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幻想のメシア  作者: からから
第一章
11/28

9.逃避していたある考え

 

 時間を遡って──


 41階Bフロア廊下。




 ナンデモ屋が今いる階なのだが……


「とりあえず下に行こう」


 走りながら仁は二人に提案する。


「窓を見る限りじゃ、この建物はどうも馬鹿みたいに高いらしい……だったら一番下まで下りて建物から出ることが先決……なんじゃ……ない……か……と……」


 先ほどの失態を気にしてなのか、徐々に言動が尻すぼみになっていく。


「……確かにこの状況で上に上ったところで何の解決にもならないわよね。」


 凛が溜息をつきながら言う。


「ほんとまあ、なんていうか……疲れるよね〜。いつもながら」


 宗一が困ったように顔をゆがめる。


「うぅ……」


 本当に言い訳のしようがないほどに仁の責任が大きいので罪悪感が心を支配する。


 なので、


「あ、次は左ですね……」


 下手に出ることにしたのだが、


「仁、その口調気持ち悪いからやめて」


「…………」


 凛のこの言葉を聞いて本当に沈黙をもってして応えることにした。




 しばらく、走っていると階段が見えてきた。


「よし、それじゃあ降りるか……って、おいおい……」


 仁が先陣切って階段に足をかけようとしたその時、

 下から走りながら階段を上っている音が聞こえてきた。

 気配から察するに……どうも穏便に済みそうにないようだ。


「準備は……もうできてるな」


 仁が振り返ると、手袋をつけている凛と、竹刀袋から木刀と竹刀を一本ずつ取り出す宗一がいた。


「言われなくても」


「出来てるわよ」


 その様子に仁は苦笑する。

 ──ホント、頼りになるわ。こいつら。


「うっし!! んじゃ、行くか!!」


 そして、三人は勢いよく階段を駆け下りた。




 §--------------------§




 敵は40階付近まで登っていた。

 数は……20程度か。


 俺は敵の先頭が持っている十手のようなものを奪うため、殴りかかった。

 タイミングは申し分なかったのだが……その拳はあっさりと首を傾けるだけで避けられてしまう。

 この隙を逃さずに、敵はカウンターの要領で俺の顔面に拳をたたきつけようとする。

 ……が、俺は敵の手首をつかむことでそれを防ぎ、自然と取っ組み合う形をとる。

 俺の動きが止まったことを見た残りの敵たちは俺に襲い掛かってくるが、宗一と凛が俺の周りを守るようにその敵たちを迎え撃った。




 取っ組み合いながらも俺は二人が相手をしている敵たちに注意を少し向ける。

 ──実力から見るにいま俺とやり合っているこいつがリーダーかい。

 それにしてもこいつにしても周りの奴らにしても結構デキるな……

 このクラスの奴が大勢押し寄せるってなると……こいつはなかなか穏やかじゃなくなるな。

 そうと決まれば──



 俺は敵のリーダーから手を強引に振りほどいて、そのまま素早く首相撲の形で相手の頭を押さえ右の脇腹の位置にもってくる。


 そして、


「おおおおおららららぁ!!!」


 右足のかかとで相手の顔を連打する。

 この技、凛が使ってたんだけど、あいつもなかなかエグい事するよな……

 10連打ほどで気絶してくれたので俺は十手のような棒を拝借して凛が相手をしている集団に飛び掛かった。



 7人……か。

 いや、今凛が吹っ飛ばしたから6人か。

 彼女が今使っている武術は"空手"である。

 曰く、「多一の時は一番使いやすい」んだとよ。

 まあ、気持ちはわからんでもないがな。


「おい凛。左やってくれや。右は俺がやるから」


「OK。任せたわよ」



 十手の本来の使い方は打撃にこそ真価がある。

 長十手ならばそれ単体で十分な引きになるのだが、いかんせんこれは普通の十手。

 この敵のレベルとなると気絶させるにはちょっと心もとない。

 ──ならば、


 俺は、目の前にいる敵二人に仕掛けた。

 一人に右手で十手をふるう。

 が、左腕で防がれてしまった。

 その隙に左にいた敵が蹴りを繰り出してくるが、俺は十手を防いでいる敵の左腕をつかんで思いっきり引っ張る。

 すると、体が入れ替わり、蹴りが同士討ちとなって敵の頭にクリーンヒットする。

 そのことに驚いている蹴りを繰り出した敵に俺は体重をかけて顔面めがけて十手を振りぬく。


 これで終了。

 威力が足りないならば体重をかけて溜めて打つべしってな。




 スパンっと何かが切れる音が聞こえた。

 見ると宗一が敵の武器を"木刀"で切ったみたいだ。

