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幻想のメシア  作者: からから
第一章
23/28

21.受け継がれしもの

復活の狼煙や─(迫真)

 



 なんにでもなれるといっても、俺が使っている力は決して俺のものなんかではない。

 他人の力を真似ることを根幹にしている俺が言う事でもないが、俺はその"他人"がいなければ何もできないから。

 白々しいとは自分でも思うけれど、だから俺は、力を"借りる"と表現している。




 §--------------------§




 今から借りるのは宗一の力。


「……一刀……突貫」


 カドモンの突撃と俺の突撃のタイミングを合わせて……


「──千鶴」


 抜き討つ!


「んー、ぬるい。まだまだだね」


「……!?」


 突貫の衝撃をそのまま使って放った抜き胴はあっさりと読まれ、カドモンの剣で止められてしまった。宗一ほどではないにしろ、視認が難しい居合の抜き胴をこうもあっさり見切られるとは予想に反していた。

 そのまま数秒鍔迫り合いになり、互いに押すことで距離をとった。


「そんなぬるい攻撃で僕を倒そうなんて甘いんじゃないか?」


 姿勢を解いて剣を手のひらでくるくると弄ぶ。

 一見して隙だらけなように見えるが、芯がぶれていない。


「僕だって武芸の心得はあるんだよ。君の実力はどれだけはわかんないけどあんまり舐めないでもらいたいな」


「なめてんのはどっちだよ? ここは俺の心の中なんだろ? だったら、俺の実力ぐらいならとうに読み取ってんだろうが」


「ありゃ、ばれてたのかい」


 おどけた顔を作るカドモン。


「この法螺吹きがぁ……」


「はは、よく言われる」


 再び俺の間合いに入るべく突撃。

 迎撃にカドモンは剣を振り上げる。俺は刀を振り下す。


 ギィィィン!!


 鈍いが、何故か澄んだようにも聞こえる金属を打ち付ける音。


 そのまま左に流れるように一閃。

 カドモンは右に合わせるように一閃。


 再びはじかれて、今度は斜め方向に切り上げ。

 カドモンは一直線上に合わせるように切り下げ。


 どんどん回転(ギア)が上げるように、刀あわせは加速していった。


 キンキンギギギンキキンギギキキギギィィィン!!!


 互いに互いの斬撃に対して正反対のベクトルで打ち消すように、何度も合わせてははじかれる。


 ──キリがないなオイ……


 宗一の剣術をあきらめた俺は、21回目の刀あわせで見切りをつけてカドモンと距離をとる。

 その際刀を捨てて、退却路に刺さっていた槍を抜く。


 剣で槍に勝つにはその人間の三倍の技量が必要になると評されるほどに、剣に対しては槍が有効だ。

 理由は単純。リーチの差だ。剣の間合いなんて比べるに値しないほど槍の間合いは広いのだ。仮に懐に潜り込まれて、剣の間合いに巻き込まれたとしても、柄の部分でたたきつけれは骨ぐらいなら砕けるので、それで対処できる。

 俺は穂を少し下げてカドモンが自分の間合いに入ってくるまで待つ。


「ほう、そうくるかい」


 ──ここからの挙動は流石に予想できなかった。

 カドモンは、間合いの範囲外から大きく振りかぶって、俺に向かって剣を投げつけてきた。


「って、そりゃ俺のセリフだわ!!」


 てっきりカドモンを剣の使い手だと思っていた俺は面を食らった。

 俺が借りていたとはいえ、宗一の剣術に対抗できるほどの実力者が、あっさりと剣を手放すなんて思っていなかったからだ。

 慌てて投擲された剣を弾く。


 そして、投擲に合わせて突貫してきたカドモンが左手に持っていたものは……


「……げぇ」


 斧だった。


 剣と戦うなら槍だという理由はリーチにあると裏付けるものは、潜りこまれにくいことにある。

 突きつけてくる穂をいなすには剣の刀身の幅が狭すぎるのだ。

 だが、斧が相手の場合は違う。

 剣より重いため、俊敏性には欠けてしまうが、刃が広いため、穂を受け流しやすいのだ。


 この場合は均衡していた形成が崩れ去る。

 突貫するカドモンに向かって何度も突きで迎撃する。

 自分でいうほどではないが、早々に受け流されるほどに俺の突きは安くはない。

 だが、カドモンほどの実力者ならば別だ。

 案の定どんどん受け流されて距離を縮められていく。


「くそがぁ……」


「どうしたい? 突きが雑になってるよ!」


 突きの隙間を縫って、カドモンが斧を縦に一閃する。


 ズパァン!!


 柄の中ごろから、きれいに切られてしまった。


「…………!!」


「そらあ!!」


 武器をなくした俺にカドモンはとどめの一撃を放つ。


 けどなぁ……

 これで終わりだと思われちまったら、心外甚だしいんだよ!!


 斧の刃をぎりぎり穂の部分で受け止める。

 じりじりと尋常じゃない重さが穂を伝って俺の腕に負担をかける。

 このままじゃあ、3秒も持たないだろう。

 けど、それで十分!

 俺は左手に持っている石突がついている部分でカドモンの頭を殴りつける。


 ゾォン!!


