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オレが通ってる水瀬学園の保健室には、セクシーボインがいる。
「"木田先生、ありがとうございます。"」
にっこり微笑んで台詞を告げたら、胡散臭い物を見る目をされた。失礼な養護教諭だ。
「何を企んでいるのかしら?あなたがこんな擦り傷程度で保健室に来るだなんて…怖いのだけれど?」
本当は指になんかの棘が刺さって保健室を訪れるってシナリオらしいけど、そんな都合良く棘は刺さらない。だからわざと擦り傷作ってやって来た保健室で、早速幸成の計画は破綻している。だけど幸成は保健室の外にいるから気が付いていない。
養護教諭の木田莉音は既に、オレがナンパして振られ済みなんだ。だってセクシーボイン。声を掛けないのは失礼だろ?
「新しい友達とちょっとしたゲームしてんだ。」
「あらそ。なんでも良いけれど巻き込まないで頂戴。」
「それは無理だな。木田ちゃん巻き込む為に来たんだもん。」
悪い顔で笑ったら、溜息吐かれた。
ふわふわ長い茶色の髪にぽてっとうるぷるな唇。垂れ目に涙ボクロがあってボイン。夢みたいな養護教諭だよな。
幸成に怪しまれないように適当な所で話を切り上げて、オレは保健室を出る。
「次は教室。クラスメイトに海野月穂って子がいるだろ?君もよく話してる。」
月穂はツンデレキャラ。"洋人"とは去年から同じクラスで、本好き少年洋人をトロい、ドジ、根暗と常に罵るが、それは好意の裏返し。水瀬しおりと洋人が恋仲になると、ひっそり身を引く健気な子らしい。
「メインヒロイン攻略後にプレイ出来るアナザーストーリーで月穂が相手役の話があるんだけどさ、デレた後が可愛いかったよ。」
「なるほどな。月穂もオレ様のハーレム要員か…」
「違うから!ハーレム作ったらダメだから!」
「ハーレムは男の夢だぜ?」
「そんな性格の男が主人公のギャルゲーなんて、僕は買わない。」
「現在進行形でプレイ中じゃねぇか。」
ニヤリ笑ってした発言は、小声だったから幸成には聞こえなかったみたいだ。残念。聞こえてたらどんな顔したかなって想像すると、楽しくなる。
「洋人、何処行ってたの?あんた日直でしょう?」
ツンツン月穂ちゃんの登場だ。
オレはにっこり微笑んで、月穂に近付く。
「"ごめんね?ちょっと保健室に行ってて…"」
「何?怪我したの?」
さらり、絹糸みたいな黒髪が目の前で揺れる。月穂は吊り目で唇が薄い。キツい美人顏。
「洋人?どうしたの?」
「なんでもねぇよ。」
自分の席でオレの方を見てる幸成に聞こえないように小声で返す。
幸成に見えないように背を向けて自分の身体で隠して、月穂の手を握った。
「今日、うち来る?」
「い、行かないわよ。」
「話、あんだけど?」
月穂の眉間に皺が寄る。
「ここでは出来ない話?」
「見張られてるから無理。」
「誰に?」
「それを話すんだよ。」
握った手を持ち上げて甲にキスをする。すべすべ、気持ち良い。
「へ、変な事は無しね。」
「それはキツいな。」
唇付けた場所を舌で撫でたら、平手打ちを食らった。
真っ赤な顔でオレを殴った月穂は、殴った後にマズイって顏。考える前に手が出て、いつも後悔すんだよな。
「反省してんなら来いよ?」
「わか、ったわよ………ごめん。」
「もう慣れた。」
殴られた頬を撫でながらくすりと笑ったら、月穂は更に赤くなる。キスしたい。けど、また殴られるから我慢。