12.世界の秘密と異能について
ただのチラ裏回。
読み飛ばしてもまあ、大丈夫なんじゃないかなーなんて。。
後々詳しい解説回が入るので、今回は上辺の設定話です。
──70階 指令局長室
目に飛び込んできたものはひたすらに"本"だった。
筒状の部屋の壁一面に本棚が置かれており隙間なく本が置かれている。
そして床。
あらゆる書類が山積みにそして無造作に置かれ、そして足の踏み場すらないほどに床一面に散らばっている。
部屋の中央には3つの大きなソファー、奥には木製のシステムデスクが置かれている。
『………………』
あまりの凄惨な光景に俺たちは言葉をなくす。
その顔を見た奥のシステムデスクに座っている男──局長は、
「……いや、まあだいぶ散らかってるけどそこのソファーにかけてくれるとうれしいかな。なるべく書類は踏まないで」
「それは無理でしょう」
間髪入れず宗一が言う。
確かに無理だ
ジャンプしてソファーに座れとでも言いたいのか、こいつは? 新体操じゃねぇんだぞ?
すると、隣にいたゼノフォードが
「…………」
無言で書類を踏みまくりながらソファーまで足を運ぶ。
「ちょっと!? 踏まないでって言ったじゃん!?」
「そんなこと知るか。お前が溜めるから悪いんだろうが」
その言葉を聞いた局長は思わず顔を引きつらせる。
──図星なのかぁ
と、ナンデモ屋は共通の思考結果に至る。
「まあまあ、局長」
気が付くと後ろにいた篠木田が散らばった書類をしゃがんで手で隅にはけてソファーまでの道を作っている。
「あんまりペティさんを困らせたらだめだよ? それに局長が仕事しないとあたしたちの仕事にもかかわるんだからちゃんとしてよね?」
「心配はいりません。心音さん」
局長の横に控えている女が言う。
「あと二日で終わらせなければ強行手段をとりますから、あなたの任務は滞りなく発注させていただく予定ですので」
この言葉に篠木田はたまらず局長から目をそむける。
何故か涙目で、
「……局長、死なないでね?」
と、鼻をすすりながら言う。
いったい何が起こるんだ。
そう思わずにはいられない俺だった。
「……はい、ほんとにすいませんでした」
血の気をなくした顔のまま心音に深々と座礼する。
とりあえず彼の冥福を祈っておくか。
「えっと……ごめんね、脱線して。とりあえずかけてくれよ」
言葉に従い、篠木田が作った道を通って真ん中のソファーにかける。
ゼノフォードと篠木田は端に座っている。
なるほどね、とりあえずはここから逃がさないってことかい。
この位置関係を見て俺は思う。
それにしてもだ。
この局長ってやつにしても隣の女にしても日本語うまいな……
見た目は欧米ってところなのに、なんでマイナーな日本語なんて使っているんだ?
すると、俺の思考を遮るように
「えっと、まずは自己紹介だね。僕はウェルキン・シュガー。この特務機関"ヨハネ"の戦闘員統括作戦局長って地位についてます」
いきなりわからない単語を吐き出す。
さっきも言ってたな"ヨハネ"って
何かの組織なのか?
