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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
35/51

25.はなびみたいなしんぞう

 屋台はどこもかしこも明るく、賑やかだった。イカ焼きやお好み焼きの香ばしい匂いが一面に広がっている。それに簡単に釣られるのは、この暑さと祭りならではの高揚のせいだろう。

 大量の食料を手に入れた私たちは、次なる問題に直面していた。


「さて、どこに座って見る?」


 小国先輩が振り返る。屋台から少し外れたところを見回すと、辺は人、人、人。いたるところにビニールシートが敷かれ、缶ビールを片手に酔っ払っているおじさんや、興奮してはしゃいでいる子供たちがいっぱいいた。


「座るところあるかな……?」

「琴美がお願いすりゃ、誰でも場所譲ってくれるんじゃね?」


 私が呆然と呟いた言葉に対して、正悟先輩がなんとも無責任な提案をした。にっこり笑った琴美が怖い。


「心配するな」


 そんな中、兄ちゃんが堂々と胸を張る。


「なに、健ってば穴場でも知ってんの?」

「そんなものは知らないが、場所は取ってある」

「は? いつの間に」


 私だってビックリだ。兄ちゃんたらいつの間にそんなことしてくれてたんだろう。全員に疑問の目を向けられて、兄ちゃんは首を横に振った。


「俺がしたわけじゃないけどな。……笹木」

「はぁい! 呼ばれて飛び出て笹木です!」


 ビクッ!

 呼ばれた瞬間に音もなく突然現れた笹木先輩に対して、その場にいた兄ちゃん以外みんなが驚愕の表情になった。心臓止まるかと思った……。


「場所は?」

「あちらにしっかりとご用意させていただいておりますとも~。ついてきてくださいね~」


 ガイドさんよろしく片手を上げて移動する笹木先輩に、兄ちゃんは何も言わずについていく。


「なあ。俺、前から不思議だったんだけど……、笹木ってなんなの?」

「さあ……。 俺も高校からしか知らねえし。健のファンって変な奴ばっかだよな」

「おい、幼馴染だろ。なんとかしてやれよ」

「無理」


 こそこそと話す正悟先輩と小国先輩。ああ、やっぱり三年生でも笹木先輩は不思議な人なんだな。


 二人について行った先には、ビニールシートで十分なスペースが確保されていた。二人の女子がシートに座っていたが、笹木先輩の姿を見るなりすぐに立ち上がってシートからどけた。


「「おかえりなさいませ、隊長」」

「ご苦労」


 わあ、笹木先輩って隊長なんですね。……何の?


「それでは皆さん、ここを使ってくださいね~」


 では、我々はこれで。そう言って三人は、止める間もなく人ごみに消えてしまった。


「あ……一緒に見ていけば良いのに……。お礼も言ってないし……」


 そう言ったら、なぜか琴美に抱きつかれて「もう、いっちゃんてば優しい~! 可愛い~!」と褒められた。何故だ。だが嬉しいので良しとする。その後ろで、兄ちゃんたちは渋い顔だ。


「樹、心配するな。あいつらは会場のどこかにいるし、これは好きでやってるんだ。呼べばすぐに来るしな。お礼は後からでも十分だ」

「そ、そう」


 りんご飴にかじりついて暫くして、花火が始まった。オーソドックスな大輪が、夜空に花開いては消えていく。あちこちから歓声が聞こえる。金色の柳みたいな花火、咲き始めの朝顔みたいな青い花火。次第に打ち上げる数が増して、息つく暇もないようだ。


「花火きれいね!」


 右隣に座った琴美が、大きな声を出した。花火の音が大きくて、それでも少しかすれて聞こえる。私はそれに頷きで返した。琴美も私も満面の笑みだ。

 パチパチ弾ける花火が、夜空を照らす。それだけではなく、私たちの顔も赤青白と、仄かに照らし出されていた。


「きれいだな」


 今度は左隣に座った喜成が話しかけてきた。それは琴美と違って、耳に唇を近づけて囁かれたものだから、そのくすぐったさに思わず肩を竦めた。顔を向けると、優しく微笑んだ喜成がこちらを見ていた。その瞳にドキリとしながら、「ね、見に来て良かったね」と返す。


「そうじゃなくて」


 また喜成が耳に唇を近づける。


「花火もきれいだけど、樹の浴衣姿……とってもきれいだ。いつも可愛いけど、浴衣もいいな」

「なっ……!」


 優しい瞳は、春のように暖かく私を見つめたままで。

 熱くなった顔はきっと耳まで赤い。赤い花火が上がって、目の前の喜成の顔が赤く見えた。このあともずっと赤い花火が上がれば良い。そうすれば、顔が赤いのもばれることはない。

 震えそうになる唇をぎゅっと閉じて、空に弾ける花火を見上げた。いつの間にか始まった百連発の花火の打ち上げ音と同じくらい、心臓が強く打っていた。

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