 と、周囲の空気を巻き込みながら石突はカドモンの頭めがけて振り下ろされる。


 が、


「っと……」


 身体を半身にされてしまったことで避けられてしまった。


 まあいい。 当たれば御の字だったわけだし。


 半身になってくれたおかげで、右腕の負担がいくらか軽減した。

 そして、こちらから押すように距離をとる。

 その間に、


「お返しだ、コラ!」


 穂の突いた部分の槍をカドモンに向けて投擲。


「危ない事するなぁ」


 少しだけ表情に驚きを含ませて言う。


「お前も同じ事やっただろうが」


 少しは自覚しろよ!!


 だが、カドモンは驚きつつも冷静に投擲された槍を斧の刃で弾く。

 この隙に退路にあった弓矢を拾う。

 原始的ではあるが遠距離射撃としては効果はある。

 ホントは銃のほうがよかったけど……


 カドモンに対して遠巻きに走りながら、すばやく、時には2、3本同時に同時に構えて射る。


「…………!」


 斧のような重たい武器では素早く受け流すことが難しくなってくる。

 飛んでくる矢をなんとか受け流すカドモン。


「ちょっとまずいかな……」


 眼前に矢の弾幕を眺めながら言う。

 射た数は30強。

 流石にこれ以上は野郎といえど厳しいだろうさ。


 すると、カドモンは斧を捨てて手元にあった棍を持ち、


「はぁ!!」


 ぐるぐると自身の周囲を展開するように球体状に回して、矢の弾幕を叩き落としていく。


 ──こいつ……

 俺はこのカドモンという男の戦闘力に感心を通り越して尊敬の念すら抱きそうになる。

 今まで"観てきた"からわかるけれど、こいつはおそらく、ひとつの武芸を極めたという人間ではない。

 おおよそ自身の知りうる限りの武芸を全て体得している。

 それも"極める"という境地の一歩手前までだ。

 中には例外もあるようで、さっき見た剣においては"極める"に値するほどの実力だった。

 この様子じゃ、まだ極めている武芸はあると見てもいいだろう。

 これでも驚異的ではあるが、俺が驚いていたのは棍の使い方だった。

 一見してただ回して矢を叩き落としているようにも見えるさっきの行動は、実は棍以外の武芸も混ざっていた。

 中国拳法において重点的に扱われている外功を練っていたのだ。

 体の中で練っていた気を一斉に腕に放つことで、撃ち落とすのに足りなかった回転に掛ける力を増強していた。


 極めれる武術を全て極めつくして、それでも足りない部分は互いに補強し合うこの戦い方。

 他者から借りること、自身で会得することと、本質は正反対ではあるがその戦い方はまるで──


「俺そのものかよ……」


 こんなふざけた戦い方するやつは俺だけだとは思っていたんfだが……


「中々、世界ってやつは広いんだな」


 カドモンはにやりと笑いながら、


「おしゃべりしている暇は……」


 弾幕をやり過ごし、棍を捨てて足元にあったオートマチックとリボルバーの二丁拳銃を拾い、俺に向けて構える。

 種類は……ベレッタM8000とCSAA。


「無いんじゃないか?」


 ダダンダンダダダダン!!!


 俺は射線上から逃れるためにとにかく必死に駆け回る。

 持っている弓では圧倒的に不利!

 威力も射程距離も俺の弓じゃ銃を超えることはできない。


 銃口と引き金にかかっている指の動きを注視しながら弾を躱しつつ、対抗できそうな武器を横目で探す。

 すると、激しく変動する視界に不思議な剣がひっかかった。


 ──これなら何とかいなせるか?

 そう判断して、剣を素早く引き抜いた。


 それは、リボルバー式の拳銃に剣の刃がついている複合武器だった。

 フレームのすぐ下に片刃の刃がついていて、どうやら斬撃と銃撃の両方ができるようだ。

 グリップの部分は西洋剣と同じで、柄はなく、代わりにトリガーがついている。

 "剣銃(ガンブレード)"とでも言ったところか。

 昔、これを使っていた奴に苦戦したことを思い出す。


 だが、これなら百人力だろう。

 カドモンの銃のタイミングは先に嫌といううほど見たし、もう覚えた。

 今なら大丈夫。鉄の弾幕を刃で流しながら、突貫する。


 カチンッ


 と、カドモンの銃から音が鳴った。

 弾切れの合図だ。


 弾幕が止んだ隙を見て俺は突撃のスピードを上げる。

 カドモンは俺を警戒しながらも視界を見渡す。

 そして、あるものを見つけると、その場から離れて、見つけたものを取りに行く。

 カドモンの視線の先には銃弾。弾を装填されると面倒なことになる。

 俺も突貫方向をカドモンから銃弾に変更する。


 加速した俺たちは当然、


 ガキィィン!!


 衝突した。


 カドモンは自分が持っていた二丁拳銃で、俺の剣銃のカブト割を防いでいた。

 たまらず、カドモンはすぐさま脱力してその場から離脱する。

 追い打ちとして、剣銃でカドモンを狙い撃つ。


 これをカドモンは、


 ヒュッ


 ベレッタM8000とCSAAを俺の射線に放り出すことで防いだ。


 ガガベキィ!!


