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幻想のメシア  作者: からから
第一章
24/28

22.CURTAIN CALL

 

 夢を見ていた。

 俺は体質上浅い睡眠しかできないから、結構な頻度で夢を見る。寝るのも大好きだからな。

 夢の内容は大抵今まで見てきた事柄が登場する。初見の事象物はないと断言してもいい。

 けれどその夢は、今まで見てきたどの夢とも違っていた。


 輝いていたのだ。

 眩しすぎて目がくらんでしまいそうになるほど、煌びやかな黄金の夢。




 夕焼けを背景に、一面一杯に咲き乱れる色とりどりな花たち。

 その花畑で三人の人が遊んでいた。



 黄金の少女は笑顔で言う。


「あなたは、私の大切な人。大切な半身。だからあたしはあなたを守り通す。──あなたもあたしが危ない目にあったら絶対守ってよね」


 付け加えるように口を開く。


「──ついでに、あなたもあたしの大切な人よ。これからもよろしくね、アラン」


 長髪の青年が言う。


「おや、僕もですか。それは光栄で……」


 皮肉のようにも聞こえるが、その微笑は喜の感情で彩られている。


 そばに控えていた白銀の少年は言葉を返す。


「──そうだな。オレは君に救われた。色々世話にもなった。大きな恩を着せられちまったとも思ってる」


 けどな、と一息つける。


「オレも君のことは本当に大切に思っている。"恩返し"なんて形では守りたくはない。アリスはオレの大切な人だから守りたいって今ならそう思えるよ」


 少女に負けないぐらい輝かしい笑顔で言った。




 §--------------------§




 ──91階 病棟




「……う……ん」


 目を覚ますと知らない天井が目に入る。

 真っ白でなんだか明るい。

 そして、このむせ返るような消毒液の臭いからここが病室だという事を知る。


 同時に今まで起こった試練のことを思い出す。

 上体を起こして右手に目を向ける。

 そこには、真っ赤な宝石の指輪が中指にはまっていた。


 ふと両横に目を向ける。

 仕切りのカーテンは無いし、ベットは蛻の殻だが荒れ具合からして俺の他にも患者がいるようだった。

 つっても、どーせ凛と宗一なんだろーけどなー。

 置いてある私物に見覚えがある。まずは命を落としてないようで何よりだ。一息ついてもいいだろう。


 俺の身体をチェックした。

 ──うん、特に問題ないか……

 問題がなさすぎるのが気になるが、きっと俺の制服の胸ポケットに入ってる安定剤を投与したんだろう。

 そうでなかったら暗示が切れて、とっくにあの世行きだろうし。


 ──さて。

 気になることは大方チェックした。あの夢の考察をしようか。


 大前提として、俺はあの夢に出てきた光景を見たことは無い。

 だが、手掛かりはあった。


 長髪の青年に見覚えがあった。つーか、散々痛めつけられたあの野郎だ。

 アリアランス・サーバー。ランドローズ王家につかえるサーバーの長。

 俺が見たときと見た目が全く変わってないので、同一人物だろう。

 そこから推測するに、──あれはおそらく400年前の光景なんじゃないだろうか。

 アリアランスは試練の時に、こういっていた。


『僕は君の心の中に入ってるわけだが……、君の情報もある程度は入ってくる。君の持病もあってか馬鹿にならないほどの情報量だったが……いや、君は苦労してるね?』


『そりゃ、君と僕はすでに一部ではあるけど共有リンクしてるからさ。『お前のものは俺のもの、俺のものはお前のもの』ってわけ』


 てっきり俺がアリアランスに与えるだけの一方通行かと思っていたが、どうやらアリアランスの記憶も一部共有できるようだ。

 ていっても、今の起きてる状態じゃどうにもならないようで……

 結果断片的すぎるし、夢の中限定だし、おまけに任意で覗き込むこともできない。全く使えんな……


「はあ……」


 多難過ぎて溜息がこぼれる。


 登場人物についてだけども……

 あの金色にぴかぴか光っていたのがアリスだろう。

 確かにあの伝記通り人間離れしているような、異常なほどに整った容姿だった。

 妖精とかそういった類だったとか、そんな事実があったとしても全く驚かないだろう。

 むしろその方がしっくりくると思えてしまう節さえある。


 触れたくなかったけどアリアランスの容姿も、アリスに負けず劣らず抜群に整っていた。

 金髪碧眼の容姿といいランドローズとサーバーは親戚どうしか何かなんじゃないのか?

