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お互いに想いを募らせた洋人と水瀬しおりが気持ちを確かめ合うイベント。水族館デート。
幸成はしおタンの幸せを見届けるんだとか言って、隠れてついて来てる。他にもついて来てるのがいるからなんだろこれ?公開デート?
「水瀬さ、良いの?」
最終確認。水瀬が頷いたから、オレは溜息を吐いてガリガリ頭を掻く。
「あとはあいつに、根性があれば良いな?」
「……無くても私が、頑張ります。」
「ならきっかけ作りのお手伝いといきますか。」
チラリと確認したら、幸成は声は聞こえない少し離れた場所にいた。その表情が泣きそうで、切なそうで、馬鹿な男だなって、オレは苦笑が漏れる。
息を大きく吸って吐いて、オレは合図を送った。
「あら洋人?ここで何をしているのかしら?」
色っぽい声は木田ちゃんだ。私服も悩殺セクシーでボインが強調されてる。
ご馳走様です!
「洋人せんぱぁい!花梨ちゃんとのデートの約束はどうなったのですかぁ?」
ぴょこぴょこ揺れるツインテールが突っ込んで来た。こいつ…日頃の恨みって顔して鳩尾に頭突きしやがった。後で覚えておけよって視線で告げて、オレは微笑む。"キミボク"の洋人くんスマイルだ。
「お二人共、何故ここに?」
「二人だけじゃないわよ、洋人。わた、私ともや、約束、したじゃない!」
一番ヘタクソ。真っ赤な顔でぷるぷるしながら頑張ってる。
「月穂、水族館来たかった?イルカのぬいぐるみでも買ってやろうか?」
思い切り抱き締めたら殴られた。バイオレンス彼女だ。
「そんな細っこい小娘じゃなくて、私の方が好みでしょう?」
「せんぱぁい!あたしイルカのぬいぐるみ欲しいですぅ!」
月穂を抱いたまま、ノリノリニヤニヤした二人に揉みくちゃにされてるオレはまるで、ハーレム万歳な最低男。水瀬は無表情で、チラチラ幸成のいる方を気にしてる。一番、演技する気が無い。
…してても表情変わらないか。
さぁて、どうするよ幸成?
お前の大事なしおタンがピンチだぜ?最低男に傷付けられるぜ?
「ひ、洋人さん、これは…」
水瀬の棒読み。頑張った。
「こうなったら仕方ないよね?みんなで仲良くデートしようか?」
にっこり微笑んだオレの左手はがっちり月穂の腰をホールド。背中には木田ちゃんがしなだれ掛かってて、腹にはチビが張り付いてる。空いた右手を水瀬に差し出せば、勢い良く跳ね除けられた。
「これ、どういう事?洋人、何してるの?」
「何って?オレ様ハーレムの夢実現?」
「なん、で?そんなのシナリオに…ない。」
水瀬とオレの間に立って、幸成は怒ってる。精一杯睨み付けて来てる幸成をオレは、馬鹿にした顔で見つめて、嗤う。
「幸成さ、お前がしてた事ってこのハーレム作るのとどう違うの?」
「どういう、意味?」
幸成の眉間に皺が寄ってる。こいつの吃り癖は、仲良くなったら消えたんだ。
「わかんねぇ?ただの台詞じゃお前のしおタンは救われない。お前はゲームで人の心を弄ぶ最低野郎だって言ってんだよ。」
冷たく言い放てば、幸成は二の句が告げないみたいだ。
ハーレム最低男のオレは、そろそろ退場の時間かな。
「お前、水瀬と話せ。水瀬もお前に話があるって。いつも図書室で話すみたいに話したいってさ。」
月穂も、木田ちゃんも新堂も、黙って成り行きを見守ってくれてる。
みんなに協力してもらった恋愛ゲーム。オレも三人もエンディングを見たいけど、この場に残るのも野暮だろうって事で、オレらはその場を離れる。新堂が見たいって騒ごうとしたのは、木田ちゃんが口を封じて黙らせた。
「上手く、行くかな?」
珍しく、外で人前なのに月穂がオレに身を預けて来た。それだけ寂しい思いをさせたのかなって、切ない。
「水瀬は賭けに勝った。幸成が逃げてもきっと、頑張るだろうよ。」
「青い春ねぇ?まったく…コーヒーくらい奢りなさいよ?」
「ぶー。結末を見たかったのですぅ。」
結末はきっと水瀬が教えてくれる。
オレは真の共犯者達とお茶してから、家に帰って甘えん坊になった恋人をベタベタに甘やかした。




