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幻想のメシア  作者: からから
第一章
15/28

13.ゲインとアリスと

チラ裏その2


「……大罪人?」


 宗一が首をかしげる。


「その魔術っていうものが発明されたからますます人同士が争って死ぬようになったからってこと?」


「いや、そうじゃないよ。銃を発明した人は大罪人になっているかい? むしろ英雄だったはずだよ。結局のところ人は争うことが宿命づけられた生き物だよ」


 ウェルキンは本を手の中に戻し、ページを開いて近くの壁にもたれかかる。


「僕が言いたいのはそういう意味じゃないんだよ。……うん、じゃあこの話から切り出そうかな」


 ふと女助手をみるとウェルキンのコーヒーカップに中身を注いでいる。

 砂糖を入れるのも忘れていない。


「この本──Tragedy of a land rose dukedom、日本語だとランドローズ公国の悲劇って読むんだ」


「ちょっといいですか?」


 凛が質問する。


「あの、ランドローズ公国なんて国……ありましたっけ?」


 その通りだ。

 少なくとも歴史上ではそんな名前の国は全大陸を見渡しても存在していない。


 つまりは……


「いいや、表の世界では"存在"ごとなかったことにされてしまったんだよ。だからきっと君たちは初めて耳にしたはずさ。この本もヨハネが独自に編集したものだからね。」


 笑いながら本を掲げるウェルキン。


「ランドローズ公国は14世紀から17世紀の300年間、今でいうドイツ、チェコ、ポーランドの3つの領土に存在していた中央ヨーロッパ最大の国だった。そして代々、ランドローズ家という貴族が治めていたんだ。このランドローズ家っていうのがすごくてね。知力、武力、容姿、胆力、財力どれをとっても他の人間とは一線を引いて優れていた。知をふるえば宰相いらず、武をふるえば一騎当千、金髪碧眼の人とは思えぬ美しい容姿に、幾万の軍隊にも臆せぬ心臓、目もくらむ莫大な財産、神をも超える権力と……それはまあ大変な有様だったみたいだ」


 女助手がウェルキンにコーヒーを渡す。

 それをおいしそうに飲みながらつづける。


「さて、ここでアリス・C・ランドローズについて話そうか。彼女はそのランドローズ家の中でも飛びぬけて異質だった存在だった。4歳にして当時の帝王学をマスターして、男尊女卑が流行していた当時の公国にとって極めて異例な大公妃を将来に約束され、裏では秘密裏に戦争の作戦も立案していたらしい。9歳になるころには王族でありながら本人の意思で公国の騎士団に入団してひと月で部隊長に就き、半年で団長を打倒するまでに至った。容姿も飛びぬけて優れており、社交場に彼女が現れた際にはその容姿を見ようと人だかりができるほどだった」


 それはそれは。


「相当な化け物だな」


 俺の言葉に構わず、ウェルキンは続ける。


「自分の思うように世の中を変革し、望むものは何でも手中に収めた。そんな彼女はいつしかこの世界から興味をなくしていった。当然といえば当然なのかもしれない。そんな彼女に合わせられる人間なんて自分の一族にすらいなかっただろうし、世間のほうもそんな彼女のことをどこか気味悪がっていただろうしね。10歳のころにはどんな分野でも誰も彼女に敵うことは無くなってしまった。そして世間は、人間は彼女を恐れて深くかかわることをしなくなった。人間に失望した彼女は本を読み、鍛錬をしたりと晴耕雨読の日々を淡々と過ごして世の中の出来事からぽつぽつと関わりを断ち切っていた」


 成功するには才能が必要だ。

 だが、成功に失望してしまうのもまた才能なのだ。

 きっとアリスはその真理に深く悩まされていたのだろう。

 そしてついに人間の存在に見限りをつけたのだろう。

 自信を化け物と定義づけてだ。


「そんな現実にある転機が訪れる。13歳の時だ。彼女は庭で散歩をしていたみたいなんだが、途中、警護のものが彼女に巻かれたらしい。そのすぐ後、捜索していた彼らが庭で見たのは、白銀の髪をしたボロボロの少年を背負ったアリスの姿だった」