「ここは君たちの住んでいる『表』の世界とは違う『裏』の世界なんだ。まあ、『表』にある『闇』も『裏』に該当するし、あながちここも『闇』と呼んでも間違いじゃない」
片目をつぶり、ウェルキンは続ける。
「きっと君たちほどの実力だと結構『闇』にも深くかかわってそうだけど……違うのかな?」
──『闇』
確かに的を得ているな。
あんなのゴミダメの世界はお似合いの名前だろ。
だからこそ、
「そんなことはあんたには関係ないだろ」
俺たちと何の関係もないこいつに話してやる義理なんてない。
俺の──俺たちの事なんて話してやる義理なんてない。
「……そうだね。確かに今は関係なかった。だからそんな怖い顔をしないでくれよ、三人とも」
俺は両隣にいる凛と宗一を見た。
少量の殺気をはらんだ顔でウェルキンをにらんでいる。
きっと俺も同じ顔をしていたんだろう。
「……失礼しました、局長さん。見苦しいところをお見せてしまいまして」
凛が頭を下げる。
「よしてくれ。元はといえば僕のデリカシーがかけていたことに問題がある。謝るのはこちらのほうだよ」
申し訳ない、とウェルキンが頭を下げる。
「また話がそれてしまったね……そうだな、まずは何から話そうか……」
顎に手を添えて考える。
「そうだね。"世界"の話から始めよう」
そういって机の上で手を組む
「君たちは"並行世界"、"異世界"についてどう思う?」
並行世界、またの名をパラレルワールド
簡単に言うと「今いる現実とは別の現実が存在している」というSF小説に多く登場している考えだ。
例えを挙げてみると、
Aさんが河原を歩いていました。
すると、道端に500円玉が落ちていました。
Aさんは"お金を拾って自分の財布に入れました。(俺なら絶対そうする)
ここまでが現実だとしよう。
そこでパラレルワールドを導入してみる。
500円玉を見つけた段階で、
Aさんは500円玉を"交番に届けた未来"も確率としてはあったわけだ。
Aさんは500円玉を"あえて拾わない未来"もあったわけだ。
そういう風に未来が無限に分岐していて、その結果世界は多重に存在しているという考えになる。
つまりは"原子位置の再現"としての考えではなく、"可能性の分岐"で考えているのだ。
ここに『カオス理論』だのを加えていくこともできるのだが…………
異世界っていうとファンタジー要素の強い物語よくある考えだな。
現代とは理が違うところが並行世界と違う点じゃないだろか。
そこには人間じゃないものが住んでいたり、ひょっとするともっと別な生き物が生物の頂点にいたり、そもそも生き物が全く生息していないんじゃないかなどの議論も挙げられているな。
ってこんなところか。
あまり専門分野入れるとややこしいし面倒だからな。
「今いる現実とは別の現実が存在しているってことか?」
俺が答える。
全部言うのは面倒なのでめちゃくちゃ省略っつうことで。
「うん、そうだね。でも、宇宙物理学では多元宇宙については"否定的ではない"という考えでね。"否定的ではない"ってだけだから『表』の科学では未だ証明はされていない」
そんなことは知っているからイチイチ言わんでもいい。
「でも、僕たち"ヨハネ"はその未だ存在が確認されていない異世界を実際に"観測してそして、移動する"手段を得たんだ。400年ほど前にね」
マテ、今すごいこと言わなかったか?
「厳密には"ノアっていう乗り物を使ってわたっているんだよ。このヨハネの創始者が見つけてね」
驚いている俺たちに構わず続ける。
「ノアを使って400年ほど世界についてヨハネは研究した。世界のあり方とか構造とかね」
「ハイハイストップ! ちょっと待てよ!」
構わずぺらぺら喋るウェルキンの口を止める。
「400年前から異世界の観測と移動に成功だって? そんなことがなんで今まで……」
「出てこなかったのかって?」
俺の言葉を遮って、ウェルキンは笑う。
「ちゃんと公言できない理由もあるんだよ。だから『裏』にあるってことかな? ……それにちゃんと話すから落ち着いて聞いてくれないか?」
「……」
その言葉に俺は黙るしかなかった。
同時に先ほどのように好奇心が刺激してくる。
もっと知りたいと渇望している。
とりあえず、黙って聞くか…………
「えっと、世界の話かな? 厳密にいうならば"世界"っていうのは一枚の葉っぱみたいなものなんだよ」
マグカップを持ち、立ち上がってすみにあるコーヒーポットまで歩く。
「本当に色んな世界がある。それはもう例に出し切るのもばかばかしいほどに沢山ね。可能性の拡散を視野に入れているんだから当然っちゃ当然なんだけど。もっと細かく言えば世界って呼ばれている葉っぱの中にだって色んな分岐世界が広がっているんだから、それはもう列挙するには何代ぐらい生まれ変わると終わるんだっていう話さ。そこで僕たちは観測しうる世界に名前を付けることにした。アルファベット1文字にアラビア数字6文字でね。これを名前を"世界葉"と呼ぶことにした」
ジャーっと湯気だつコーヒーを入れていく。
「研究を進めるにつれて、世界の構造について理解することもできた。世界っていうのは"オド"っていうエネルギーで作られているんだ。それは葉っぱでいうところの縁なんだけれど、とりあえずこれがなければ世界が溶解して壊れてしまう。ゲームでよくある"世界崩壊の危機"とかいうやつだね」
椅子に座って砂糖を入れる。
「観測の結果、僕らはこのオドというものが姿かたちを変えて、血液のように色んな世界で循環していることが分かった。木でいうなら栄養分だね。ならさ、心臓の部分も世界のどこかにあるんじゃないかって思うじゃない?」
砂糖を入れる。
「そしてついにその心臓、木でいうところの"幹"にあたる世界を発見したんだ。それは、普通の世界とは違ってほとんど中身が無くてね。単純にオドを循環させることしか観測できることが無かった。実際降り立つこともできなかったしね。実際にはその観測結果だけじゃ机上の空論って呼ばれるかもしれないけど、そうやって考えたほうが辻褄は合うんだし、多分これが真実なんじゃないかっていうのが僕たちの考え。そして僕たちはその循環世界を基準として始まりのA000000の世界葉をつけた。ついでA000000なんて長いし固有の名称として"リコード"って名づけることにした」
砂糖を入れる。
「世界葉を図るには常にこのリコードとの距離が参考になる。結果としてこの世界の『世界葉』はD489520ってことなったんだが……」
砂糖を入れ…………
「ねぇ局長さん。砂糖入れすぎじゃない?」
宗一が笑顔でいう。
──やっとつっこんだぁぁ!!
