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夜鳥  作者: 硝子町 玻璃
3/9

しょうりょううま

少し早いですが、このおはなし。

 夏真っ只中の頃の話。確か四年生の時のことだと思う。


 夜鳥さんの店は真夏でもひんやりしていた。冷房は設置されていないそうだが。

 家では母が節電だと言って、エアコンをつけてくれなかったし、外にいれば五分もしない内に汗が全身から溢れ出した。蝉取りをして来いと言われてもそんな気分にはとてもなれなかった。

 怪しげな骨董品店は、僕にとって避暑地と化していた。


「そうか。外はそんなに熱いのか」


 そう言って、夜鳥さんが出してくれたのは、かき氷だった。それもただ細かくした氷に着色料を存分に使用したシロップをかけたものではない。

 まず氷がまるで折り畳んだ布のような不思議な形をしている。それとシロップ漬け蜜柑や桃、パイナップル。白玉や粒あんを乗せた随分とボリュームのあるかき氷だった。

 台湾風のかき氷、らしい。こんな風に具もたくさん盛り付けるなんて贅沢やなと思った。

 

 冷たいものが食べたくて、けれど小腹も空いていた僕にはありがたいおやつだった。

 早速食べてみる。氷は口に入れた瞬間、溶けてしまった。氷というよりは雪を食べているかのようだった。お祭りの時に買ってもらえるかき氷とは全然違う。それに氷自体がほんのり甘い。どうやら、あとで分かった事だが、台湾風のかき氷は氷ではなくアイスを削って作るらしい。

 果実は噛むとじゅわっとそれらが持つ甘酸っぱさとシロップの甘みが溢れた。白玉はもちもちしていて食べ応えがある。粒あんは潰れていない小豆の触感がまたいい。


 美味しい美味しいと食べ進めていると、あるものが目に入った。

 それは小茄子と横で半分に切られた胡瓜だった。いくつもあり、どれも棒のようなものが動物の足を見立てるように四本ずつ刺されていた。

 一つだけなら可愛いと思えたが、テーブルを埋め尽くすくらいの数になると、さすがに気持ち悪くて思えてくる。

 夜鳥さんは僕を見て笑った。きっと僕は盛大に顔をしかめていたに違いない。


「夜鳥さん、それ何なん?」

「これは乗り物だよ。見れば分かるじゃないか」


 分からないから聞いているのだ。そう抗議してパイナップルを頬張る。


「盆の時期だ。最近は墓参りするだけで彼らの移動手段のことをあまり考えなくなるようになった。だから僕がこうして用意してやっているというわけさ」

「あかん、分からへん」

「そうか。その様子では精霊馬も知らないかね?」


 しょうりゅううま。初めて聞く単語だ。


「盆になると霊がこの世に戻ってくる。これは彼らのための乗り物でね。人も自転車や車を使うだろう?」

「何で茄子と胡瓜なの? 僕、茄子あんま好きやない……」

「茄子は牛の役割があるのさ。牛は歩くのが遅い。少しでも先祖がこの世に留まって欲しいという願いも込められているんだよ」

「胡瓜は?」

「馬だ。馬は牛よりずっと足が速いからね」


 そういえば、田舎に住んでいる祖父母がこういうものを作っていた気がする。今年は父の仕事が忙しくて

遠くにある父方の実家には帰れない。

 だが、帰れないなら帰れないなりにこういうのを作るべきだろうか。父方の祖父は半年前に亡くなった。会う度に僕にお菓子をたくさん買ってくれて可愛がってくれた優しい人だった。


 また会えるのであれば、祖父のための馬を用意してあげたいと思う。


 僕も一つ作りたいと夜鳥さんに言おうとした時だった。


 胡瓜の馬が一つだけ、ぷかぷか浮いていた。


「夜鳥さん、なんや浮いとるんやけど」

「使ってくれているようだね。どうも、おかえり」

「……おかえりなさい」


 夜鳥さんが優しい声で言ったので、僕も同じことを言うことにした。


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