「木田ちゃんも新堂も、狙いを説明した上で協力してもらった。前世だギャルゲーだを知ってるのは、月穂と水瀬。二人は知っておくべきだって思ったから、説明しておいた。」


 シナリオは幸成が書いたのがあったから、木田ちゃんと新堂にはオレが書いたって事にして、それを四人に配って練習してもらったんだ。幸成が聞こえる場所にいる時に怪しまれないように演技してた。


「リアルギャルゲー、見てて楽しかったか?プレイヤーさん?」


 意地悪な顔して言ったオレの嫌味に、幸成は項垂れた。本気でヘコんでるみたいだな。


「楽しく、なかった。なんでかわかんなかった…」

「そりゃ現実だからだよ。お前は現実の水瀬しおりに恋したから、他人がその子と恋愛してるの見て楽しい訳ねぇじゃん。」


 馬鹿なやつって、オレは苦笑が漏れる。不器用なやつだ。こいつは多分、本気で恋をしたから余計に、水瀬しおりを救いたいって思ったんだ。それでオレに接触して来た。ゲームのキャラだから、シナリオ通りにやれば水瀬しおりは幸せになる。救われる。相手が他の男だとしてもそれが最善だって、思ったんだろうな。


「水瀬も自分の気持ちに気付いてなかったみたいだし、不器用同士で心配。頑張れよ?」

「うん。あの…ごめん。ありがとう。」


 "キミボク"のシナリオ的にはまだエンディングじゃない。でもオレのキューピッド作戦はこれでおしまい。

 幸成を見送った後、オレは月穂に向き直る。


「埋め合わせ。なんでもお前の言う事聞く。」


 ハーレムだなんだ言ったけど、それは唯一の人を見つけられてない男の夢。今のオレにはもう、こいつだけってやつがいる。


「………イルカショー、観たかった。」


 唇尖らせて赤い顔の月穂。

 それ見たオレは、ゆるゆるの顔でふはって笑う。


「やっぱ?観たいんじゃねぇかって思った。ぬいぐるみは?」

「いる。白いのが良い。」

「買ってやる。他には?」

「……いつもみたいに、甘やかして。」

「いいよ。」


 抱き締めれば、月穂はほっと息を吐く。

 素直じゃなくてバイオレンスなオレの恋人は、この部屋でだけ、甘く蕩ける。


「"君の為に僕がいる"。ならオレは、お前の為にここにいる。オレの天使は、お前だよ。」

「バカ…」


 クサい台詞。月穂は満更じゃないみたいだ。

 悶えたくなる程クサい台詞でも、月穂が喜ぶならオレは、いくらでも吐く。


「好きだ、月穂。」

「私も、好き。」


 唇を触れ合わせて、オレは頭の片隅で考える。

 現実の恋愛は、ゲームみたいにスムーズにいかない。これからが大変だから頑張れよ、幸成。

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