1.とある3人組
金剛王橋という橋がある。
大仰な名前の割には規模が小さく人通りも少ないちょっと同情してしまいそうで、その実、死ぬほどどうでもいいどこにでもある橋だ。
そのためか、橋の下にはヤンチャ坊主どもが溜まりやすいことで有名でもあった。
そんな清く正しい生徒諸君ならば近づこうとさえ思えない場所に、奇妙な学生たちがやってきた。
繚乱学園というこの辺どころか、この国で有名な私立高校の制服を着ている男2人、少女1人の集団だった。
橋にいた不良たちは少々面を食らったが、落ち着きながら彼らの人相に注目した。
真ん中の男は、赤みがかった茶色の髪の毛を無造作にしている、あまりやる気というか覇気というかそういったものが欠片も感じられない生徒。左にいる男は、竹刀袋を肩からかけている、特に弄ってない少し長めの髪をしたニコニコ顔の温和そうな生徒。右にいる女は、黒髪のロングであり、釣り目気味の気の強そうな顔立ちが整っている生徒。
いや、顔にあどけなさが残っている様子を見る限りでは男女というよりは少年少女というほうが正しいだろう。不良たちはカモがネギをしょってきたといわんばかりに顔を悪意の笑みに歪ませる。
彼らはすかさず獲物を逃げないように取り囲む。
一人の不良が真ん中の少年に近づきながら声をかける。
「坊やたちどうしたの? 迷子だったりするのかなぁ~」
「でも、ごめんねぇ。ここ通行料取ってるんだわ。わかったらとっとと財布置いて回れ右してくれないかなぁ?」
そんな矛盾だらけの発言を当然のようにかます。
そこで少女の生徒に目が留まる。
にやけた顔をさらに歪ませて、
「あ、でも今ならそこの女の子置いていくだけで勘弁してやってもいいかなぁ?」
と、少女に親指を向けながら笑う。
笑いが伝染し、周りの不良たちも笑う。ニタニタと感じの悪い吐き気を催すような笑顔だ。
そこで、初めて真ん中の少年が気だるそうに頭をかきながら口を動かす。
「そういや、もう定番過ぎて言い忘れてたけど、」
普通の生徒なら恐怖に硬直し、一歩も動けなくなるこの状況に置かれながらも、少年は口を動かし、話しかけた不良をあごで指しながら、
「正当防衛にしたいから、向こうから手ぇ出すまで攻撃すんのは無しな」
そのセリフを聞いた目の前の不良はその言葉に血が上り、
「なーに調子くれちゃってんのかなぁ!!」
少年の顔に勢い良く殴りかかる。
体重を乗せた拳が少年の顔に突き刺さることを不良は確信した。
そのため最後に少年が言った言葉を聞き取ることができなかった。
「はい、まいどあり」
直後顔面に激痛が走り、意識が暗転したためだった。
さて、大事なことなのでもう一度。
ここは清く正しい少年少女は近寄らない場所だ。
それでもここに来たこの学生たちは──
清くも正しくもなかったというだけだったということだ。
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挑発したらご丁寧に殴りかかってきやがった。いやー、単純で助かるよな、ホント。
俺は不良その1君の顔面にクロスカウンターを決め込み、そう思った。
手ごたえ的に鼻をへし折った気がする(物理精神共々だ)。こりゃしばらく病院が実家になりそうだな。
「ていうか、その正当防衛って言葉もいい加減聞き飽きたかな」
と、スマイル0円を現在進行形で売りさばいている少年が話しかけてくる。
藤村宗一ってのがこいつの名前だ。
いつもニコニコして整った顔立ちもあってか人がよさそうにも見えるのだが、如何せんこいつの腹は黒よりも真っ黒なのだ。
いつも平然と人に毒入りの言葉を投げかけてくる。
実際人当たりはいいのだが、何を考えているのかがあまり読めないっつうそんなやつだ。
竹刀袋を持っているのでお分かりかと思うが、剣道部である。ついでに言うと、名門である繚乱学園にもスポーツ入学でいくような怪物その1なのだ。
だが、本当に強すぎるがゆえに剣道部に対しては幽霊状態であり、練習も自分で行っている。その運動能力が認められ、学園のほうから自己研鑽の道を認められたのだ。
要約するとすげー強い。大会出禁になるくらいに。
「そうよ。そんな事言ってないで、少しはやる気をだしたらどうなの? せっかく入った仕事でしょう?」
と、左から少し呆れ気味な口調で話しかけられた。
こいつの名前は明西凛。
黒髪ロングで、少々釣り目気味の意志の強い目ときれいに整った顔立ちはその名に恥じない凛とした雰囲気を漂わせている。
街中を歩くと、女連れだろうがなんだろうが男たちが思わず振り向いてしまうほどの容姿の持ち主であり、モデルに誘われたことも。
だが、少々……というか結構口うるさいのでここだけの話それだけは何とかしてほしいものだよ、ホント。
そしてこんな容姿をしていて、凛も普通ではないので安心していただきたい。
宗一が剣士ならば凛は武術家。空手家でも柔術家でもなく武術家ね、ややこしいけど。
同じく学園から自己研鑽を認められ、すべての格闘系の部活に在籍して結果を残している怪物その2である。
彼女が皆伝を認められない武術はありえず、空手、柔術をはじめ、合気道、カポエラ、ムエタイ、中国拳法などなど数に切りがない、なんて言われてる。
そのためなのか、はたまた生まれつきなのか、筋肉なんてまるで付いてないように見えるのに阿呆みたいに力強い。
……この前なんて3メートル近い巨岩蹴り砕いてたからね?
さすがの俺でもそんなことはできそうにない。まさに、ゴリラ……いや、イエティとして地球に君臨してもなんら不思議ではない。
「……なにか失礼なこと考えなかった?」
このように勘が鋭いのはもはやご愛嬌だ。
ホント、女ってやつはこうも勘が鋭いのはなぜなのかね?
「そんなわけないじゃんか。だから俺に向かって戦闘体制とるのはやめるんだ。本気で怖いから。それはここにいるお客さんに向けるものだろうよ」
「あはは。私が本気の構えで迎えたら彼ら死んじゃうわよ」
「俺は死んでもいいってのかよ……」
「あんたなら、死なないじゃない」
「いやまあ、確かに死なないように頑張るけどよ」
でも、お前を相手にすると死ぬほど疲れるからどっちにしろ死ぬことは変わらないんだけどね。
「お二人とも。楽しい会話中に悪いんだけど」
宗一が会話に入ってくる。
いや、正直全然楽しくなかったんだけど。
命の危機だったからね、俺にとっちゃ。
「お客様結構怒ってるみたいだよ」
周りに注意を向けると不良たちがありがちな暴言を吐きまくっていた。
その顔は俺がその1君を殴り飛ばしてしまったせいなのか少々の警戒が伺えが、同時に今にも襲い掛かってきそうなほどに興奮していた。
「おっと、こりゃ良くないな。お待たせしちゃそら怒るわ」
軽く体を整えながら、囲っている不良たちに目を向ける。
「んじゃ、さっさと片付けちゃいましょうか」
「りょーかーい」
「はいはい、わかってるわよ」
この会話を皮切りに、お客さんが襲い掛かってきた。
さて、仕事といきますか。
……ん? 俺の自己紹介はどうしたって?
そういやしてなかったな。
まあなんだ、すぐやるよ、すぐね。




