表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
にぎにぎしい あき
46/51

35.でも

コメントとレビュー、ありがとうございました。

長い間放置していたのに、見てくださっている方々に感謝申し上げます。

「ちょっと聞いたぁ? リカが喜成くんとデートしたって!」


 賑やかな朝の時間。教室の話題はそれ一色だった。


「うっそ、マジ?」

「え~、ショックなんだけど!」

「今まで誰の誘いにも乗らなかったのに~!」


 いつも騒がしい女子のおしゃべりだが、今日の彼女たちの声はいつもよりワントーン高い。ショックと言いながら好奇心は抑えられないらしく、誰がどこで二人を見ただの、二人でお昼を食べてただの、私の耳の中にも情報が勝手に入ってくる。


「さすがよしくん、話題になる男だね」

「……そうだね」


 自分の席に座っていた私のもとへ、琴美が感心したような瞳で近づいてきた。そんな琴美の気持ちもわかる。共有したいのだ、気持ちを。だって喜成からはデートするという話しか聞いていない。いつ行ってきたともどうだったとも、ほんの一言もない。

 それもわかる。デートの話なんて、なにかあってもなくても、女子にはしない。だから喜成が私たちに話さないのもわかる。でも、今まで三人で幼馴染をやってきて、三人が三人とも時間を共有してきたのだ。突然それが崩れて、三人のことは自分たちが一番知っていると思ったのに、知らない情報が本人じゃなく周りから聞こえてくる。それは、余りにも心を不安定にさせた。

 でも、その不安定な気持ちを琴美と共有させるには、私の心は大人になりきれていなかった。

 だって、私は喜成が、喜成のことが。


「ごめん、私ちょっとトイレ行ってくる」

「いっちゃん?」


 琴美を置き去りにして、私は教室を飛び出した。喜成の教室とは反対方向へ進み、教室へ入ろうと歩いてくる人並を逆流し、階段を下りて。


「待って、いっちゃん」


 そして琴美に肩を掴まれた。


「は……、琴美、足速いね」

「これでもバスケ部のレギュラー張ってんの。舐めてもらっちゃ困るわ」


 はは、と切れた息を整えながら笑ったはずだった。けれど、口角は上がりきらず、喉は詰まって。

 涙が零れた。


「琴美、ことみぃ……」

「いっちゃん……」


 琴美は私を抱き寄せると、頭をぽんぽんと撫でてくれた。そしてそのまま、私の肩を押して隣の特別教室へと入ったのだった。

 大好きな琴美の手。私はこれに焦がれていたはずなのに。


「琴美、ごめん、ごめん……。わたし……喜成のこと、好きになっちゃった……」


 あんなに琴美を好きだったのに。あんなにドキドキしていたのに。

 涙が零れるまま預けた琴美の肩は、確かに女の子特有の丸みがある。胸だって私よりあって、誰よりも美人で、優しくて。なのに、もう琴美にドキドキしない。女の体になったときに、既に消えていた。私の「好き」とはそんなに軽いものだったのかという恐怖が、喜成を好きになった今私の中で大きく膨らむ。そしてそれと比例するように、喜成とそういった関係になれないことへの悲しみも。


「泣かないで、いっちゃん。いいの、謝らなくていいんだよ」


 琴美は宥めるように優しい声で、ゆっくりと私の背中を撫でながら話しだしてくれた。


「いっちゃんを振ったのは私だもん。私はいっちゃんと親友のままいることを望んだんだもん。それとも、喜成を好きになったいっちゃんは、もう私とは親友でいてくれないの?」

「……っ、そんなことない」

「でしょ? じゃあ、私に謝ることなんてないよ。いっちゃんは新しい恋を始めた。ただそれだけ」


 その言葉に、みっともなく泣くしかできない。


「あり、がと……」

「ううん。私はいっちゃんの味方だよ」

「で、も、男同士、だよ? 気持ち悪く、ない?」


 やっぱり心の片隅で引っかかっていたことを恐る恐る尋ねると、琴美はなんだそんなこと、と笑った。


「ないない。性別を超えた恋愛なんて、この世の中たくさんあるって。第一、いっちゃんは今女なんだし、気にすることなんてこれっぽっちもないから!」

「でも……、喜成はそう思ってない……。きっと、喜成は琴美のこと好きだし……」


 文化祭のあとの喜成の一言が、脳内で点滅する。


「へ!? よしくんが? 私を? 好き?? なんで!?」

「きっとそうだよ。喜成が気に掛ける女子なんて、今まで琴美しかいなかったもん」

「ないないない! 神様に賭けてもいい。それは絶対にない!」

「そこまで……? 琴美も実は喜成が好きなんじゃないの……?」

「ありえない!」


 琴美がここまで言うのだから、これは本当なのかもしれない。どうしてそう思うのかは、よくわからないのだけれど。


「けどさ、女の子の方が良いのは事実だよ……。島根さんとデートしたんだもん……」


 さっき聞こえてきたデートの情報が、頭の中をぐるぐる回る。やっぱり、本物の女の子の方が良いに決まってる。



「よしくんのバカアアア! いっちゃん! あんなモテ男が一回デートしたくらいで何よ! どうせあのヘタレのことだから相手の勢いに負けただけだって!」

「ヘタレって……、喜成が?」

「そうだよ! 喜成がヘタレじゃなくて何がヘタレって言うくらいドヘタレだよ!」


 今までそんな風に思ったことがなかったから、琴美のその評価にぽかんとするしかない。


「よしくんが何を思ってデートしたのかは後でちゃんと確認しよ!」

「えええ」

「いっちゃん、私に告白してきたときの度胸はどうしたの!? 今は落ち込んでるから小さくなってるだけ。絶対にいっちゃんの中には度胸があるんだからね。それは忘れないで」


 真摯な瞳に、背中が押される。


「……うん、ありがとう」

「どういたしまして」


 そういって笑った琴美の顔は、やっぱり世界で一番美しいと、思った。



シリアスつらい。ギャグにはやく戻ろう、樹。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