魔王の討伐を頼まれた農民と出来損ないの魔法少女
燦々と降りそそぐ太陽を恨めしげに一瞥し、俺は今日も使い慣れた鍬を振り下ろした。
無数の汗が頬を伝い地面に落ちるが、それはすぐに乾いてしまう。
生ぬるい風は癒しを与えてくれる筈もなく、疲れた身体に追い討ちをかけるだけだ。
だがここで休むわけにはいかない。
村長の今年で12歳になる娘さんの予言では、明日辺りに雨が降るらしいからだ。
そんな年端もいかない少女の予言が信じられるのか、と思うだろうが彼女の予言が外れたことはない。
いくら当たるとは言っても毎日できるわけではない。
所謂、夢のお告げ。その日見た夢で見たこと聞いたことが現実で起こるもの。
俺自身が体験したわけではないから本当にそうなのか分からないが、事実予言は的中しているため信じざるを得ない。
そういったこともあり俺は今日中に、畳200枚分の畑を耕し野菜の種を蒔かなくてはいけない。
ここ数日の間晴れが続いていたため、正に恵みの雨である。
再び鍬を持ち上げ、汗を振り撒きながら振り下ろす。
その作業を繰り返しようやく最後の一列に差し掛かる。
「もうすぐだな……」
己を奮い立たせるため、そうひとりごちる。
額の汗を右腕で拭い、最終地点を見据え作業を再開した。
太陽は尚もじりじりと肌を焼き付ける。先ほどよりも気温が上がっている気がした。
肩で息をしながら何度目かの鍬の振り下ろしを終えたとき、俺の遥か後方から男の悲鳴が聞こえた。
「うわああああああああああ!」
ただ事ではない、そう思った俺は右肩に鍬を担ぎ上げ声のしたほうへ急いだ。
人口40人程の小さな村のため、全員が家族みたいなものだ。共に生活してきた人が危機に瀕しているのなら、何としてでも助けるのが男ってものだろう。
畑や民家の脇道を駆け、目的地に辿り着く。
地面に倒れるおじさん。その顔には恐怖の色がありありと浮かんでいる。
何がそこまで怖いのか、彼の目線の先を追う。
そこには緑色の子鬼ーーゴブリンが10体、赤い舌をだらしなく出しながら棍棒を天に掲げ、おじさんを睨んでいた。
考えるよりも先に身体が動いていた。
村に魔物が現れるなんて何年ぶりだろうか。
思い出せないくらい前に一度現れたきり、しばらくなかったはずだ。
そんな村に自衛能力があるかと問われれば答えは否。長閑で平和なこの村には剣や槍などの武器の類は一切なく、畑を耕す鍬や草を刈るための鎌などの農具しか存在しない。
倒れているおじさんは丸腰で身を守れるような物は一つもない。俺はここに来るまでずっと右肩に担いでいた鍬を両手で持ち、おじさんの下へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
「ロインじゃないか!? どうしてここに?」
「悲鳴が聞こえたから助けに来たんだよ」
「すまねえな」
言って彼は立ち上がる。
「オイラは皆にこの事を伝えてくる」
「了解!」
横目でおじさんが走っていくのを確認する。おそらく武器になりそうなものを持って駆けつけてくれる筈だ。
俺は視線を正面に戻す。
勝てるかどうかはわからない。だがやるしかない。
疲れた身体に鞭を打つ。
俺は魔物共に向かって走りながら鍬を頭上に持っていき、一番先頭にいるゴブリン相手に勢いよく振り下ろした。
棍棒で守ることもせずに子鬼は全身で鍬の刃を受ける。初撃で怯んだ隙に力任せに横から胴を抉った。地面に倒れたゴブリンは白い粒子となって霧散、そこに残ったのは攻撃を受けた時に出た魔物の体液だけだ。
二撃で倒したことにより感覚を掴んだ俺は、次のゴブリンに狙いを定め一気に攻め立てる。
鍬を振り回し一体、二体と敵を屠っていった。
そして激闘の末ようやく最後のゴブリンを撃破した時、どこからか軽快なファンファーレが聞こえてきた。
パッパパパパッパッパパーン!!