ずっと思ってたんだけどシリアス風味だから下手に口出しできなかったんだよ。
「局長は甘党なんだよ。コーヒーとか飲まないでアップルジュースとか飲んでればいいのに……」
篠木田も笑顔でいう。
「僕は"甘い"コーヒーが好きなんだよ。それにケーキとかは好きじゃないし、甘党でもないんだよ」
「要は変人ってことですよね?」
宗一が毒でつく。
「……さて、つづきだけど」
……強引になかったことにした。
まあ、触れないほうが彼のためだろう。
「世界の観測にはさっき言ったノアと呼ばれる乗り物を使っているわけだけど、」
とどめに一つ砂糖を入れて、
「このノアが見つかった17世紀にはもう一つ、重大な発見があったんだ。」
甘ったるそうなコーヒーをウェルキンがぐびっと飲む。
「"魔術"が生み出されたんだよ。君たちがクロスと心音にやられた、所謂オカルト現象が開発されたんだ」
────…………
魔術ねえ。
『闇』いいたころじゃ、やったこともなかったし、見たことだってない。
だからこその『裏』なんだろうけど。
「開発したのはゲイン・サーバーという男の子とアリス・C・ランドローズという女の子だ」
その言葉に疑問を覚える。
「"子ども"?」
「そうだ、彼らはたった15歳にして今現存しているすべての"魔術式"の基礎を構築したんだ」
コーヒーを飲み終わったのか、再び手を組む。
「魔術には様々な種類がある。さっき君たちを拘束していた『束縛術式』や『強化術式』、『忘却術式』、『転移術式』、『回復術式』、『五元術式』、『結界術式』…………挙げれば切がない。だが、それらすべてに"術式"という共通の"回路"を持たせることで魔術を現実に顕現することに成功したんだ」
「つまり、『術式』ってのをその二人が作ったから、魔術ってのは二人が生み出したってことになってるわけ?」
「そういうこと。クロス君のように杖とシンクロして使う方法や、心音君のように武器を媒体として使う方法、式を体に埋め込んで使う方法、呪文を継承して使う方法とか、様々な方法で『術式』を生み出しているんだ」
思わず、端にいる二人に目を向ける。
篠木田はこちらに気付いたのか笑顔を向けてくる。
ゼノフォードは目をつぶって静かにウェルキンの話を聞いているようだ。
「そして、魔術は、術式に自身の生命エネルギーであるマナと、世界の要素であるオドを流して発動する」
「生命エネルギーとは?」
凛が口を開く。
「聞いたことないかな? あるマウスで実験したらしいんだけど、生きているときの重さと死んだときの重さは、わずかながら"死んだときのほうが軽かった"って内容なんだけど。これを『裏』の面でとらえるならば死んだときに抜け落ちたそれは、"生命エネルギー"なんだよ。魂ともいうね」
「聞いたことはあるがそんな……」
ウェルキンは俺のうろたえた言葉に構わず続ける。
「さっき話したオドもこの魔術に関係している。オドは世界を構成している縁なんだが、実は世界の中身にもその断片が流れているんだよ。もう少し魔術について説明するとだ、術式にマナとオドを一定の比率で流し込まないといけない。術式を回路と表すなら、マナとオドは電池だね。しかも、使う術式によって二つの比率は変動するから注意が必要なんだ。クロス君や心音君のような『魔術師』は集中すれば、流れるオドが見えるようになっているし、オドを取り込むことだってできる。少しだけどね。それでもオドは大きな力だから発動時の大きな手助けになってくれる。んで、マナとオド、二つ合わせて"魔力"というんだ」
「…………」
俺たちは黙ることでウェルキンに話の続きを促す。
「今は"武器を媒介にして使う"方法が一番メジャーなんだけれど、これがなかなか興味深いんだ」
面白そうに笑いながら指を一本立てる。
