39.ぷれぜんとをかんがえよう
「まだ時間はある。やっぱりここは手作りが一番良いんじゃない?」
本人を差し置いて、島根さんと琴美の会話は弾む。
「そうね。いっちゃんからの手作りプレゼント……感動間違いなしだわ」
「感動するかはわからないけど、告白には定番中の定番よね」
琴美のセリフに島根さんは微妙な顔をしながらも頷いた。うん、身内の欲目が過ぎるからね。でも手作りですか?
「ほんと? 大丈夫? 手作りって重くない?」
「あのねぇ、親友から恋人にクラスチェンジ狙ってるってのに、重いだ重くないだ言ってる場合じゃないのよ。覚悟決めな」
「す、すいません……」
ひえぇ、島根さんてばドスが効いてるよぉ……。これは頑張らなければ、どんな報復があるのかわからない。
「でも何を作ればいいかなぁ」
ぶっちゃけ、今まで作って来たものなんて授業でやった工作とか調理実習とか、あんまり参考にならないし。うーん、クリスマスにプレゼントしてもおかしくないもの……。
「いっちゃん、ケーキでも焼く?」
「だめだめ、形が残らないじゃない! 見たら樹を思い出すようなものがいいの!」
忌憚のないご意見ありがとうございます。しかし、ハードルがあがる。料理はしたことがあるからやりやすいけれど、形が残るものとなるとそれはナシになる。マンガやドラマで得てきた情報を脳内で探って、プレゼントに良さそうなものを頑張って考えること暫し。
「……マフラーなんてどうかな?」
「マフラー? 手編みってこと?」
「うん」
今まで編んだことはないけれど、手袋みたいに複雑な形ではないし、挑戦しやすそうだ。
「いいじゃないいいじゃない!」
二人の反応も上々で、どうやらお眼鏡にかなう答えが出せたようだ。
「よし、そうと決まれば材料調達よ! 今日は職員会議で部活もないし、三人で買い物行くからね!」
「おー!」
「おー……」
腕を振り上げる二人に続くけれど、やっぱり当事者より盛り上がってるよね……。いいけどさ……。
「樹、帰るけ、ど……」
放課後、うちのクラスまで迎えに来た喜成が、私の周りを見て固まった。だよね。満面の笑みの女子二人が私の両腕を掴んでる現状を見るとそうなるよね。逃がす気が無い。
「ああ、喜成……、ごめん、今日は女子会なんだ……」
「お、おう。お疲れ……」
これから喜成のプレゼントになるものを買いに行くのだから照れるような場面なのに、両脇二人の圧が凄くて気持ちが疲れてる。心配そうにこちらを振り返ってくる喜成を見送ると、両脇の二人が手を引いた。
「じゃ、行くわよ」
「うっす……」
まるで宇宙人の連行現場みたいだ……。私は学校から連れ出された。
連れていかれたのは学校近くの商店街にある手芸店で、いつもは素通りしているところだった。店構えはこじんまりしていたが、中は意外に広く、色とりどりの布や糸で溢れている。
「はえー、たくさんあるんだなあ」
棚の上の方まで布で埋め尽くされていて、柄や質感に見入ってしまう。ロール状に巻いてある布なんて、今までお目にかかったことはなかった。一緒に入った二人も、同じようにしげしげ眺めている。
「ミシンも売ってるんだあ。まあ当たり前か……」
「レジンの材料もある。ちょっと気になってたのよね~」
「えっ、二人のその反応……。二人もこの店に初めて来たの?」
迷いなく連れてこられたのに、一気に不安感がやってくる。二人にとってもアウェイなら、ここに私の居場所はない。
「悪い?」
「いや、ごり押ししてくるし、足取りもしっかりしてたから今まで何度も来たことあるのかと思って……」
「いっちゃん」
「はい」
「女子がみんな手芸に興味あると思っちゃだめだよ?」
「うぁい……」
琴美の笑顔の一言。こわい。