 銃弾により、二丁の拳銃が砕け散っていく。

 辺りに破壊的な鈍い音を響かせながら、ばらばらに分解していく。


 離脱していくカドモンを横目で見ながら、俺はリボルバーの銃弾を回収する。

 これで剣銃の弾切れはしばらく心配しなくてもいいだろう。


「仕方ない……それじゃあ」


 再びカドモンを見た。


 ヒュヒュンヒュン


 新しく手に入った武器を振り回し、"型"を行いながら言う。


「本命と行こうか」


 穂を下げる槍のような構えをとりながら手にしているその武器は、俺と同じく複合武器。

 槍の柄と同じぐらいの太さの棒の両端には、斧と槍が合わさった斧槍と、鋭角状の二等辺三角形の形をした鋭い両刃がついている。

 両剣というには二つの刃が違いすぎる。

 重量はかなりのもののはずだが、そんなものは最初から感じさせないまるで踊るようにキレのある動きで舞踏を演じた。

 造語でいうならば"両剣"(ダブルブレバード)……って感じか?

 一応この空間にある全ての武器は見覚えがあるのだが、あれだけは初めて見るものだった。


「その武器は見たことが無いんだが……あんたのか?」


「ん、そうだよ。こいつは昔からの付き合いでね。色々助けてもらったんだぞ」


「んで? どうしてあんたのもんが俺の中にあるわけさ?」


「そりゃ、君と僕はすでに一部ではあるけど共有(リンク)してるからさ。『お前のものは俺のもの、俺のものはお前のもの』ってわけ」


「やさしいジャイアニズムもあったわけだ」


「まあね」


 互いに軽口を叩きあう。

 同時に殺気の掛け合いで周囲の空気がズシンと重くなる。


「──さあ」


 俺は自然体で剣銃を構える。

 カドモンも同じく自然体で構える。


「続きをしようか」


 奴の言葉を皮切りに両者が再び激突した。







 先に仕掛けたのは俺。

 武器の重量差で俺のほうが先手を打てるのは必然だろう。


「──蒼流……龍城(たつき)


 ぐるぐると駒のように周り、遠心力と体重をかけた竜巻状の斬撃を放つ。


「んん!!」


 ギィィィン!!


 カドモンが受け止めたことで思わず耳をふさぎたくなるような鋭い音が響く。

 斧と刃が鍔迫り合いとなってしまう。

 押し負けないうちに少し距離をとり、こちらの間合いのうちに乱撃を使う。

 剣における九つの基本斬撃をランダムに、それでいて打ち込みは正確に模倣してカドモン目掛けて振りかざす。

 速さではこちらが断然有利。通常では武器の重さで捌ききることはできないだろう。

 だがそれでも奴は、


 ヒュンヒュヒュン!

 キキンキキキンキキンキン!!!


 重さなんてお構いなしで小回り良く振り回し、それでいて小気味よく俺の斬撃を受け流す。

 最初と同じようにしばらくこの合わせが続いた。

 けれども、均衡は徐々に崩れていく。

 徐々に俺のほうが速さで勝ってきた。

 別に疲れとかそういうのではない。単純に言うと、カドモンの身体の使い方を俺が覚えて使い始めたから。

 同じ身体の使い方をして武器の重量以外の条件をそろえたのだ。

 そうなると、断然俺のほうが速くなる。

 ピッピッと、カドモンの身体に浅い傷ができていく。


 ──このまま押し込む!!

 俺はさらにギアを上げてカドモンに切りかかる。

 すると奴は何を思ったのか柄を盾にして斬撃を防ごうとした。

 あの武器は大半が金属でできていたが、木製の部分も混ざっていたのだ。

 ──もらい!!

 当然、木製の部分に切りかかってそのまま奴ごとぶった切る。

 だが、


「残念、はずれ」


 切りかかる直前、突然柄が"谷折りに折れ曲がった"。

 いや、"真ん中で分断した"のだ。


「…………!!」


 手ごたえを感じることのないまま体を泳がせながら、隙だらけの斬撃を振り下してしまう。

 奴は、半身で躱して、横目で見送りながら、


「シッ!!」


 右手に持った斧槍の槍で俺の頭を突く。

 凛の体幹術を使い必死に体勢を立て直した俺は、その空間ごと抉りとれそうな必殺の突きをしゃがんで躱す。

 髪の毛数本が持っていかれ、背筋が氷が張りついたようにぞっとする。


 怯むことなく、すかさず凛のサマーソルトを借りて奴の顎を撥ねる。

 直撃すれば首から上が無くなるような錯覚を起こすほどにあいつの蹴りは強烈だ。


 ブゥゥン!!


 けれども、カドモンも顎を自ら上げることで直撃を回避した。

 しかし、どうやらかすってはいたようで、足元がぐらついている。


「──そら」


 俺は素早く立ち上がり、


「凌いでみろや!!!」


 再び剣を振り上げて、勢いよく振り下ろす。


「言われなくても……」


 カドモンはふらつく足に力を込めて、左手の剣で防ぐ。

 鍔迫り合いでは、両手の俺が有利だ。

 けれども、カドモンはすかさず、右手の斧槍を横薙ぎに振ろうとする。

 防ぎようのない二撃目に俺は、服ごと薄皮一枚断ち切られてしまい、泣く泣く撤退せざる負えなくなった。


 だが、カドモンはからぶった横薙ぎをそのままにぐるぐると回転する。

 すると、


 ジャラララ!!