 昔の執事は貴族の長男しかなれないってくらいに高貴な身分だったらしいしな。


 銀髪赤眼のアルビノについてはだ。恐らく……つーか、確定でゲイン・サーバーだ。

 アルビノっていうと日光に弱いとか、体が弱いだとかそういう特徴を持つ人のことを言うもんだが、あいつはまるで弱っていた様子がなかった。

 アリスとともに絵になるとまで言わしめたその容姿もやはり健在だった。


 ──結論

 三人そろって美形で目の保養でした。

 Q.E.D.


 ……うん、しょうがないよね。情報少なすぎるよ。

 あとはなんだ? 三人そろって仲良し三人組でしたーとか言えばいいの?


 ──やーめだ。やめやめ。


 考察を打ち切った俺は、全身の倦怠感に負けて二度寝を試みようとするも、


「はーい、ちょっと失礼するよ〜」


 ノックもせずにずかずかと病室に入り込んできたクソ野郎どもに邪魔されて失敗してしまう。

 先頭にいたウェルキンをにらむ。


「……あんたはあれか? お偉いのくせにエチケットって言葉を習い忘れたのか?」


「そんなの僕と仁君の仲じゃないか〜。気にしない気にしない」


 パタパタと手を上下させてにやにやと笑みを浮かべている。


「それに君たちのお見舞いに来たんだ。そう邪険に取らないでよ」


 後方を見ると、凛、宗一、心音、ペティがいた。

 凛も宗一もところどころ包帯を巻いてはいるようだが、大事には至っていないようだ。


「ノックして入ってくれたら泣いて喜んだかもな」


「あはは……」


 ばつの悪い展開を感じたのか、ウェルキンは渇いた笑いで何とかごまかそうとする。

 すかさず、ペティさんはウェルキンにお説教すべく、体を整える。

 危機を察知したのかウェルキンはじりじりとペティから距離をとっていく。

 その様は、まるで肉食動物と草食動物のぎりぎりのにらみ合いだった。


 その様子を脇に三人がこちらに近寄ってきた。


「あれからどんぐらい経った?」


「今日で3日目ね」


「ってことは今日火曜日か。……しまった、月曜日に鍋さんに書類提出すんだった」


「ま、先生もわかってくれるわよ、きっと」


「いーや、お前はわかってない。あの人は絶対殴る気だよ……」


 あー、もう、学校行きたくねー。しばらく消えとくかな……?


「それより……身体はもう大丈夫なの?」


 凛が少し心配げな表情で聞く。


「……あ〜、なんとかな。暗示はかかってるようだし」


「──そう、よかった」


 ほっとしたのか嬉しそうに微笑む。

 その笑顔につられて俺までうれしくなってしまう。


「まあ、仁がどうこうなるとは思えないけどね。無事で何よりだよ」


 普段はめったに聞けない俺の身を案じていたようなことを言う宗一。


「ん。心配かけたな」


 くそ、今のテープレコーダーに掛けときゃあよかった。

 何かネタにでも出来そうだったのに……


「仁君突破おめでと〜!!」


 ネタ採取に失敗し、内心で悔やんでいた俺に、心音は明るい口調で声をかけてきた。

 ぱんぱかぱーん、なんてSEでもついてきそうな明るい口調だ。


「一時はどうなるかと思ったけど、大丈夫そうでよかった」


「おう、迷惑かけたな」


 無邪気に声をかけてくる奴は少なくとも今の俺の周りにはいなかったので、なんだか新鮮だ。


「ホントはクロスも連れて行きたかったんだけど……『興味ないね』なんて言ってどこか行っちゃった」


 クロスの氷の言葉をまねしながら口をとがらせて俺に言う。

 ていうか、口真似うまいなおい……


「あのコミュ症が来たら逆にこっちが戸惑うからそれでいいんじゃないのか?」


「あ、やっぱりそう思う? もうここにきてしばらく経つんだけどさ、クロスのあの態度は変わらないままなんだよね……」


 心音は悩ましげな表情で少し微笑む。


「それとさ、遅くなっちゃったけど……ごめんね」


 心音は突然頭を下げる。

 急な態度に驚きを隠しきれなかった。


「って、突然なんだよ? とりあえず顔を上げてくれ」


 顔を上げた心音はなんだか悲しげな顔をしていた。


「理由はどうあれ、あたしたちは君たちを攻撃しちゃったからだよ。凛ちゃんも傷つけてしまったわけだし……」


「……まあ、あの時は俺たちは不法侵入者だったからな。ここまで大きな組織になると迎撃されるのは至極真当ってわけだろ? 俺が言うのもなんだけどよ、あんま気にすんなや。でも、凛には一言謝っとけよな」