「な、なんだ!?」
訳が分からなく辺りを見回してみる。
するといつの間にか後ろに来ていた村の住人の中から、杖をついた老人が一人俺の傍に寄ってきた。
「おめでとうさん。どうやらレベルが1になったようじゃの」
は? レベル?
「なあじいさん、レベルって何のことだ?」
「端的に言えばちょっと強くなったということじゃ」
「えっ、ちょっとってどのくらい?」
一度じいさんは俯き、その顔に翳りが差す。
何か言いにくいことがあるのだろうか?
だがすぐ元の表情に戻り口を開いた。
「ロインよ。早速だが君には魔王を倒すための旅に出てもらう」
「無視かよ! ってちょっと待て! 魔王を倒すためって、おかしいだろ。それは勇者の仕事じゃないか」
「最近の勇者はレベル上げに夢中で、全く魔王を倒そうとしないのじゃよ」
「は!?」
もう訳がわからない。
助けを求めて後ろに待機している村人を見る。
その中には先ほどのおじさんも居た。
「おじさん!」
だがよく見てみると彼らの手には何も握られていない。
「元から戦う気ゼロかよ!」
使えないおじさんだな。
頑張れよー、なんて言っているがわざわざ返事をしてやる義理もない。
俺は仕方なくじいさんに向き直った。
「覚悟を決めたようじゃな」
「どこをどう見てそう思ったんだ? 全然そんな気はないけどな」
「これを渡しておく」
緑色の液体が入った小瓶だ。
「これは?」
「Mポーションというもので魔法使いの薬じゃ」
くれるというのなら貰っておこう。なんか既に行くことが前提になっているようだな。
色々と疑問は残るが、旅に出たくないわけではなかった。
「わかったよ。ただ俺の代わりに誰か畑耕しておいてくれよ」
「よし。わしがやろう」
「やめとけ老いぼれ! 死ぬぞ」
杖ついてるじいさんになんて任せられない。
「では、しっかりな」
「えっ、今から行くのか」
じいさんは黙って首肯する。
「いやいやいや、せめて明日にしないか? さすがに疲れたんだが」
「行け! ロインよ!」
「随分せっかちだな! はあ、何なんだ揃いも揃って変人ばかり、俺はこんなのと一緒に暮らしてたのか」
数年間住んでて今知った。
「じいさんと話してると疲れるから、そろそろ行くわ」
俺が村の反対側に足を向けたとき、さっきのおじさんがにこやかな笑顔で走ってきた。
「今度はあんたかよ」
「まあまあ、そう言うなよ。村の外は危険でいっぱいだ」
村の中はあんた達みたいな変人のせいである意味危険だがな。
「これを持っていくといい」
見たところ普通の農具としての鎌みたいだが、何か特別なものなのだろうか?