「この方法は武器に対して自分が生み出したい魔術をイメージしながら回路作って魔力を流すんだけれど、原料の性質上これらの武器は魔力に干渉しやすいんだ。だからこそ魔術の成功率が高いんだけどもね。この原料、エーテルっていうんだけども、魔力を超濃度で圧縮した金属でさ、"思念を持った金属"って呼ばれてる。おかげか生成がひどく難しい。ちなみに使う武器の多くはかなり古い、伝記にでもでできそうなものばかりでね。魔術が生み出される前から存在してたものなんだよ」
「それって、400年以上前にも似たような力を人は使ってたってことなのか?」
「確証はないんだけどね。全く知らないで魔術を使ってたかもしれないし。そこのところはまだよく分かっていないんだ。研究中でね」
ふぅっとウェルキンはため息をつく。
「エーテルの性質を持っているせいなのか、武器の中にはある固有の『術式』が組み込まれていることがあるんだ。厳密には魔術の術式とは少し違うんだけれど、面白い効果を持つものが多くてね。僕らは"魔術"と区別をつけて"晶術"と呼んでいる。……それともう一つ彼らが開発した技術があるんだ。"魔法"っていうんだけれど……」
「……あの」
凛が口をはさむ。
「それって同じようなものなんじゃないんですか?」
「んん。全然違うよ。この魔法は400年間の間に使うものはほとんどいないっていう結構レアなものなんだけれどね。魔術の術式を"法式"っていう別のものに書き換えて使うんだ」
ウェルキンが質問に答えて続ける。
「この技術の真価は組み合わせにあるんだよ。術式を解析し自分のものにして他の様々な『術式』に組み合わせる。そうすることでオリジナルの"法式"ができあがるんだよ。ある意味では形式に沿った方法で発現する術式じゃ難しい技術だ。やろうと思えば晶術だって解析できるんだけれどね…………」
笑いながら話していたウェルキンが途端に苦みを含めた。
「この魔法を使うには解析出来るだけの膨大な知識量はもちろんのことだけれど、高度な術式になっていくほど解析は厳しくなる。法式そのものも作るのは難しいし。実はこの法式はマナでしか動かせないんだよ。おまけに消費量も多いときて、ただでさえオドを使えないのにマナだけで多量のエネルギーを賄わなきゃならないんだ。さらに悪いことにまだ原因はわからないんだけれど魔法を一度でも行使すると、今後一切魔術が使えなくなってしまうんだよ。ついでいうとこの組み合わせは時間はかかるけれど魔術でも十分開発できるし、その組み合わせのためにここには開発局なんてものもあるんだ」
──なんか聞いてるとその魔法って…………
「実はほとんどの述師は魔法よりもあきらかに魔術のほうが適正が強いことが多いんだ。便利そうに見えて、実に使いづらいもったいない技術なんだよね。だからこそ、この400年間、殆ど誰も率先して使おうなんて思わなかったんだ」
──俺の病気の"症状"に似てるよな。
「なにか言いたそうにしているけど大丈夫かい?」
ウェルキンが笑って俺を見る。
「……ん? ああ、大丈夫だ。続けてくれよ」
「そうかい。まあ、ここまで話したけど、正直ピンとこないだろう。それでもいい。"そういうのがあるんだ"と認識さえしてくれればいい。それらを踏まえたうえで本題にしよう」
ウェルキンは立ち上がって壁の本棚から何かの本を探す。
「えーっと、確かこの辺に……」
がさごそと漁る。
途端に漫画の一コマのように埃が舞い散る。
「局長。掃除ぐらいしてください」
「わかってるわかってる。また今度ね…………っと! あった」
女の言葉を異にも返さず、ウェルキンは一冊の古い本を手にしてポンポンっと本に付いた埃を払う。
そして机の上に、俺たちに見せるように本を立てる。
────タイトルは、
「さっき言ったゲインとアリスの二人は魔術、晶術、魔法の発見者であり、開発者でもあるんだけれど…………」
────Tragedy of a land rose dukedom(ランドローズ公国の悲劇)
「文字通りで『全世界』の大罪人なんだよ」