「ありがと。あ、でも凛ちゃんと宗一くんにはもう謝ったから、そこは安心して?」


 はにかみながら、俺に感謝する心音。

 ……うん、やっぱり和解っつうのはやってて気持ちいいもんだよな。


「ん、どうやらお互いに仲直りできたみたいだね。よかったよかった」


 すると、いつの間にかペティさんの攻撃から逃れていたウェルキンが声をはさんでくる。


「あの俺様とはまだだけどな」


「まあ、クロスは難しいと思うよ? 心を開くのも一苦労って感じだよ」


 はあ、とため息をつく。

 こいつもクロスの態度には悩んでいたわけだ。


「っと、実はここに来たのは単に君のお見舞いだけってわけじゃないんだ」


「俺の身体のことか?」


「それも理由の一つだ。君の治療には大分骨が折れてね。いくら治癒術式をかけても別の傷口が勝手にできあがってはいたちごっこを繰り返す羽目になってね。いち早く回復した凛君と宗一君に事情を聞かされてようやく治療に漕ぎ着けたってわけでね」


 かなり瀬戸際まで追い込まれていたようだ。益々、二人には感謝しよう。


「……絶対記憶症候群だって?」


「厳密に言えば先天性絶対記憶再認型再生症候群な」


「……忘れないっていうのは便利なものだとは思ってたんだけども、中々どうしてそういうわけでもないんだね。サヴァン症候群とは違うのかい?」


「サヴァンじゃないな、類似は。超記憶能力のほうが近いところがあるけど……」


 ふと、自分の右腕をぼんやりと見つめて続けた。


「絶対記憶症候群と超記憶能力の最大の違いはイメージができるかどうかだと思う。あくまで記憶を情報として読み取ることしかできないほうが超記憶能力。それに加えて記憶をイメージで再認し、再現できるのが絶対記憶症候群ってわけさ。それに、超記憶能力だとそれ単体じゃあ生命の危機にならんしね」


「その強みのイメージが最大の武器でもあり弱点でもある……か」


 ウェルキンは一息ついて、また言葉をつづけた。


「すまないが君の常備していた精神安定剤はこちらで勝手に投与させてもらった」


「謝ることなんてない。そもそも投与しなきゃ俺は死んじまうしな」


「まあ、術式の中には精神に作用するものもあるわけだから、仁君にはいち早く覚えてもらうよ?」


「ほう、それは中々便利じゃねーの」


「ただし、表の世界じゃやっちゃいけないよ。一応隠匿技術なんだからさ」


「わーってるっての」


 ウェルキンは微笑みながら頷いてくる。

 ま、場所限定とはいえ、一々点滴しなくても済むっていうのは便利でもあるんだしな。




「さて、それじゃあもう一つの話題と行こうか」


 ウェルキンはそばで固まって話をしていた三人に顔を向けた。


「宗一君と凛君も聞いてほしい。君たちが手にした異能について少し話をしようと思う」


 一斉にウェルキンに視線が集中する。


「まずはマナについて。原則として一個人が持っているマナの量はそれぞれ違う。訓練次第では増量することも可能だけど、それも個人によって限界量が定められているってことを忘れないでほしい。無理に上げようとすると最悪死亡するなんてケースもあるから十分に注意してほしい」


「ペティ、葉塚局長からもらった検査結果を」


「ここに」


 ペティさんはウェルキンのそばによって10枚ほどの紙束を手渡す。


「検査?」


「ああ、試練をクリアした異能者が受けるちょっとした検査の結果さ。君が起きてからでもよかったんだが、担当の局長の都合もあって仁君は寝たままでこちらで勝手に調べさせてもらった。一応凛君と宗一君の同意の上に行ったんだが、こちらとしては配慮が足りなかったね。申し訳ない」


「……おう」


「ありがとう。では、一人一人説明するよ」


「まずは……藤村宗一君だね」


「僕?」


 呼ばれた宗一は心なしか少し緊張しているようにも見える。

 書類に目を通すウェルキンの顔には……本当にわずかだが……困惑……してんのか?