「これは?」
「鎌だ」
「見ればわかるわ! 俺が聞きたいのはどういう鎌なのかってことだ」
おじさんは何が楽しいのか、ニコニコとした顔を崩さない。
「ただの鎌」
「そうですか」
期待した俺が馬鹿だった。
「じゃあ、もう行くわ」
「あっ、待って」
俺は深いため息をついて顔だけ向ける。
「まだ何か」
「この先にある《リーモの森》には気をつけて。森を支配する主がいるって話だから」
それだけ言って去っていった。
後ろのほうで、フラグ立てたぞ、とか言っていたが何のことかさっぱりだ。
とりあえず貰った鎌は武器として使おう。
鎌についている紐を腰の辺りに結んでぶら下げる。
数年間過ごした村に心の中で別れを告げ、俺は《リーモの森》へと向かった。
◇
鬱蒼と茂った木々の合間を歩くこと数十分。今日は快晴の筈だが、進むごとにより闇は一層深くなっていくばかりだ。
地面には木の根や蔦が這っており、周囲はどこから魔物が現れるか分からない状況。
足元だけでなく周囲にも注意を払わなければ、緊急時に対応できないだろう。
それにおじさんが言い残した“主”というのも気になる。
俺は村を出る時に貰った何の変哲もない鎌を使って、邪魔な草や木の枝を切り払い歩を進めた。
ふと村長に言われたことを思い返す。
「魔王を倒せって……無茶すぎるだろ」
勇者や冒険者のように戦いの心得があるわけでもない、作物を育てることしか能のない農民である俺に、そんな依頼をされても到底できるとは思えない。
「はああぁぁ」
口から出るのはため息ばかりで、前向きになり得そうな要素など皆無だ。
足元に注意して地面を見る行為自体、傍から見たら住む家もなく往くあてもない唯々《ただただ》徘徊する病人にしか見えないだろう。
上方でがさがさと葉と葉が擦れ合う音。
身の丈の2倍はあろうかという長さの樹木からそれは聞こえた。
「何だ?」
訝しげに見据えると同時に全身に緊張が走る。
もしやおじさんの言っていた“主”だろうか? だとすれば悠長に構えている場合ではない。
俺は持っていた鎌をしまい、その手で代わりに鍬を掴む。
どのような形態をしているのか想像ができない。巨大な竜や獣だった場合、勝利できる確率など零に等しいだろう。
そうなった時は全力で逃走するだけだ。
音は徐々に大きくなる。
村から出たあとの初陣。俺は鍬を握る手に汗をかきながら、さらに力を込め相手の出方を窺う。
がさっ!
一際大きな音と共に何枚かの葉を落としながら、“それ”は姿を現した。
「きゃああああああああああああああああ!!」
悲鳴、そして少女。それは決して竜や獣の類ではない。見間違えようがないほど可憐な少女だった。
短めに揃えられた桃色の鮮やかな髪、遠目からでも分かる艶やかな肌、それらは小顔だが大きな瞳を持つ彼女にとても似合っていた。
しかし何か違和感を覚える。
その少女の頭に乗っている犬耳付きの帽子。あれは一体なんなのか。
空から女の子が降ってくる。
そんな異常な状況にも関わらず、俺の心は波風の立たない水面のように穏やかだった。
重力という自然の摂理には逆らえず、加速しながら落下してくる。
俺は彼女を受け止めようと両手を広げた。
だが彼女が地面と垂直に落ちてくると思い真下で構えていたのだが、どうやらそうではないらしく僅かに角度をつけながら落下していたのだ。
そう分析した直後、ドスッ! という音と全身へかかる衝撃、更に視界が暗くなる現象が起きた。
考えなくとも理解できる。彼女が俺の顔面に着地したのだろう。この場合は着“顔”か。
「いたたたたたたた……」
少女の声。どこから落ちてきたのかは分からないが、木の上からだとしても相当な高さだろう。
俺自身は衝撃は大きかったものの痛みはさほどなかった。
「あ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
上に乗っていた少女は謝罪の言葉を述べながら、慌てて横に退けた。
視界に光が蘇る。眼前には地べたに何度も額を擦り付け、懇願するかのように涙声で謝罪する美少女。
改めて彼女を見ると、やはり可愛い。
謝罪する桃色髪の少女をいつまでも放っておくと、彼女の綺麗なおでこが擦り減ってしまう。
「俺は大丈夫だし、何も怒ってないから顔上げて。ほら」
彼女の濡れた瞳を見ていると、何も悪いことをしていないのに罪悪感を覚えてしまいそうになる。
不安そうな顔に徐々に笑みが浮かび、彼女の紅の澄んだ双眸が俺の顔を捉えた。
「俺はロイン。訳あって旅をしている者だ」