「そいつが……」


「うん、彼女の相方、ゲイン・サーバーだよ」


 ウェルキンが残っていたコーヒーを一気に傾ける。


「服もボロボロで体も傷だらけ、意識もはっきりしない彼をランドローズ家は看病することにした。とはいってもアリスが半ば強引に話を取り付けたんだけれどね。毎日毎日、彼女は一人で彼を看病し続けた。家のものはどうしてそこまで彼女が執着するのか判らなかった。だが、その看病のおかげか日に日に回復していく彼の様子を見てそれに気づいたそうだ」


 ウェルキンは再び椅子に座って手を組む。


「彼も彼女と同じく異常だったのさ。アリスの話に合わせられるほどの知力を持っていて、且つ身体の運動能力もアリスと肩を並べるほどだった。アリスは看病しながらゲインと毎日話をした。自分は王族の身分でこんなにも化け物で、もはやまともに接することすら儘ならないというのに、まったく臆することなく、気に掛けることも掛けられることもなく、笑って共に過ごせるような相手は彼女の人生の中で初めてのことだったみたいでね」


 どんなに優れている人間も孤独には勝てない。

 一人では生きてはいけない。

 だからこそ、自分と同じカタチをした人間を探し続ける。


「そして看病の甲斐あってか、やがて彼は"一部"を除いて完全に回復した。」


「一部?」


「彼は自分のことだけは思い出せなかったみたいでね。せいぜい覚えているのはゲインという名前のみ。身分も何もなかった。そこでアリスは彼を自分の執事にしようとした。最初は自分の家に引き込もうとしたみたいだけれど、さすがにそれは失敗したみたいでね。王族の血筋に、放浪者同然の馬の骨を入れるわけにはいかないからね。そして彼──ゲインはサーバーというランドローズ家直属の従者の姓を得たんだよ。けれども、この行いも易々と許されたわけじゃない。王族直属の執事という身分は本当に高貴なものだからね。これが切っ掛けで彼女は未来の皇太后という肩書きを失い、鼻つまみ者としてのレッテルを貼られる事になる。ちなみにこの本は当時のサーバーの執事達が日誌で記していたことも参考にして作られているんだよ」


 再び俺たちに向かって本を掲げる。


「それからの2人は毎日一緒に行動していた。めっきり顔を出さなくなった社交界にも偶に出るようにもなった。方や金髪碧眼の美少女、もう一方が銀髪紅眼のアルビノの美少年のきたものだから結構絵になったみたいで、社交界は大いににぎわったようだよ。その様子は主従でありながら家族であり、恋人であり、親友のようだった……っと書かれているよ。でも、世間と再び関わりを持とうともアリスとゲインは世界そのものに絶望することは無くとも人間に希望を見出すことは無かったようだけどね。突き詰めてしまえばお互いに異端児だったわけだし、貴族たちに容姿でちやほやされようとも、ランドローズ王家では鼻つまみ者という扱いは変わらなかった。アリスに関しては自分の一族の関係もビジネスライクとして割り切っている節あったそうだ。そして14歳の時にある事件が起きる」


 アリスは鼻つまみ者とまでに身を落としてまでもゲインを欲したのだろう。

 きっと彼女は王族なんて言う肩書には何の価値も持たないということを見切って、惜しみ気もなく過去の栄光を捨てた。

 どんなに望んでも叶う事のなかった『半身』の存在のほうがよっぽど価値があり、大切だったから。


「アリスの誕生日にそれは起こった。彼らは形式上、もとい、仕方なくかな? 誕生パーティーを大々的に開くことになっていたのだが、そんなとってつけたようなパーティーに参加することはなく、パーティー直前に失踪したんだ。そしてそのまま城には帰ってこなかった。王族たちはもちろん、貴族たちも大慌てしたそうだ。彼らのような強大な化け物が他国に渡ってしまった……なんて関係ない僕が考えるだけでも鳥肌が立つよ」


 確かにそれはマズい。

 軍事に関しては彼らを頼っているわけであり、そのまま彼らを殺して軍事力を削ぐこともできるし、人質として交渉席を設けることだってできる。

 洗脳できればの話だが、自分たちの手駒にだってできる。

 敵国にとってはいいこと尽くめだ。


「公王は国中を挙げて捜索を命じた。けれど、痕跡も目撃証言すら出てこない。いくら調査しようにも何にも出てこない公国は途方に暮れるばかりだったんだけれど、半月した後に彼らはひょっこり帰ってきたんだよ。怪我も何もない状態でね。公王は責任として執事のゲインを処断しようとしたが、アリスの憤激でその目論見はつぶされたそうだ。……いや、本当にすごかったみたいでね。本にもその内容が記載されているけれど、といやー、まあ仮にも王族がこんなセリフはいてもいいのって疑いたくなるレベルだね、うん」


