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「じょ、じょじょ城島洋人!ななななんでそんなにチャラいんだ?!ああ有り得ない!そ、そそそんなの洋人じゃないよっ!きき君は誰だ!!」
帰り道、突然鞄を掴まれて怒鳴られた。
吃って泡飛ばしてるこのひょろいモサ男は確か…同じクラスだったな。
「えーっと、塩谷…だっけ?頭大丈夫?」
鞄に抱き付かれてる所為で逃げられない。困った。どうしようって思いながら話し掛けてみる。そしたら真っ赤な顔で怒ってる不審なクラスメイトはまた、変な事を口にする。
「君、ぼ僕と同じで転生者でしょう?前世のき、記憶…あるでしょう?」
まじまじ、オレより背の低いそいつの顔を見つめた。
なんだろ…これ、答えたらオレまで頭おかしい仲間になる気がする。
「キモい、ウザい、離せ。」
振り払おうとしたけど、意外に力が強い。鞄を見捨てて逃げようか考えるけど、財布に家の鍵、無くちゃ困る物が全部鞄の中だ。
困った。マジで困って途方に暮れる。
「"君の為に僕がいる〜図書室に舞い降りた天使〜"。通称"キミボク"ってギャルゲー、知らない?」
「知らねぇ。お前、オタクなの?」
顔を顰めたオレを見上げてる地味顔が、喜びに輝いた。
「"オタク"なんて存在、この世界には無いよね?ね?やっぱり転生者だ!僕と一緒だ!」
「なぁ、マジで怖い。とりあえず鞄、離せよ。」
「やだ。逃げるでしょう?」
「当たり前だ。」
誰か助けてーって周りに視線を走らせるけど、悲しい事に誰もいない。近道で人通りの少ない路地に入ったのが仇になった。
「なら話は早いよね!君はこの世界の主人公なんだ!しおタンを君が救うんだ!シナリオも選択肢も僕が全部覚えてるし、僕らならやれるよ!僕、キミボク大好きでさぁ、初回限定版でゲーム買ったし、アニメ化のDVDBOXも三つ買ったんだ。観る用、保存用、鑑賞用でさ。しおタンのフィギュアがついててこれまた作りが精巧で最高。この世界に転生して生しおタンが見られるって喜んでたのに、洋人がなんかおかしくてどうしようって思ったよ!あ、僕は塩谷幸成。君と同じクラスだよ。幸成って呼んでくれて構わない。」
最初吃ってたのはなんだったんだってぐらいベラベラと、幸成は捲し立てた。顔を輝かせてギャルゲー愛を語り続ける幸成と、げんなりするオレ。
これが、幸成とオレの出会いだった。
***
「洋人!図書室!図書室に行くよ!」
クラスの友人達とナンパの仕方について語り合ってたら、オレは幸成に捕まった。こいつは人見知りのくせに自分の目的の為には強引だ。昨日あの後、うちまでストーカーして来て延々と"キミボク"のストーリーを聞かされた。
「で、オレは"しおタン"攻略しつつオレ様ハーレムを作れば良いの?」
「ちっがーうっ!そんなゲスい主人公、誰が感情移入するもんか!」
「いてぇしうるせぇ。勘弁しろってぇ…」
ぽかすかぽかすか、まるでガキみたいな殴り方は地味に痛い。幸成はどうやら、メインヒロインの水瀬しおりとオレに恋愛させたいらしいんだ。
「だってさぁ、よく考えてみろよ?主人公に女が寄って来るんだろ?それ全部食わないのは男じゃねぇって。」
「食うな!一途でいろよ!」
「えー、ハーレムー」
"キミボク"のメインヒロインは水瀬しおり。それと恋愛する"主人公"こと"オレ"には、他にも魅力的な女の子達が寄って来るんだって幸成が昨日長々と語った。オレはそれを全部蹴って、水瀬しおり一筋を貫き通さないといけないとか…勿体無い。実に勿体無い。
「据え膳食わぬは…」
「男の恥じゃないから!最低なだけだから!」
「幸成童貞のまま死んだ?」
「そうだよ!魔法使いになったよ!」
「魔法使い?何それ?お前魔法使えんの?」
「知らないなら良い。でも童貞じゃなくたって、好きになった子には一途だろ?」
「そんな夢を見ていた頃がオレにもありました…」
「変な事言ってないで、ほら、行って来て!」
「うーっす」
幸成は"女"に夢を見てるんだろうな。だからしおタンしおタン言ってんだ。でも自分で攻略する勇気が無いからオレをけしかける。ゲームの主人公って役割を、オレにやらせようとしてる。
面白ぇじゃん。
ニヤリ悪い笑みを浮かべたオレは図書室に向かう。
幸成が隠れてオレを見てる。
オレの頭の中にはゲームを攻略する為の情報が幸成によって詰め込めれた。
それを使って何をしようか。面白いゲームの、始まりだ。