 分断した柄の部分から鎖がのびる。瞬間柄から手を放して鎖を握った。鎖鎌のような挙動になった斧槍は、必然リーチが広くなる。

 さらにそのまま回転しているので、鎖はどんどん伸びて、俺との距離を縮めていく。

 遠心力も働いているので、俺のバックステップよりも向こうのスピードのほうが速い。

 俺はなるべく宙に体を置くように宙返りをしながら後退する。

 そして、宙にいるその間に、剣銃で奴を狙い撃つ。


 ガガガンガンガンガン!!


 撃鉄を打ち付ける音が鈍く響き渡る。

 迫りくる弾丸をカドモンは、


「ッフ!!」


 キキン!!


 左の剣で体に向かってくる弾丸を丸ごと叩ききることで対処した。


 ──こりゃ、本物だ。

 "助けられた"なんてセリフを裏付けるかのように、奴の戦い方は様になっていた。

 気を抜けばあっという間に勝負を持っていかれちまう。


 弾丸を凌ぎ切ったカドモンは二つに分離していた斧槍と剣を一つにつなげて、突貫する。

 俺はそばにあった金属製の丸盾で防ぐ。


「──君は、本当に成し得るつもりなのか?」


「ああ?」


 近距離で睨みあうと、カドモンは唐突に問いを投げかけた。


「約束を果たし続ける? 困っている人を救い続ける? 正義の味方にでもなったつもりなのか、君は」


「……何が言いたい?」


「分かっているはずだよ、自分に嘘をつくのはやめたほうがいい」


 ガンッと、カドモンを盾で押し返して距離をとる。同時にフリスビーのように盾を投げつける。

 カドモンは、両剣を振り上げて盾を弾く。その際に柄の接合部から鎖がジャラっと音を立てて現れた。

 だが、斧槍の時に見た鎖の形状とは違う。接合部にヨーヨーで見かけるベアリングがついていて、そこに鎖が巻き付いていた。


 カドモンは舞踏でペアリングに鎖を一気に巻き付け、俺に向かって突貫しながら両剣を投げつけた。

 両剣は強烈なスピンを伴いながら俺の身体を真っ二つに切り裂こうとする凶悪さを感じさせた。

 剣銃で弾こうとも、射程外に逃れようとも、カドモンの攻撃に効果的な防御をとれているとは言い難い。

 ヨーヨーを操るがごとく、いったん引き戻して再び投げるという動作を超速で繰り返しているので、カドモンの半径5メートルの範囲で両剣がほぼ隙間無しに踊り狂っている状況だ。

 距離を詰められ、射程に入れば終わりだろう。


「救いなんて行いは、突き詰めてしまえば自分のエゴでしかない」


 射程から逃れているうちに、槍が視界に入った。

 槍を引き抜いた俺は、棒高跳びの要領で宙に跳び、真上から投擲した。

 カドモンはバックステップで躱したが、鎖が槍に絡まってしまい、斬撃の空間領域は消滅する。

 その隙を突くべく、俺は上空から剣銃で斬りかかる。カドモンも素早く鎖を切り離すべく二つに両剣を分離し迎撃する。


「裏切られ、蔑まれ、貶められ、騙され、辱められ、疑われ、誤られ、悩まされ、苦しめられ……」


 キンギンギギギンキンギン!!


 接近戦にもつれ込んだ俺たちは最初の剣合わせのように仕掛け仕掛けられ、防ぎ防がれを繰り返す。

 だが、動きも同一の俺たちの均衡は徐々に崩れていく。俺の手数が足りないせいで押されているからだ。

 左腕、右腿、脇腹に浅い切り傷が目立つようになりなる。


「操られ、踏みにじられ、擦り切れ、嘲られ、卑しめられ、責められ、そして傷ついていく」


 俺はもう一振りの剣を確保すべく間合いを開ける。

 だが、カドモンも易々と逃がしてはくれない。追撃の斬撃も、手数が足りない俺にとっては毒でしかなく、且つ斬りあいに専念できない状況ではどんどん傷を増やしていくばかりだ。

 俺は間合いを開けることでできたスペースを使って、振り切る際にカドモンに向く銃口を合わせて斬撃と銃撃を合わせるように迎え撃つ。

 単純に手数二倍とはならないが、なんとか逃げながらも追撃を軽減することが可能になった。


「いくら善と呼ばれるの行いを重ねようとも、──返ってくるのは悪意でしかしかない」


 逃走戦をしているうちにようやく視界に一振りの刀が引っかかった。

 躊躇なく引き抜いた俺は、体の運動を後退から前進に転換し、二振りの刃で二振りの刃に向かう。

 火花が散るような苛烈な打ち合いをする反面、流れるようにしなやかに打ち合いをする動静の乱撃戦は俺のペースに持って行けた。

 手に入れた刀で斬りかかりつつも、ある程度の間合いをとれることができたので、二刀を操りながらも残弾数の限りではあるが、二つの斬撃、一つの銃撃と三つの波状攻撃を可能とした俺に軍配は上がった。