「いつの世も女は怖いってね……」


 宗一が目をつぶってうんうんと頷く。

 俺も心で頷く。

 横に読まれてないか心配だ。


「その事件の後、彼らは秘密裏に城の書庫に研究室を作った。そして、2人は人目を盗んではその部屋にこもっていたそうだよ」


 なんとなくだが察しが付く。


「魔術の研究か?」


「お、さすが。話が早いね。そう、僕らの見立てではその失踪中に"何か"があった。そしてその影響で、彼らは魔術、魔法というオカルトを認識できるようになったんじゃないかと……そう予想している。ここのところは確信がなくてね。どうもその"何か"がはっきりしない限りははっきりと断定はできないんだよ」


 はっきりとした節目は確かにその失踪事件だ。

 どうも事件内容そのものもオカルトくさいしな。


「そして彼らはその部屋で人外の知力を惜しみなく奮って、魔術と魔法について研究した。ある時にはランドローズ家が代々引き継いでいる古い武器もこっそり拝借していたようでね。おそらくそれが晶術の研究に繋がるんじゃないかと思っている。あれだけの公国だ、年代物の武器だってたくさん置いてあったはず」


「…………」


「そんな日々を一年ほど彼らは過ごした。そしてある日、サーバーの執事長によってついにその研究室は発見された。執事長は立場上の問題もあって、2人に許可を取ったうえで公王にその研究結果を渡したそうだ。そしてその資料こそが今日の異能の力の基礎として広まっている」


 ウェルキンはゼノフォードと篠木田を見ながら言う。


「公王はその技術に心底惚れ込んだ。すぐに適正者を調べて魔術団を設立して軍力を増強しようとした。こうしてこの異能は大衆の目に触れられるようになり、同時にアリスとゲインの異能の研究が正式に認められたんだよ。──そして、その世紀の発見から3か月。悲劇は起こった」


 ウェルキンは目をつぶる。

 本を通してその出来事を鮮明に思い出すかのように。


「事は研究室で起こった。原則として2人以外の研究室の立ち入りを禁止していたから何が原因で起こったのかその時はわからなかった。記述によると突如オドの大量放出により大爆発を起こし城は半壊した、ってあるけどもね。それだけ済んだならここまでひどい惨劇にはならなかったんだけどもそうはならない。そんなことが霞むほどのものが爆炎の中から出てきた」


 事故……なのか?


「出てきたものは4体の異形の怪物だった。真っ黒な人の形を取っていながらゆらゆらと陽炎のように揺らめいていてその存在を確固たる形に固めていなかった。その怪物たちは周囲のオドを吸収しながら市街地へと繰り出して破壊活動を開始した。──それは本当に凄惨な光景だったようだよ。逃げ惑う人々を容赦なく消し去り、大地を揺るがし、空を焦がす。建造物を腕の一振りで全壊させる。国は瞬く間に赤く染まった。公王はすぐに魔術団と騎士団を向かわせ、同時に爆発した研究室から出てきたアリスとゲインに問い詰める。あれはなんだ?とね。彼ら曰く、怪物の正体は魔術と魔法の研究の"副産物"である魔導生命体で超獣と名づけられたものだった。それらはオドを燃料として活動し、一つ一つの個体が特徴を持っているのだという。厳重に封印していたのだが、ある実験の際に起動してしまった、というもののようでね。──この2人は本当に基礎的な部分の式しか紙に残していなかったんだよ。公王に渡した情報も全部基礎中の基礎。重要な術式の研究結果はすべて彼らの頭の中にあったみたいでね。400年たった今でさえ完全な魔導生命体を作れるような技術はないんだ。彼らの驚異的な頭脳に恐怖するばかりだよ」


 オーバーテクノロジーってところか……


「その報告に激怒した公王はその場で2人の処刑を命じたのだが、次の瞬間超獣の放ったオドの激流に飲まれて消え失せてしまった。討伐の任を与えられた魔術団と騎士団も超獣の相手にはならずに、その存在ごと影も残さず消し去られてしまった。……その圧倒的な力に、もうこの時にはすでに国のほとんどは焦土と化してしまったみたいでね。2人は必死に超獣を止めるための術式や法式を放ったけれど、どうにもならなかった。そう、あらゆるものを破壊して舞い散ったオドを多量に吸収することで半永久活動を可能にした超獣を止める事は2人の力をもってしても出来なかったんだ。だからこそ、最期の手段に出たんだ」


