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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
にぎにぎしい あき
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36.ゆうきをだして

 喜成に確認するなら、さっさとしてこよう。


 琴美にそう言われた私は、休み時間になるたびに喜成の教室を覗いていた。隣に琴美は、いない。あれだけ元気づけてくれたのだから、あとは自分の力で頑張りたかった。

 けれどなかなか勇気が決まらない。喜成が一人になったところを呼び出そうと思っているのだが、いつになっても喜成のそばから女子が消えることはない。いつもこんなにモテているのかと思ったが、漏れ聞こえてくる女子の言葉からは、自分も島根さんとのように一緒にでかけたいということがあからさまにわかった。

 どうやら彼女たちは、もしかしたら自分も喜成とでかけられるかもと期待しているようだった。そんな女子はどのクラスにもいるらしく、喜成の周りに集まるのはもちろん、教室を窺う生徒の数は放課後になるまで一向に減らないのであった。


「モテる喜成なんか、滅べばいい……」


 そんな呪いの言葉を吐いてしまうほどには、喜成はモテていた。

 わかっていたけども。それにしたって、これほどとは。

 結局、最後の授業が終わっても喜成を捕まえることはできず、うちのクラスのHRが伸びてしまったがばっかりに、喜成は先に部活に行ってしまった。


「元気だしなって。帰りに聞けばいいじゃん? どうせ一緒に帰るんでしょ?」


 琴美が元気づけるために私の頭を撫でる。口調は軽かったが、その表情からは私のことを心配しているのがありありと伝わってきた。


「うん、がんばる……」



 そうは言ったものの、部活では島根さんと一緒なのだ。島根さんを恨むつもりは毛頭ない…と言えればいいのだが、多少の息苦しさを感じてしまう。島根さんはいつも以上に笑顔に見えて、それがさらに自分を暗く感じさせた。


「ねえねえリカちゃん、喜成とデートしてきたって聞いたんだけど、まじ?」


 二人でミニコーンを洗っている時だった。水を飲みに来た二年の宍戸先輩がヘラヘラ笑いながら聞いてきた。


「やだー、先輩たちの耳にも入ってるんですかぁ?」

「だってあの喜成だろ? うちのクラスの女子もなんか騒いでたよ」

「えー、私刺されるかも?」


 クスクス笑う島根さんに、「やっぱりそうなんだ?」と宍戸先輩は突っ込んで聞いてくる。


「実はそうなんですよー」


 島根さんはそう言って、ちらりと意味深げにこちらに視線を寄越してきた。

 なんだかそれが不愉快で。


「……出納帳の整理してくる」


 私はその場から逃げたのだった。



 喜成と島根さんは、付き合うのだろうか。

 島根さんは喜成目当てで部活に入った経緯があるし、ありえない話じゃない。もし二人がそういう関係になるのなら、幼馴染である自分がそのことについて聞くのは不思議じゃないだろうから、聞くのは問題ない。問題なのは、そのあとの自分の気持ちだ。喜成と島根さんと、どういう顔をして付き合っていけばいいのか、全くわからない。

 それでも、このままうじうじ悩む時間が増えるのは嫌だから、やっぱり度胸をもって今日中に喜成に確認しようと、出納帳とにらめっこしながら考えたわけなのだが。


 二人が付き合うことになっていたら、一緒に帰るのは無理なんじゃない?


 ということに気付いたのは、部活終了間際のことだ。もし一緒に帰ることが叶わなかったら、二人が付き合うことは確定で、きっと打ちのめされ感は半端ないものになるだろう。そう考えたら嫌な汗をかいてしまった。

 けれどそれは杞憂に終わって。


「喜成くーん、またねー」


 島根さんは笑顔で手を振って帰っていった。これはまだ大丈夫なのかな、と少しの期待が芽生える。


「島根さんと一緒に帰らなくていいの?」

「なんで? 方向真逆じゃん」


 喜成からでてきた言葉がこれだから、淡い期待はすぐに踏みつぶされたのだけれど。



 今日は、琴美に頼んで二人で下校中だった。喜成はいつもと同じように平然と歩いているから憎らしい。落着けるはずの喜成との距離が、今日はピリピリして感じるから余計に辛い。恋って、もっと幸せなものだと思っていたし、実際琴美のことを好きだったときは世界が明るかった。それだというのに、今はただただ辛い。

 電車に乗る前は、まだ周りにうちの学校の生徒が多くて何も言えなくて、電車に乗ったら混んでいてそんな話をするような雰囲気じゃなくて、やっと家の近所に来た時に喜成に声をかけることができた。

 閑静な住宅街。歩いている人気はない。


「喜成、聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ?」


 振り返った喜成は、私の顔を覗き込んで、怪訝な顔をした。そんなに私の表情はこわばっているのだろうか。……自覚はある。


「そこの公園でも行くか?」

「うん」


 喜成と連れ立って、住宅街の真ん中にぽつんとある小さな公園に入った。小さいころは私たちも遊んだ、さびれた公園だ。遊具はブランコに、シーソー、鉄棒、砂場、ジャングルジム。古いが、それでもこの辺の子どもは未だにここで遊ぶ。昼間は賑やかでも、日が沈んで暫くたった今では、入り口の電灯に蛾が一匹纏わりついているだけだった。

 近くにあったブランコに座り、ゆるりと前後に揺れてみる。足がどうにもついてしまって、成長したんだなと思った。


「で、どうしたんだ?」


 ブランコの前にある柵に腰かけて、喜成が問う。その声には心配という感情がのっていて、私の胸を締め付けた。言うのは今しかない。私は息を大きく吸い込んだ。


「あのね、……喜成は、島根さんと付き合うの?」


もう少し続きます。

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