「……ッ!」


 ペースを持っていかれたカドモンの身体にも浅い切り傷とかすった銃創の音が目立つようになる。

 だが、斬撃の切れ間では劣化することは無かった。俺は致命傷をとるべく、成功率を挙げるため、左の刀で"見せ"の斬撃をふるう。

 この攻撃の処理を正確にこなしても、"見せ"であるため力をそんなに加えていない。本命は次の二撃目。ほぼ力の減衰なく十全の力で二撃目を確実に決めるための策。

 だが、


「な……!?」


 カドモンはあえて一撃目の"見せ"の斬撃を処理をせずに、斬撃をその身に受けた。いくら陽動目的の斬撃といえども無防備で食らうとただでは済まない。決して浅くない斬傷が肩口に爪痕を残す。

 そして、俺の作戦を完璧に読んでいたカドモンは、一振りの斬撃を受ける代償を払い、本命の二撃目を決定的な大振りへと劣化させることに成功する。


「……ッ!」


 片方の剣で俺の右腿を深く突き刺し、躊躇なく引き抜く。

 筋肉を断ち切る音が体中に響き渡り、一気に力を奪い去っていく。


「ハアア!!」


 そして、カドモンが放った渾身の斧槍の突きは俺の脇腹に命中し、深々と突き刺さる。


「ご……はあ……」


 直撃の瞬間に体を移動させ、刃を内臓と内臓の間に滑り込ませるようにさせたが、それでも重傷であることにかわりはない。

 斧槍の先に俺をひっかけたまま、先を持ち上げて身体を宙に浮かせる。


「君は神じゃあないんだ。困った人を助けるなんて傲慢にも程があるよ。──いや、本来神であっても傲慢な行いだ」


 ツゥ、と俺の血が斧槍の柄を滴り、カドモンの手を血染めにしながら点々と床を血だまりにして汚している。


「なあ、君はどうして助け続けるだなんてことに憧れを抱く? 死んだ彼女の約束か? 自己満足か? 純粋な善意か? 憐憫の情か? 過去への贖罪か? ただの人間じゃないからか? 君ほどの超然した頭脳の持ち主が、どうして愚鈍なことを仕出かす? どうして地獄を見るとわかっていながら前に進もうとする? どうして自らが傷つく道を行くんだ?」


 カドモンの瞳からはどんな感情も読み取ることはできず、瞳に宿るものはただ空虚のみだ。もはや最初に見た気楽さがにじみ出た瞳は元々なかったんじゃないかと錯覚しそうになるほど冷たく、何よりも不気味。

 そのあり方は何も知らない無垢な子供のようで、万象を網羅しつくした賢者のようにも見えた。ここまで心情が読み取れないやつは初めてかもしれないが、……こいつの問いの真意はわかる。

 いや、真意なんて仰々しいものは元からない。単に"理解できない"んだろう。俺の中の記憶を読み取って情報を把握したうえで尚、俺の在り方が理解できないんだ。

 ──ああ、そうさ。まともな奴は判りっこなんてない。俺の在り方なんて狂逸そのものだろう。


 だがな、……たかが記憶を読み取った程度で、俺のすべてを理解したって思ってんじゃねーぞ……!!


 俺は右足に力を入れてカドモンの斬りつけた肩に蹴りを入れた。慣性の法則に従い、斧槍の先は俺の腹から抜かれ斜め後方に宙を泳いだ。

 痛みに歪んでいるカドモンに銃口を向けて引き金を引く。

 撃鉄の騒音ともに3発の弾丸が繰り出され、命中する。だが、俺の狙いもコンディションから正確さを欠ける結果となりヘッドショットを狙うことはできなかった。

 それでも左肩、右わき腹と打ち抜くことに成功し、左肩の斬撃の後も相まって、左は完全に封じたとみてもいいだろう。


「ッ!! ……なかなか、卑怯じゃないか」


「何が……卑怯だ。勝負中にペラペラ喋って隙を作るほうが悪い。お前が言ったことだ」


 ……ダメだ、思いのほか腹の傷が重い。視界が変に歪んでいる。


「どうして助けるんだって? はは、まあ、そうだな。約束だからっつうのがやっぱ重いな。自己満足? エゴイズム? その通りだよ。善意? 憐憫? ああ、そう思ったこともあるよ。懺悔の念? 眠れなくなるくらい謝り倒した。人間じゃないから? 間違っちゃいない。化物(おれ)を認めてほしいが故でもある。でもな、俺の一番の理由は違う」


「…………」


「昔師匠にお前と同じこと聞いたよ。理解できなかったからな、救うなんて無駄な事する意味。……記憶読んだんじゃなかったのかよ? 大事なとこ抜けてんぞ、おい」


 そう、こいつは昔の俺と同じことを聞いている。

 だったら、──役不足ではあるけど、ナンデモ屋として答えてやるのがリーダーとしての役目ってやつだろう。


「人ってーのは思った以上に悪意が強い。ちょっとやそっと明かりを照らしてみても悪意の深淵は覗くことができないほどに深い。お前が言ってたことは嫌ってぐらい理解してる」