「最期……」


「そう、"命"を懸けた手段だよ。超獣に強力な封印術式をかけたんだ。2人の存在が無くなってしまうほどにマナを使ってね。そして超獣は光の粒となって消えていったそうだ。同時に、アリスとゲインの姿も消えていた。そして、かろうじて生き残った関係者たちは"ランドローズ公国の存在消去"という形でこの悲劇を隠ぺいすることにした。世界の裏に封印することによってね」


「ついでに異能も裏行きってことかい?」


「そう、君の言った通り、異能の存在も裏に封印することとなった。後日、隠ぺいのために関係者たちは国を魔術で手早く復興しながら、周辺国に根回しして、土地を分配し、城に残された研究資料の発掘もしていた。幸いにも公王の手に渡っていた資料はすぐに発見できた。そして、2人の研究室にも足を踏み入れたのだけれど、そこには驚くべきものがあったんだ」


「……ノアだったか?」


「そう、ノアだよ。よくわかったねー。まあ、彼らが作ったのかどうかはまだわからないんだけど、恐らくだが彼らはノアを製造していたんだろうっていうのが今の見解。そして事実として彼らはノアを持っていたんだ。あともう一つノアの絵だ。重要な文献はすべて頭に入れていた彼らが残した形に残っている貴重な情報だ。生き残った当時の異能の関係者たちは周囲に舞い散るオドを見て異能の道具というのは分かったのだけれど、ノアそのものわかっていなかった以上、用途が全然わからなかったんだ。メモには目の前のノアと似た金属の正方形に入った丸い核のような4つ物体の絵と、それぞれに名前が書かれていた。ちなみにランドローズ公国で発見されたのは、『ルカ』っていうノアさ。でも扱いが分かんない以上、どうしようもないから処分検討として放置することにしたんだけれど、見つけたその次の日に消えてなくなっていたそうなんだよ。起動もできなかったはずなのにね……」


 やれやれと、ウェルキンは首を振る。


「ノア以外に彼らの研究室には数点の武器があっただけで他のめぼしいものは何もなかった。さっきも言ったけれど重要な結果は彼らの頭にしか残されていなかったってわけ。……こうして、ランドローズ公国は異能の存在とともに裏へと封印されて、関係者達は各地に散っていったんだよ」


「まだ終わりじゃないんだろう? というかそれじゃゲインとアリスは大罪人というわけじゃないはずだ」


 公国を滅ぼしたのは確かでも『全世界』の大罪人とまではいかないはずだ。


「うん、そうだよ。……それじゃあ、ノアについて少し詳しくいこうか」


 そういって本を机の傍らに置く。


「メモ帳から推測してノアは全部で4つある。それぞれにヨハネ、マタイ、マルコ、ルカという名前があって、僕らの組織はそのヨハネを持っているんだよ。後にそしてその名前を組織の名前にしたんだ」


「ほかにも持っている組織があるってわけ?」


 宗一が質問する。


「そうだよ。まあそれも後で話すからさ……えっと、17世紀に発見されたって言うけれど4つともほぼ同時期なんだよ。メモ帳を見た関係者たちは残りの3つもこの世界にあるって考えていたから常に探すようにはしていたんだ。ヨハネは日本、マタイはロシア、マルコはブラジル、そしてルカはランドローズ公国、アリスとゲインが持っていたノアなんだよ。関係者たちは自分たちが見たルカと似たような物体の情報を聞きつけるとすぐにその存在を裏に持ってくるためにその国に足を運んで発見者と話をつけにいった。忘却術式がまだ確立していなかったこのころに記憶を消すなんていう便利なこともできなかった。だから発見者とともに世界の裏で生きることを交渉し、説得した。こうしてヨハネ、マタイ、マルコの3つの組織ができあがったってわけ。そしてこの頃から、世界中の裏に異能が浸透し始めて、先人たちの研究の結果ノアの用途を理解して、異世界の研究が始まったんだ。3つの組織が協力してね」