「宗一君は……魔術だね。得意分野は結界術式。マナランクはE……」


「えっと、それだけじゃ意味わかんないんだけど……」


「あ、ごめんごめん。説明するよ。得意分野っていうのはその人が一番『使うと効率のいい』魔術のことだよ。君の場合は結界術式だね。でも、結果と武器を見る限りではただ"張る"ってだけじゃなさそうだけど。マナランクっていうのは、まあ、端的に言うと保有量のことだよ。Cを平均としてS+が最高、E−が最低ランク。君はEランクだ。ここまで低いと結界術式以外の中級術式は殆ど使えないと思う」


「……それって、要は雑魚ってこと?」


 苦笑いを浮かべて冷や汗をかく宗一。

 まあ、無理もない。戦う前から戦力外通知を出されてしまっては元も子もない。


「いや、そういうわけじゃない。ランクの低い人は"一点突破"の可能性を秘めているんだ。おそらく君は常人より結界術式の上達や練度も上だろうしマナ効率もはるかに優れているだろう。その代償……といってはなんだけど、そのほかの術式は初級、つまり簡単なものしか使えない。でも大抵の人は魔具っていう道具を使って補えるからそう落ち込むことは無いさ」


「ってことは、自分の得意なものでオセオセっていうこと?」


 なんて大雑把な解釈だ。言ってることも脳筋のセリフだし。


「そゆこと。ちなみに実力順でのランクはランカーシステムっていうから覚えておくといいよ。といっても新人の君たちにはまだ先の早い話なのかもしれないけどもね」


 ニコニコと笑うウェルキン。こいつもあんま細かいことは気にしないたちのようで……


「ここまでマナランクが低いのは久々に見るから、結界術式については期待してもいいと思うよ。精進あるのみってね!」


 その言葉を聞いて、宗一は救われたようにほっと息をつく。


「……というより、僕としてはほかの結果のほうが気になるんだけども」


「?」


 宗一がわずかに首をかしげる。

 困惑の訳は、その結果なのか……?


「4日前に僕の部屋で話したことを覚えているかい? 一般的に異能の素養の持ち主は魔術と魔法の両方の素養を持っているんだ。そして、ほとんどの異能者は魔術の素養が強い」


 ウェルキンは真剣なまなざしを宗一に向けて言った。


「君には魔法の素養がないんだよ。本当に欠片もない。純粋に魔術の素養のみでマナが構成されているんだ」


 そして、宗一に結果の書類を手渡した。

 宗一は食い入るようにその書類に目を通した。


「魔術を扱う君には実害はない上、使う魔術は真に純粋たるものになるだろう。このケースは極めて異例だ。ひょっとすると君の魔術には何か隠された力があるのかもしれない。研究者によっては君のマナを調べたがる人もいるかもしれないな。精進するといいよ」


「……」


 ウェルキンの言葉に、宗一は言葉を返さなかった。

 ただただひたすらに袂の書類を見つめるだけだった。


 そんな宗一を気遣ってなのか、ウェルキンは特に咎めるわけでもなく結果の続きを進めた。


「えーっと、次は……明西凛君」


「はい」


 名前を呼ばれて背筋を伸ばす。


「君も……魔術。得意分野は身体術式。ランクはB……」


「身体術式……ですか」


「そう。まあ、かなり分類が広い術式ではある。だから応用も効きやすい。ランクも高いほうだし、訓練次第では腕利きの術師になるだろう」


「ランクが高いとつまりどうなるんですか?」


「まず、手を出せる術式が多い。これによって多様な戦い方をすることができる。訓練の時間も長めに設定できる。……っとまあ、いいことずくめではあるよ。厳しいけどもランクが高いからと言って"一点突破"並みの練度ができないなんてことはないからね。いうならば、どのランクも一長一短。その人の上限に見合った戦い方をするためにランクを作っているんだ」


「……なるほど」


「けれども、何事も例外がある。例えば……」


 ウェルキンは心音に目線を向ける。


「心音君は凛君より少し高いB+。けれど、君たちのように得意術式がない」


 えへへ〜と、照れるように笑う心音。


「得意術式がない、というのは苦手術式もないといっているようなものだ。けれど、他の異能者の得意術式と比べてしまうと心音君の魔術はどうしても練度が劣る。だから、彼女の戦い方は晶術にその軸を置いている。というより、彼女のファイトスタイルが晶術中心ではないと成り立たないていうのが正しい言い方かな」


 ウェルキンは人差し指を上にたてながら説明する。


「それと、今はここにいないクロス君だけど……」


「……?」


「彼も苦手術式がない。でもそれは得意術式がないという事じゃないんだ」


「どういう事?」


「彼は"ほぼすべての術式が得意術式"だっていう事。ランクもヨハネトップ5には入るだろうS-。生まれながらの術師っていう事」


「それって、……ほとんどやりたい放題ってことか?」


 実力まで俺様かよ!?


