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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
にぎにぎしい あき
36/51

26.うそかまことか

超☆展☆開

『きれいだ』


 花火大会の日のあの言葉のせいで、私は夏休みが明けた未だにドッキドキして喜成と顔を合わせづらくて、でも顔を合わせなきゃで、グルグルしてたら時間が経ってていつの間にか下校時間。


「はっ、私いつの間に電車乗ってたの!?」


 気づいたのは家の最寄り駅で、定期をかざした瞬間だった。


「……樹、大丈夫か?」


 心配そうに覗き込んできた喜成の目を見てドキリとする。どうしても、あの優しい瞳を思い出してしまう。

 私はおかしい。喜成はいつだって優しく“(わたし)”を見ていた。今まではなんてことなかったのに。なのに、どうして今は普通にいられないの。どうして顔が熱くなるの。

 私は「大丈夫」としか答えられなくて、結局最後まで黙ったままだった。別れるとき、喜成が無言で頭をくしゃくしゃと撫でてくれたのに泣きそうになった。




 結局あれからどうにも喜成と顔を合わせづらく、部活以外で声を聞くこともなかった。登下校中は、琴美を待って、二人でばかり話している。喜成が口を開くことはほとんどない。


「いっちゃん、よしくんと何かあったでしょ」

「へ?」


 今日は琴美と二人で、ショッピングモールに買い物に来ていた。休憩するために寄ったフードコートで発せられた突然の問いに、私は間抜けな顔を晒すしかない。


「絶対何かあったよね」

「な、なんで」

「だって、ねえいっちゃん。何日間、よしくんと喋ってない?」

「……部活では話すよ」

「ほら見なさい。つまり部活以外では話さないってことでしょうが。しかもそれ、どう考えても業務連絡でしょ」

「う……」


 図星の意見に、私は唸るしかできない。


「ねえ、何があったの?」


 何があったと聞かれても、何もないとしか言いようがないのだ。ただ優しい目できれいと言われただけで、そんなのお世辞に決まっていて、なのにそれにドキドキしている私が馬鹿なのだ。


「あ、もしかして好きだって言われたとか?」

「へ!? え!?」

「あ、図星? 人が見ていない隙に、あいつめ……。ついに本性出しやがったか……」

「ついにって何!? そそそそんなこと言われてないよ! ただ……!」


 ビックリしすぎて口を滑らせてしまった。琴美が目を光らせて、こちらに身を乗り出す。


「ただ、なに?」


 私は渋々、花火大会の日のことを話した。

 きれいと言われたこと。優しい目だったこと。ドキドキしてしまったこと。言っていて恥ずかしい。


「うわあん、それもこれも女になったのがいけないんだ! 女になってなかったら、喜成の言葉にときめいたりするもんかあああ!」


 そもそも男のままなら、ときめくような言葉をかけられることもなかっただろう。そう考えると、大事な親友との関係がギクシャクしてしまったのも相まって、久しぶりに女になったことに怒りを覚えた。


「こうなったら、どうしてこんな体になったか、是が非でも調べてやる……!」




 家に帰った私は、居間にある家族共用のパソコンを起動した。どうして今まで調べることをしなかったのだろう。……まあ、超常現象すぎてそこまで頭回んなかったっていうのが正解なんだけど。

 起動してすぐサーチエンジンを開き、思いつく単語を入れてはエンターキーを押す。その作業をすること暫し。


「ちーがーうーのー……」


 私は手術で性転換したいわけでも、女装をしたいわけでも、ライトノベルを読みたいわけでもないのー!

 思ったとおりというかなんというか、やはり確信に触れるようなものは出てこない。


「キーワードを変えないとだめか……」


 髪の毛に手を突っ込んで、頭を回転させる。「女になる」ことで一つだけ思い当たる節があった。それは女に変わった日の前夜。私は「女だったら」とずっと考えていた。ひいては「女になりたい」と願った(・・・)ことになるのではないか。

 私は「願い事」と入力して少し考えた。これだけでは幅が広すぎる。あれこれ悩んでいたのは深夜だったから「深夜」、そしてそれが叶って女になっているのだから「叶う」というのも入力して検索してみる。


「うわあ」


 大量な検索結果が出たが、それを慎重に上から下まで見ていく。色々ある中で目を引いたのは、おまじないやら魔術やらの言葉だった。見出しの言葉には、おまじないのやり方なんかがちらりと見える。

 もしかしたら、知らないうちに何かの儀式を行っていたのかもしれない。儀式関係を見ると、「〇〇神社の××の下で~」とか、「△△県では~」などと書かれているから、地域も関係するのかもしれないと踏んで、キーワードに地名を入れてみた。


「あ、これかも……」


 検索してヒットしたのは、「〇〇県の民俗学」というタイトルの、ちょっとポップなホームページだった。どうやら県内にある大学の学生が作成したものらしい。見てみると、県内各市町村別にフォルダがあってそこから探すようだ。滑りそうになる目でじっくり見ていくと、ようやくここの地名を見つけることができた。

 いくつかある項目、その最後に気になるものを見つけた。


『お星地蔵』


 うちの近所にある、地蔵の名前だ。



『歴史は古く、いつから信仰されていたかは定かではない。もともと土着信仰であり、神仏習合のときに地蔵が据えられたと考えられる。市史等を確認したところによると、百年ほど前まではお星地蔵を祀った祭りもあった。それに関して、おまじないも残っていたのでここに記録しておく。』


 おまじない。その言葉に心臓が跳ねて、続きに目を向ける。


『地蔵を真ん中にして、正三角形もしくは正六角形を作るように、三人または六人で位置をとる。丑の刻に全員同時に同じことを願うと叶う。』


 それだけ。確かに「おまじない」だ。現代科学で実証されない、ありえないと鼻で笑われてで終わってしまうような、おまじない。それなのに、私は嫌な予感がしてならなかった。

 すぐにネット上で地図を出す。


「えっと、地蔵がここ、私の家がここ。私の家を頂点にして、正三角形だと……、ここと、ここ」


 私は呆然と画面を見つめるしかできない。


「あは、あはは……、嘘でしょ。嘘って言ってよ……」


 そこは、琴美と喜成の家だった。

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