6.これはふらぐです
放課後になってすぐに更衣室へかけこみ、ジャージに着替える。
ふう、まだ人が少ない時じゃないと着替えられない俺は小心者。
荷物を持って第二グラウンドへ向かうと、ちょうど数メートル先に見慣れた後頭部があったので、小走りで追いかけて体当たりする。
「うおっ! …って樹か。驚かせんなよ…。」
「えへへ、ごめん。」
呆れながらも、その顔は微笑んでいるので、俺も笑って謝った。ちょっと喜成と距離ができそうな気がしてたけど、やっぱり杞憂だったみたい。
「あれ、樹どうしてここにいるんだ? 吹奏楽部だろ? 俺になんか用事?」
「楽器がお高いから吹奏楽部はやめた! サッカー部のマネージャー、私にもできるかなって思ってさ。喜成もいるし。」
「えっ。そりゃ、俺は嬉しいが。マネージャーなら女バスも男バスもあっただろ?」
「あはは、琴美と同じこと言ってる! サッカー部にマネージャー希望者が殺到してたら、女バスに行くよ。」
第二グラウンドに着くと、生徒がまばらにいた。ステージに上がっていた人もいるから、先輩方だろう。その一人に近づいて、喜成が声を掛ける。
「ちわす。見学にきました。」
「おー、一年か! 荷物は適当にその辺置いて。俺、小国海斗。部長やってる三年ね。」
「和田喜成です。中学で三年間やってました。宜しくお願いします。」
「そっかそっか。今日は他に来るであろう一年も混ぜて、軽くランニングとミニゲームすっから。気軽にしてて大丈夫だぞ~。って、あれ、そっちの子は…?」
にこやかに喜成に話しかけていた小国先輩は、喜成の陰に隠れていた俺に気付いて視線を投げかけてきた。あ、自己紹介しなきゃ。
「遠峯樹と申します! えっと、マネージャー志望で来ました。」
「マネー、ジャー…だと?」
先輩、そこで区切ると違う単語になってしまいます。
「おおおおお!! お前ら! 女子だ! 女子が来たぞおおおおおっ!!!」
「「なにいいいいいいいっっっ!!?」」
大声に心臓が止まるかと思った直後、小国先輩の言葉に反応して、遊んでいた先輩方が終結した。何これ。ちょっと怖い。
「ほんとだ、ほんとに女の子がいる!」
「君、ここが何部だかわかってる? 間違ってない?」
「え…、サッカー部ですよね?」
「間違ってない! 奇跡だ!」
「ううううううちに、ママママママネージャーがッ」
「落ちつけ馬鹿者」
え、なにこれ。ちょっとどころでなく怖い。どんだけマネージャーを待ち望んでいたの?
そこであることに気付いた。女子の姿が見当たらない。
「あのー、マネージャーの先輩ってまだいらしてないんですか?」
「ああ…、来てないんじゃなくていないんだよ。」
「えっ」
どんよりとした表情で言われたことに、言葉もない。そりゃ、たしかに思いっきり募集するのも仕方なかったかもしれない。
「女子は、マネージャーするなら男バスに行くって言ってな…。うう…、今まで雑務も全て部員でやりくりしてたんだ…。」
おお…、それは可哀想だ…。って、男バスってもしかして…。
「憎き健と正悟め! いつまでも奴らの天下と思うなよ!!」
…やっぱり。兄ちゃん、怨まれてるよ。
「樹ちゃん! 是非とも我が部に入ってくれ! て言うか入るよね? 入って下さいお願いします!」
「あ、はい。不慣れですが宜しくお願いします。」
小国先輩に祈る様に言われて、断る理由も無いので入部することにする。頭を下げたら拍手が起こった。
「かわいい!」
「女の子がいるだけで良いよ!」
うっ、すみません…。可愛くもなければ、最近まで男でした。
後からやってきた一年男子がきょとんとこっちを見ていて、少し恥ずかしかった。
■ ■ ■
家に帰ると丁度夕飯が出来あがったところだったので、食卓に並べるのを手伝う。すぐに父さんと兄ちゃんが帰って来たので、なにかセンサーでもついているのではないかと疑ってしまう。
「わたし、サッカー部のマネージャーすることにした。」
「えっ」
ご飯を食べながらそう宣言すると、兄ちゃんが持っていた茶碗をガチャンと置いて立ち上った。
「健、行儀悪いぞ。」
「なんでサッカー部!? 吹奏楽部は!? ていうか、マネやるならうち来いよ!」
うん、父さんの注意をちゃんと聞こうね。
「吹部は楽器なりたいのになれるかわかんなかったから却下。男バスはマネやりたい子いっぱいいたんでしょ? 先輩が悔しんでたよ。」
「そこはほら、俺の権力で。」
「やめてよ…。それにサッカー部には喜成がいるしさ。」
「だったら心配ないわねぇ。喜成くんはしっかりしてるし。しっかり頑張んなさいよ。」
「うん!」
母さんがにこにこと応援してくれたので、それに応えて頑張ろうと思う。
ただ、他のマネージャーがいないのがちょっと心配かも…。
もう一人くらい、来てくれないかなぁ…。
ものは試しに拍手設置しました。
ところで、この話のジャンルを「学園」にしているんですけど、「恋愛」に変えた方が良いのかしら。