「……ルカは一体?」


「ルカはランドローズ公国から消えて以来、行方がつかめていなかったんだよ。起動できるような状況でもなかったから、当時の3つの組織は消滅という結論を下したんだ」


「お前らが日本語に精通してんのはそのヨハネの発見者が日本人だったからなのか?」


 俺はゼノフォードとウェルキンを見る。


「そうだよ。ヨハネに続いているゲートは世界中にあるけれど、本拠地は日本だから大体の構成員は日本語を話せるよ」


「ちなみにゲートってのは、お前たちが巻き込まれた黒い穴のことだ」


 分かってるとは思うがな……とゼノフォードは言葉を締める。


「3つの組織は最初は協力してたんだけれど、段々と異世界の扱いについて食い違いが目立つようになっていったんだ。マタイ、マルコに共通している点は"ガンガン勢力を伸ばそう"としていることかな? 手段としてはマタイは交渉、マルコは武力。とはいってもマタイも武力を行使することもあるし、マルコも必ず武力を使うわけじゃない。単なる頻度の問題。両者とも飲み込んだ勢力とは"互いにうまくやっていく"という考えだが、決定的な違いはマタイは"支配"、マルコは"共存"の色合いが強い。みんながみんなじゃないけど。ヨハネは"調査"を中心にした扱いを取っている。感覚的にはマタイとマルコの中間ってとれえてくれればいいかな。つまりは"自由思想"ってことなんだよ。方向性の違う3つの組織はついに別々の道を進むことにした。ヨハネはここD489520に留まり、裏の世界にこのバベルっていう馬鹿でかい塔を作った。マタイはI569929に、マルコはK007356の世界線にその拠点を移した。おかげで今でも仲が悪くてね。敵対しているわけでもないのに偶に衝突してるんだよ」


 ウェルキンは浅く溜息をついた。


「そんな仲違いもあって、あの悲劇から50年たったある時に悪すぎるニュースが2つ知らされることになる。」


「いいことは無いのかよ」


「残念なことにね。一つは失われたはずのルカを使って世界を破壊して回っている組織が発見されたこと。4つ目の組織が見つかったわけさ。つまりはルカは"消えた"のではなく"異世界に転送された"ことがわかった。その組織──便宜上ルカって呼ぶけど、なんで世界を壊しまくっているのか、ただ単に拾っただけじゃ使えないはずのノアをどうして持っているのかがよくわからないんだ。完全なUNKNWON。たびたびルカとも戦闘を行ってはいるが、"世界を破壊する"っていう目的以外まるで読めない。2つ目は封印したはずの超獣が発見されたこと。ついでにこいつらも世界を壊しまくっているというおまけつき。ここでわかったのはあの時アリスとゲインが行った魔術は封印ではなく転送の術式だったってわけで。この瞬間から彼らは全世界の大罪人と呼ばれるようになった」


 なーるほど、納得がいった。

 世界を食らいつくす怪物を造り、野放しにした罪ってか。

 途方もない犠牲を生んだのだろう。

 確かに大罪人にふさわしい罪状だ。


「思想が違う3つの組織はこの2つの案件にだけ共同戦線を張ることにした。1つ目はルカの壊滅、2つ目は超獣の討伐。──まとめるとこうだ。ヨハネの目的は異世界の文化、技術の調査、偶に保護とか征服とか入るけれど、最初の2つさえ守れば基本的に"やりすぎない限りで"個人の自由に任せている。そして最優先事項としてルカの壊滅、超獣の討伐ってところ。……自分でいうのはなんだけど、きっとこのヨハネこそが世界に救いをもたらしているんだと自負している」


 ウェルキンは照れながらも誇らしげに言い切る。


 ああ、これはそういう流れなのか。

 今まで散々遠回しな理由が分かった。


 ウェルキンは立ち上がって俺たちに頭を下げる。


「さっき君たちにクロス君と心音君がかけた簡易忘却術式は、マナの濃度が高い異能の素養がある人間には効かないようになっている。そして、君たちは術式が効かなかった。この結果になったのは君たちは異能を使う素養があるっていう立派な証明になっている。これまでの非礼をお詫びする。これからいうことは本当に虫のいい話だ。非礼を詫びた程度じゃどうにもならないことも重々承知している。それでも、―─それでも君たちにお願いしたい」


 ウェルキンは頭を挙げて俺たちの目を見ていった





 ──まあ、わかってたけどね。


「僕たちと一緒に世界を救ってみないか?」



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