 108の煩悩、7つの大罪と呼ばれているように、人の業というものは同じ人間であっても、ましてや俺のような人外であっても計り知ることができないほどに多くあり、どこまでも深い。


「助けた奴から裏切られたことだって散々だ。助けた奴から責められたことだってもちろんある。人助けのつもりで俺が手を貸した組織が大きな事件を起こした事もあった。俺が解決で動いたおかげで全く別の事件が起こったことだってある。後悔したことなんて山脈一つ分は積み重なってる。ああ、そうさ。俺だって、救いってーのは存在そのものが善なんて思っちゃいねーよ。贖罪で救いなんてやっても、どんどん黒く汚れるだけだしな」


「なら、何故それに憧憬を抱く?」


「──どうしてお前は一元化な視点しかないんだ?」


「……なに?」


「確かにお前の言う通り、恩を売っても仇で帰ってくるさ。けどよ──感謝されることだってあるんだぜ?」


「…………」


「お前は知ってるか? 大したこともしてねーのに手を貸したお礼に"ありがとう"って言われる嬉しさが。そんときに感じる世界の美しさが。助けてくれたお礼だとか抜かして、俺みたいな化物を慕ってくれるってわかった時に沸く歓喜の情が。誰もが笑って過ごせる時に身を任せられる安心感が」


 凛や宗一、今まで関わってきたやつらの顔と過ごしてきた思い出が、水泡のように浮かんでは消えていく。


「そして──たった一人で震えてる時に颯爽と助けに来てくれる時に味わう、あの充足感が」


 そして最後に、師匠の顔が浮かんで消えた。


「『救いっていうのは太陽みたいなものだって思う。誰だっていいことだって判るのに、それをするのは無謀だ、夢幻だなんていうのは、そのあまりの眩しさに目を合わせることができないから。だから、頑張って頑張って、蹲ってでも、傷ついてでも、輝いている何かまでたどり着いたら、きっと素敵な何かがあると思う。なにより──助けたいっていう気持ち自体は何も間違いなんかないって思う。だから私は『ナンデモ屋』を続けてるし、人助けってことに憧れてるんだよ』……師匠は、そう言ってた」


 そういってあいつの顔はいつものお転婆の形までひそめて、すごく充実した顔になっていたのを鮮明に覚えている。


「輝いてる何か……か。君はもう見つけたのかい?」


「まだまだ。道のりが遠すぎて鱗片すら見えやしねーよ」


 こんな簡単辿りついちまったら、俺はここまで苦労なんてしていない。


「フッ……ハハハ……」


「……なにがおかしい?」


「ハハ……君みたいなのが、彼女たち……アリスお嬢様とゲイン君の近くにいれば、少しは変わった結末になったんじゃないかって、そう思っただけだよ」


 そう儚く消え入りそうに笑いながら、所々自身の血に染まった長い金髪を静かに震わせ、ふらふらになりながらもカドモンは両の足で立ち上がる。


「お前は……一体……」


「──そうだね、僕は」


 左腕が満足に使えないのにもかかわらず、痛みをこらえて両手で両剣を構えて、自身の名を謳いあげる。


「僕は──アリアランス・サーバー。今は亡きランドローズ公国王家に仕えしサーバーの長。ゲイン君の師であり、アリスお嬢様の友人……だ」


 400年前の英傑が時を超えてその存在を示した瞬間だった。


「……そう……か」


 聞きたいことはたくさんある。400年前に一体何が起こったのかだとか、アリスとゲインについてだとか、なんでこんな武器なんかに宿ってんのかだとか。


「けどまあ、……質問タイムは終わってからだな」


 そんな野暮ったいことは後回しだ。

 今は──この戦いに……


「俺は……結城仁」


 がくがくと踊る膝に叱咤を飛ばして、そばにあったもう一振りの剣銃を杖に立ちあがる。


「師より『ナンデモ屋』リーダーを、そしてその夢を託されし──人間だ」


 互いにスクラップ寸前だ。決着は近い。

 だからこそ、次の一瞬の時間に命を燃やそう。


「いくぞ、人間(じん)


「そうだな、英傑(アリアランス)