「いや、彼の唯一の欠点は、晶術が使えないことなんだ。晶術が使えないなんてありえないことなんだけども、未だに謎のままさ」


 原因不明ってことか。


「でも、それでも十分にお釣りがくるほどに彼は強いよ。……でも、性格だけは見習わないでね? ああなったらなかなか面倒なんだ……」


『いや、見習おうなんて思っちゃいないし』


 異口同音ながらも俺たち四人の声がハモる。

 まあ、無理もないか。ああはなりたくない。


「そして凛君もだけど、気になる点が一つある」


「なんでしょう?」


 なんだよ、宗一に続いて凛もか。中々アウトローな集団だったのな。

 ……今更か。


「君に治癒術式をかけた時だよ。君は三人の中じゃ一番の重傷だった。重要内臓器官が折れた骨に数か所突き刺さっていたからね。生命力であるマナが薄れている状態だから、重傷を負った人間にかける治癒術式は本当に時間がかかるんだ。君の場合は、……そうだな、丸一日、ぶっ続けでかけ続けなければならないほどだった」


「……」


「それが君の場合はたった30分ときたものだ。君の身体は魔術の浸透率が異常な程に高い。宗一君じゃないけども、研究者によってはひっくり返るかもしれない数値だよ」


「……何か、まずいことでも?」


「いや、その浸透率を駆使すれば君の体術と魔術をかなり高い完成度で融合することが出来るはずだ。期待してるよ?」


「……わかりました。ありがとうございます」


 手渡された紙を、凛も静かにじっと目を通した。


 これは第六感に近い感覚だ。根拠はない。

 だが、なんとなくわかってしまう。オカルトの世界でもこの二人は例外の部類に含まれたんだ。

 という事は、俺も……一般の部類にカテゴライズされるわけがない。


「最後に……結城仁君」


「ういっす」


 さあ、覚悟は決めたぞ。

 なんでもどんと来いってんだ。


 ウェルキンがぺらぺらと紙をめくる。


「なんか君のだけ資料がやたら多いんだけど……っと、これか。どれどれ……」


 ようやく見つけたのかウェルキンは俺の資料をじっと見る。

 しかし、いつまでたってもウェルキンは口を開かない。


「…………」


「…………?」


 そのまま黙り込んでひたすらに資料を眺める。

 そして、


「ペティ」


 横に控えていたペティさんに話しかける。


「これにミスはないのか?」


「私も開発局から資料を受け取る際に、葉塚局長から再三にわたって"10回はやり直したからミスはない"と投げやりに私に言ってました。あの方がああいう事を言うなんて珍しいと思ったんですが……何かあったのですか?」


「いや、……彼女がそういったならいいんだ」


 そして、ウェルキンは俺に目を向ける。

 その目は困惑と疑念が言いようのないくらいに混ざり合っていた。


「結城仁君。君は……本当に何者なんだい?」


「……あ?」


「結果を言うよ。君は魔法。これだけでも十分に驚くべきことだ。歴代でも魔法の使い手は両手で数えるのがやっとってほどに少ないからね。だが、……こんな結果オマケ程度だ」


「別に魔法ってだけで驚きはしない。……はっきり言えよ」


「……得意術式とかそういうのはない。君はこれから法式を使っていくわけだからね。強いて言うならそうだな……、式の扱いに長けているっていうのがしっくりくる。ランクは──」


 少し息をついて言う。


「ランクは、S。最上位層のマナ保有量だ」


「……は?」


「歴代でも最初からこれほどのマナを保有している人間はいないだろう。正直人外のものなんじゃないのかと疑いがかかるレベルだ」


「っていっても、俺は人間だぞ?」


「うん、それについてはよく知っている。……自分の目を疑うよ、これは」


 はぁ、とため息をつくウェルキン。

 宗一も凛も驚いているようだし、心音とペティさんに至っては穴が開くように俺を見つめている。


「でも、君は"魔法使い"だ。燃費もひどく悪い。おそらく魔術師レベルでマナの保有量を換算すると……Aが妥当だろう」


「下がることには下がるのな」


「それでもヨハネトップランクは入れる。魔法使いの欠点を君は初めから克服しちゃってるんだから、もうどうなっているのかもわからない。君はおそらく……『魔法の申し子』だよ」