 とどめとして相手の意識を断ち、宗一のほうも終了。

 まあ、あいつにかかれば刃がなくたって切れるものは切れるよな。




 凛のほうも終わったみたいだな。

 みんな無事で何よりってか。

 それにしても──


「なあ、多分奴さんなんだけどよ」


 俺が二人にそう言うと、


「捕縛目的っぽかったって言いたいの?」


 宗一が俺の言葉を遮って言う。


「ああ、なんか全力じゃなかったような気がしてな……」


 殺傷力が低い十手を使っていたことが何よりの証拠だろう。

 十手は相手を殺すことに意義がなく生け捕りにこそ意味がある岡っ引きの切り札なのだ。


「私もそう感じたわ。とはいっても、素直に捕まってあげるわけにもいかないし……」


「……そうだね。今のうちに早く脱出するべきだよ」


 二人の言うことはもっともだった。


 ので、


「それじゃ、なるべく迎撃には相手しないで最短距離で突っ切るぞ。建物から出れば後は適当に隠れればなんとかなるってさ」


 という方針に決まったのだった。




 §--------------------§




 今は……26階か。

 あの物置から抜け出して20分ってところだから──

 少しペースが遅いか?

 あれから迎撃はなるべく受け流すように対処しているから、もたもたしてるとそのうち上からまた仕掛けられてしまう。

 そんな間抜けな挟み撃ちはごめんだね。


「おい、少し時間かけすぎだ。急ぐぞ」


「いや、結構頑張ってるんだけど……相手のほうもこっちの考えわかってきてるんじゃないかな?」


 宗一のいつものニヤ顔に心なしか余裕がなくなっているように見える。



 確かに、敵の攻撃が俺らを"打ち倒す"って感じより"時間を稼いでいる"ようにも感じる。

 なんかの作戦がある?


 だとしたら……思っているよりこっちの状況は悪化していることになる。


「なら、もう迎撃はガン無視で強行突破でいいか……?」


 俺は階段を駆け下りながら二人に提案する。


「ちょっと危なくないわけ?」


「確かに危ないだけど……なんだか雲行きが怪しいんだ……」


 凛が心配そうに俺に問いかけてくるが、その質問に顔を合わせずに答える。


「とにかく敵の動きじゃあ、何か作戦が変わっているはずなんだ。まるで……」



 ──とんでもなくヤバい奴が来るような……

 と、俺は言うつもりだった。

 けど、言わなかった……"言えなかった"、"言う必要がなかった"




 思わず足を止めてしまう。

 すぐ上にいるのだろうか。

 今まで相手にしていた敵とは比べ物にならないほどの段違いな気配がする。


 ──まともにやり合えばただでは済まないだろう。



 すると、気配が下に──俺たちに向かって動きだした。


 ヤバい!!

 宗一も凛も声に出さずとも気配に気づいているようだ。

 俺たちは顔に焦りの感情を浮かばせながら階段を駆け下りる。

 前に敵が見えるが……こんなのを相手している暇なんてない!!

 駆け下りた推進力をそのままに敵陣を突っ切る。



 何とか間に合ってくれよ……!!




 §--------------------§




 無理に突破したこともあってなのか、俺たちの身体が徐々に傷ついていく。

 見切りがうまい宗一もところどころ打撃痕があるし、さっきはあの凛が敵の蹴りを食らっていた。

 かくいう俺もさっき十手みたいので頭かち割られたから、血ぃ流してんだけどな……

 それぞれが互いの傷を心配するが話している余裕なんて今は微塵もない。


 ようやく19階まで行ったんだ。

 なんとか追いつかれる前に突破しないと……




 ──けれど、なんかおかしくないか?


 頭の隅で俺は考える。


 ──これほどの力量の敵がなんでその気配を消さない?

 ──消したまま近づけば不意打ちだって狙えるのに。

 ──そう、なんか気配を"わざと"さらけ出してるみたいな……

 ──まさか!?


「陽動、なのか?」


 俺が思考の結末を口にすると同時に、前方のフロアに強い気配を感じる。

 今上から追いかけられているようなのと同じ程度の強さの。


 そのフロアは──18階 食堂。

 その気配は素早く動いて俺たちの進路に立ちふさがる。




 そういえばなんでこいつらのことを話題に出さなかったんだろうか。


 立ちふさがったそいつは、


「ラッキ~。パフェ食べてたら敵のほうからやってきたよ〜って……もしかして侵入者って凛ちゃんたちのことだったの?」


 片手でパフェを持って妙に偉そうに胸を張っている篠木田心音だった。



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