 ──幕を下ろそうじゃないか。




 §--------------------§



 互いに突貫するも、足に深い傷を負っているので最初に見せた勢いはもうない。

 剣幕の苛烈さも当初とはまるで別物のように弱り切っている。俺にはもはや真似る体力すらも残っていない。

 そして相手がこんなに弱り切っているのにも関わらず、互いに回避が満足にできずにいた。


 突貫し、距離をとり、新しい武器を引き抜いて、再び突貫する。ただ愚直にそれの繰り返しだ。

 繰り返すごとに互いの傷が深くなっていく。

 互いの額を分け合うように血に塗らし、互いの腕を分け合いように切り裂き。互いの腹を分け合うように穿ち、互いの骨を分け合うように砕き、互いの足を分け合うように抉る。


 アリアランスの姿を見る。

 美しく着飾った貴族の服はもはや無残に切り裂かれ、俺と自身の血で赤く汚れている。

 体幹も重心もずれまくり、立っているのも億劫そうだ。

 体中に築か付いていて、汗と流れた血が混ざってドロドロになっている。一言でいうなら満身創痍だ。


 ──まあ、俺もブーメランで返ってくるんだけどな。

 アリアランスのことを人度とのように語れないほどに、俺の身体も傷に傷を重ねるようにボロボロになっていた。

 二振りあったはずの剣銃は、一振りを完全に破壊されたため、右手にある一振りしか残っていない。残弾も空だ。

 ついでに暗示が切れてきたせいか"傷の再生"まで発症していて関係ないところまで負傷をしている。現実にある体の安否が心配になってくる。


 はっきり言って絶対記憶症候群が目立って、俺のほうが不利だ。

 決着は近いといっても、これ以上長くなったらタイムアップになる。


 さあ、覚悟を決めるか。

 俺は、残ったなけなしの体力を体にいきわたらせ、最後の特攻に打って出た。


「…………!」


 突然動きが変わった俺に対して、アリアランスは面を食らうがすぐに持ち直して策を実行に移した。

 アリアランスは激突の瞬間、つなげていた柄を分断した。

 体が泳ぐ俺に対して、左の剣で俺の顔目掛けて切り上げる。


 温いぞおい。この俺に二度も同じ手が通じると思ってんのか……?

 その振り上げろしに合わせて、


「──紅流……信楽」


 流された勢いごと体を前回転させ、振り下げる。。


 バガギギィィン!!!


 強烈な力により、アリアランスは左手の剣を手放してしまう。


 ──ここしかない!!

 俺は剣を横に構えて渾身の力で一閃する。

 あれほど強い衝撃を、ボロボロの身体で受け止めたんだ。まともな回避がとれると思えない。


「……あああああ!!」


 だが、アリアランスの精神は動けない体に鞭を打って強引に突き動かした。

 いや、右腕の筋肉をビルドアップさせ、傷の痛みを誘発させて痺れを解いたんだ。

 そして俺の剣の一閃に斧の一閃を合わせる。

 タイミングはパーフェクトだ。刃の幅から考えて俺が斬られて終わり……だろう。


 ──ああ、お前なら合わせてくるってそう思ってたよ。


「なっ!?」


 アリアランスが驚愕の声を上げる。

 それもそのはず、俺がカウンターの瞬間に剣を手放したから。

 剣は俺の右手から離れて慣性に従って、アリアランスの顔目掛けて飛んでいく。

 俺の行動に虚を突かれた、アリアランスは斜め後ろに仰け反ってなんとかやり過ごすも斧のカウンターは失敗に終わってしまった。


「俺の本命だ。受け取っとけ」


 ぐるりと体全体を捩って左腕に力をためる。

 最後に俺が選んだのは、剣術ではなく──凛の十八番だ。


「──穿牙」 


 放たれた俺の抜き手はアリアランスの胸の中心に吸い込まれ、


 ドッシュゥゥ!!


 と、肉を裂かれる音を最後に、俺達の勝負は終焉を迎えた。




 §--------------------§




 胸から腕を引き抜いた瞬間、アリアランスは光り輝き、部屋にあった無数の武器たちは一瞬にして仮面に姿を戻し、周囲の壁に立てかけられていた。

 それを見た俺は、完全に緊張の糸が切れて仰向けに倒れ伏せた。


「……なんで最後のカウンターが分かったんだい?」


 アリアランスからしてみれば当然の疑問だろう。

 てか、倒れた俺はスルーですかそうですか。


「あー、なんだ。お前の目がよく知ってる目だっただけだよ」


 きつい状況のくせして目をぎらぎらと輝かせているやつらに、俺は心当りが多すぎるほどにあった。

 大抵、そういうやつは最後まであきらめないで、ここぞという時に仕掛けてくるんだ。


「そうかい。ま、読まれた僕が悪かったって話だしね。──試練は終わりだ。突破おめでとう」


 アリアランスは苦笑いし俺を称えた。


「なあ、あんたって実際に生きていた人間なんだろ? なのに、なんで武器の中にいるんだよ」


「それは、僕にもわからないんだ」


 アリアランスは行き場の失った子供のような目でそういった


「僕はゲイン君とアリスお嬢様の最期の瞬間までたち合わせていた。彼らが最期に使った消滅式をきちんとこの目で見たんだ。彼らは最期に『私たちは幸せだった』って僕にそう言ってくれよ。光の放流に飲み込まれて──次に目を開けた時には、もうこの中さ」


 アリアランスは辛そうに苦々しく笑いながら言葉をつづけた。


「それでも、……なんなんだ、この結末は?」


 笑みを消したその顔には憤怒の念が浮かぶ。


「どうして彼らが大罪人となっている!? 転移術式に変えた? 違う、そもそも彼らの力を合わせたんだ。術式だけじゃなくて法式だって混ざってるはずなのに、術式だけって時点で転移を使ったのは彼らじゃないって推測できるんだ! 大体にして、彼らが使ったのは封印術式? 間違いだらけだよ、彼らが使ったのは術式と法式を織り交ぜた消滅式だ」