魔王を倒すためだとか、実は農民だとかはあまり言いたくないため控えた。
「わ、わたしはアルノ……いちおー魔法使いやってます、はい」
一応の部分が気になったが、それよりも魔法使いであることの方が驚きだった。
「魔法使い!? じゃあ何か魔法使えるのか?」
「え、ええ。いちおーは……使えますけど。……ちょっとやってみますね」
俺が期待に満ちた目で見ていたのを察してか、少女はゆっくりと木製の杖を片手に立ち上がり、一本の木に向かって呪文を紡いだ。
「…………ファイアーボール」
直後杖の先から火の玉が現出。それは人の頭ほどの大きさで周りを照らしながらも確かな熱を持って存在していた。
少女が杖を振ると火の玉は木に向かって放たれ、大きな音と衝撃を与え巨大な木一本を赤く焼き尽くす。
一分と経たずに燃え尽きたそれは、黒く焦げ他の木に燃え移ることなく鎮火した。
「……すごいなあ」
「ホ、ホントですか!?」
思わず零れた感嘆の言葉に魔法少女は嬉しそうに飛び跳ねている。
生まれて初めて魔法というものを見たが、ここまでのものとは思わなかった。
「あ、あの!」
感動の余韻に浸っていると、決意に満ちた表情で見上げる少女の姿があった。
「何?」
「旅をしてるって言ってましたよね? その旅にわたしも連れてってもらえませんか?」
思わず耳を疑った。こんな美少女魔法使いが一緒に居てくれるなら心強い。
「そんな、こっちからお願いしたいくらいだ。君がいいのなら一緒に来てほしい」
「ありがとうございます! これからよろしくお願いします! ロインさん!」
溌剌としたお礼と満面の笑み。
彼女の言葉に俺も「よろしく、アルノ」と笑顔で返した。
◇
新しく仲間になったアルノと共に森を抜けた。
結局おじさんの言っていた“主”は現れなかったが、余計な戦いをしないで済むならそれに越したことはない。
森を歩いている途中で俺とアルノは色々と話をしていた。
アルノは元々王都グーキントにいたのだが、友人との演習中に暴発した魔法を受けここまで飛ばされてきたらしい。
正確な距離は分からないが、王都からこの森までといったら1ヶ月歩き続けても着かないと、村の人に聞いたことがある。
だが彼女曰く、魔法学校を卒業したあとのため急ぐ旅でもないとか。
「それでロインさんは魔王を倒すために旅を?」
ここに来るまで俺も自己紹介をしていた。
共に旅をする仲間に隠し事をするわけにもいかないしな。
「ああ、いきなり言われて訳わからなかったけど、こうしてアルノに会えたなら旅に出てよかったって思うよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
隣を歩く少女は優しくはにかんだ。
俺は彼女に向けていた視線を前へ戻す。
森を抜けた先に広がるのはどこまでも続くように思える大草原。
青々と茂る草花が穏やかな風に靡く。旅の道中でなければ地べたに寝そべって青空を仰ぐのも悪くはないだろう。
「ロインさん! 敵です!」
緊迫したアルノの声。
暢気に青空なんか眺めている場合ではなかった。
前方には10は超えるだろうと思われる数の魔物、狼からの派生種――ルーフル。口から覗かせる牙や地面を抉るほどの爪はどちらも鋭く、人の肉など簡単に引き裂いてしまうだろう。
アルノに傷を負わせるわけにはいかない。後ろに彼女を下がらせ俺は背中に携えた鍬を構えた。
グルルルル、と唸るルーフル共を睨みつける。
鍬を握る手に力を込め、先手を取るべく相手より早く動いた。
下段に構えた古ぼけた鍬を先頭の魔物に向かって思い切り振り上げる。だが相手も素早い動きで回避したため体を掠めただけだった。
俺が体勢を戻そうとした時、後方から火の玉が現れ飛んだ。それはルーフルが避けた位置に。
激痛に悲鳴をあげ先頭にいたルーフルは炎に包まれ霧散した。
アルノの放ったファイアボールか。
やはり凄い。俺一人では全滅するのも難しいと思えたが、これならいけそうだ。
その後も魔法少女に援護してもらいながら、徐々に敵の数を減らしていく。
残り4体。
着実に倒してきたが俺とて無傷ではなかった。素早い魔物を複数相手にするのは予想以上に大変だ。
腕に力が入らなくなってきたため、今は片手で扱える鎌を使用している。
前衛の俺がなんとかしないと。
肩で息をしながら奴等を見据え、重くなった右腕を上げた。
ふと違和感を覚え背後を振り向く。
先ほどから例の魔法が炸裂していなのだが、何かあったのだろうか?