 俺の目を見ながら言う。


「いやはや、なんともヨハネからの侵入者で素養のある人間だなんてだけでも珍しいのにさ、ここまで尖った特徴を持っているだなんて百年に一度とかそういうレベルだよね、ほんとさ」


 そう、言葉を締めて、一枚の紙を俺に手渡した。

 書かれている内容は至って簡素なものだ。名前の下には異能の種類、マナランク、マナの構成割合、その他の事項の三点のみ。

 ちなみにだが俺の記載情報はこうだ。






 ・Abilitiy 魔法

 ・Mana rank S(A)

 ・The composition rate of mana 術10% 法90%

 ・Other matters

 稀有な存在である魔法使いである上に、欠点をカバーできるほどの莫大なマナを貯蔵している。マナの構成割合は常人の構成割合とほぼ反転している。叶うならば、さらに精密な検査を実施したい。要検査対象。







 §--------------------§




 説明がひとしきり終わるとウェルキンは、俺たち三人は今日ここで泊っていくことを提案する。

 俺はこのまま回復するまで入院だけどな。

 まあ、3日も寝れば回復するだろう。


 という事で、俺たちは三日後にここを出るよう計画を立てた。

 大体回復はしているものの完治とまではいかなかったのでこうなることは予想はできたが。

 学校のほうはヨハネから手配してくれるようだ。っていうか、あの学校ヨハネとつながってたのな。

 思えば、メンバーのクロスと心音が同時に転入してくるなんて、ある程度繋がってなきゃ不自然か……

 ババアはこのことを把握しているんだろうか……。帰ったらとっちめることにしよう。


 不自然といえば俺自身だ。どうにも偶然とは思えない。

 "魔法の申し子"とウェルキンが口にしたように、俺の体はまさに魔法を使うためだけにあるようなものだということになる。

 俺は、あの日ウェルキンの部屋で魔法のことを聞かされた時、魔法は絶対記憶症候群に似ているなと思った。

 術式を自由に扱うことで新たな力として出力するその方法は、いつも俺が日常的に症状を使って行っていることなんだから。

 あの結果を見る限りでは、この二つの結びつきを偶然だなんて決めつけるにはあまりにも早計な気がする。

 そしていくら魔法が稀有だからと言って、一つしか晶術武器がないというわけではない。試練の前にこの赤い指輪一つにしかマナが引き寄せられなあかったというのも引っかかる。

 試練時にアリアランスが言った言葉。



『この武器は君のような常軌を逸したものにしか使えない』



 この言葉も俺のマナのことを読み取った上での発言だったのだろう。

 アリアランスなら何か知っているはずだ。俺がたった一つに引き寄せられた武器の晶術の番人をやっているんだから何も知らないなんてそんなわけがないだろう。

 この流れがアリアランスにつながっていくならば、魔法を発明したアリスとゲインにだってたどり着くだろう。彼らが中心だった400年前の大事件にも、何かしろのヒントが隠されているのかもしれない。


 そして……

 この一連の流れは『絶対記憶症候群』に繋がっているかもしれない。

 俺がどうしてこんなものを背負って生まれてきたのか、その意味を知ることができるかもしれない。


 これらのことはすべてが憶測だ。

 文末から"かもしれない"を外すことはできない。ひょっとするとただの深読みだなんて可能性は十二分にあるんだ。

 なんいせよだ、アリアランスからの依頼もあるし、俺個人の疑念の解決にもつながっているかもしれないんだ。

 異世界に散らばっている400年前の情報とやらを拾い集めるのも悪くはないな。




 それから俺は、これから起こるであろう異世界の旅を想像し、両隣から聞こえる寝息を聞きながら、疲れた体を癒すために瞼を閉じた。




 §--------------------§





 さあ、舞台は整った。


 始めるとしようじゃないか。


 脚本に従って踊り狂え、人形たちよ。


 ──幕開けだ。




第一章終わったぞ、このやろー!!


ちなみにですが主人公最強設定ではございません。

症候群もそうですが、それとは別に致命的な欠点もありますので無双はできないんじゃないかなーなんて。。

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