「…………」


「彼らの式か確実に横槍を射られていた。……誰かに式を書き換えられたんだ」


 蹲り、目元を手のひらで覆いながら、アリアランスは嘆いていた。


「人間は……、何もかもを見なかったことにしてすべての罪を彼らにかぶせやがった! そもそも彼らは異能の力を世間に出すつもりはなかった! ただ自分たちのささやかな望みのために研究してただけなのに、王族は、貴族は彼らに目を付けた。しゃぶりつくすだけしゃぶりつくして、都合の悪い時になったら、史実まで書き換え濡れ衣を着せてポイ捨てさ!!」


「書き換えたのは、400年前の人間なのか?」


「……いや、断定はできない。当時の彼らの技術に追随出来る人間なんていなかったからね。ましてや彼らの複合式を書き換えるほどの技量をもつ人間なんていない」


 手元を外し、碧色の瞳が俺を射抜いた。


「だが、現にこんな結末になってる。そして人間はサーバーが書いた日誌の辻褄を合わせながら彼らに罪が傾くように仕向けて史実を書き換えた」


「…………」


「──君は」


「ん?」


「君はナンデモ屋というのを営んでいるんだったな?」


「ああ、依頼を受ければ何でもやるってやつだけど」


「そうか……。では、君に一つ依頼を持ち込みたい」


 そういってアリアランスは倒れている俺のそばでしゃがみこんだ。


「これから、君は色々な世界を目にするだろう。そこで何を感じ取り、何を学び取り、何を叶えるかは君の自由だ。だが、……どうか僕の頼みを聞いてほしいんだ、ヒーロー」


「そのヒーローって呼び名あんま好きじゃないんだよな……。まあいいや、なんだよ?」


「400年前に起こった事件について探ってほしいんだ」


「…………」


「あの事件の時に公国を中心としてD489520の世界に大きな穴が開いた。そこから、様々な情報が異世界に漏れだしたんだ。ひょっとしたら、僕も知らない二人の研究結果が別の世界に流れている可能性もあるんだ。それを集めればあの日、僕も知らない"本当に起こったこと"が分かるかもしれない。君だって異能者なんだし、知っておいて損な話でもないだろう」


「まあ、確かにその事件については俺も気になることもあるが……わかったよ、探してみる。依頼としてな」


 こいつにも味あわせてやろう。助けてもらう時の安堵感をよ……


「ありがとう……。あ、できればあまり情報を拡散するのはやめてほしい。400年前の事を探ってるまでならまだ許容範囲だけど、本当に信頼してる人以外には僕の存在がこの中にいるとはできれば喋らないでほしい。いつ関係者に知られるかもわからないからね」


「……ああ。仲間内にしかしゃべらないどくよ。まあ、話すことはないとはそんな思うけどな」


「ふ、いい仲間を持ったね、君は……」


「……ああ、俺なんかにゃもったいない」


 なんか、無性に恥ずかしいんだけど。


「──うん、よかった。これでしばらくは出てこれないけど心残りを減らすことができた」


 アリアランスは穏やかな笑みを浮かべる。


「どういうことだ?」


「この武器は他と違いすぎるからね。疑似人格術式の場合はそうじゃないんだけども、こっちは生身の魂だからね。どうやら内蔵されてる魂は試練を終えると眠りにつかされるみたいだ」


「お前は……消えるのか?」


「いや、眠るだけだと思うよ。経験したことないけどなんとなくわかる。だから、大人しく君が情報を集めるまで一眠りすることにするよ」


 アリアランスはやわらかい笑みを俺に向けた。

 そして、アリアランスを包む光が一層強く輝く出した。 


「──あの二人は確かに世界に絶望していた。けれども二人は笑っていたんだよ。頭が回るせいで世界の真理を垣間見ても、こんな汚れた世界を目の前にしても二人で分け合って受け止めることで、笑い合って生きていくことができたんだ。世界を壊したら自分たちだって壊れちゃうからってさ。確かにその気になれば二人は世界を壊せた。でも、自ら望んで世界を壊そうとするなんて考えられない。そんな二人が大罪人になんてなってる曲がった史実を、僕はどうしても許すことができない」


「…………」


「正直君の在り方を、僕はまだ完全に理解できてはいない。それでも僕は、君にすがることしかできない。結局は僕も恨んでる人間と同じだよ……。──こんな僕をどうか許してくれ。君の在り方を利用して僕の身勝手な願望のために君を振り回してる僕をどうか……許してくれ。──どうかあの二人の無実を……証明してほしい」


 怒りと切なさとやるせなさが混じった悲痛な顔でアリアランスは告げた。


「──ああ、わかったよ。約束する。だから……」


 この頑張りすぎた潔癖症に言った。


「あんたは少し気を張り詰めすぎだ。あとは俺に任せてゆっくり休んでな。──お疲れさん」


 労いの言葉をかけることにしたんだ。


「ああ、……すまな……」


「謝んなくてもいい」


 アリアランスの謝罪の言葉を途中で遮る。


「こういう時はさ、"ありがとう"って言われたほうがやる気がでる」


「……君は本当に……。いや……、わかったよ」


 ありがとう、とそうつぶやき、俺に微笑みを向けながら、光に包まれた体がどんどん薄くなり、アリアランスは消えていった。



 次の瞬間、バキリっと音を立たせながら白い空間に黒いヒビが広がっていく。

 そして、ガラスが割れたような甲高い音を響かせて、俺の意識は暗闇に覆われるように落とされた。



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