「どうしたアルノ?」
杖を構えたまま固まっているアルノに向かって声をかける。
「……MPが尽きました」
「えっ? えむぴー?」
また知らない単語だ。じいさんが言っていたレベルとかそういう類だろうか?
「MPを知らないんですか? 常識だとばかり……」
まさか知らない人が居るなんて……って顔をしているアルノから視線を逸らし、魔物へ意識を集中する。そんなに意外なのか?
とりあえず今のアルノは魔法が放てない状態みたいだ。だとすれば……俺が倒すしかない!
前方から一体のルーフルが跳び掛かってくる。
俺は素早い動きに反応し横へ跳躍、そのまま身体を半回転させ魔物の胴に鎌を突き刺した。
宙にいたルーフルは霧散。これで残り3体になった。
流石にきついな。それでもやらなくちゃいけない。
「さあ来い! 魔物共!」
俺が1人で戦っている中、後ろから念仏のように何かを呟く声が聞こえる。もしや魔法が使えるようになったのだろうか?
「もっとMPがあれば……もっとMPがあれば……もっとMPが…………」
ふと思い出す。そういえばじいさんから貰った『Mポーション』があったはず。あれを使えばもしかしたら。
「アルノ! これを!」
魔法少女に向かって緑色の液体が入った小瓶を投げつける。
彼女は杖を置いて、小瓶を両手で抱きかかえるように受け止めると、驚いた顔をしながら一気に飲み干した。
いつまでも彼女を見ているわけにもいかず、気配を感じ横へ跳ぶと鋭く尖った爪が俺の居た空間を切り裂く。
だが避けた先にもう一体のルーフルが襲いかかってきていた。万事休すか。
回避できないとふみ、両腕を交差させ防御体勢を取る。
両目を閉じ来るべき衝撃に備えていたが、いつまで経ってもその時は訪れない。恐る恐る目を開けてみると、眼前に居たはずの魔物は全て消え去っていた。
「どういうことだ?」
状況が理解出来ず周囲を見渡す。視界に映ったのはただ1人の少女。
「アルノ……」
「なんとか役に立てました」
今にも泣きそうな笑顔でそう呟いた。
「あの液体は一体なんだったの?」
「知らないで持っていたんですか? あれはMPを回復するためのポーションです」
「だからその……えむぴーってなんなの?」
「ホントに知らないんですか!? ……MPっていうのはマジックポイントのことで、魔法を使うために必要なポイントなんです。そのポイントが今のわたしには5しかないので、消費MPが1のファイアボールは5回しか使えないんです」
なるほど。確かに始め5回放ってからアルノは何もしていなかったもんな。
「とりあえずなんとかなりましたし、先へ行きましょう!」
先ほどの泣きそうな顔とは打って変わって、元気よく右手を天に向かって突き出し前を歩いていく。
だが待てよ? 今の一戦であれだけ苦労したのだ。もし再びあれほどの数の魔物が現れたら今度こそ……。思わずゴクリと唾を飲み込む。
「何してるんですかー? 置いていっちゃいますよー?」
この先辛い戦いが何度も待っているだろう。けど、あの笑顔のためなら俺は何度だって守れる気がする。
「ああ! 今行く!」
彼女を追って大草原を駆ける。未来に向かっていくように。
俺達の旅はまだ始まったばかりなんだから。