23.よ~ろれいひ~
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前回投稿から時間が開いてしまい、申し訳ありません。
今後も亀更新かと思いますが、ゆったりと待ち構えていただけますと幸いです。
今日はサッカー部の打ち上げで、焼き肉食べ放題に来ています。
「カルビ来たぞー!」
「カルビー!」
「ちょっとタン塩どこよ」
「焼けた? 焼けた!?」
「ちょ、そこ野菜焦げてる!」
…さながら戦場だなあ。
かなり盛り上がっている皆を見ながら、一歩下がったテンションでお肉を食べる。いやいや、私がローテンションってわけじゃないよ? 皆が超ハイテンションなだけで。あ、ロースうまい。
しかし、皆楽しそうで良かった。
最後の試合は、今でも瞼の裏に焼きついている。
呆然とグラウンドを見る人、男泣きの嗚咽、ワントーン暗く感じた景色。
忘れられないし、忘れてはいけないんだとも思う。この感情を胸に刻みつけて、人間は成長するのだろうから。
でも、悲しみに後ろを向いていばかりじゃ駄目で。
だから悲しみは悲しみで置いておいて、今を楽しんでる皆を見て安心したのだ。
「樹ちゃん梨佳ちゃん、ちゃんと食べてる!?」
「ほらー、お前たちがガツガツ食うから、樹ちゃんと梨佳ちゃんが食えてねーだろ!?」
「「さーせん!!」」
「いえ、ちゃんと食べてますから! 大丈夫ですから! そんなに食べられませんからああ!!」
取り皿に山のように積まれた肉に、私たちは青くなる。そんなに食べられませんからああああ!!
「明日からダイエットね……」
「ちょ、島根さん!? 覚悟決めないでえええ!!」
もう入らないって言う位までお肉を詰め込んだ私たち。もう駄目、動けない。
でも男どもはさすが成長期というか、そこまでだれていない。どころか、栄養を吸収して、さらに元気になっている。わ、私だって、男のままだったら同じように食べれたんだからね! そして身長だって伸びていたんだからね!
「よっし、お前らー、しっかり食ったな!?」
「「ウッス」」
立ち上った海斗先輩が声を発し、皆は私語をやめて先輩を見た。先輩は笑顔だったが、その顔はどこか寂しげで、この楽しい時間と、楽しかった今までの部活動の終焉を、嫌でも感じさせる。
「名残惜しいが、俺たち三年は今日で引退だ! 喜べ後輩ども!!」
そう言う海斗先輩に、一年二年の皆から「喜べないッスよ!」と声が上がる。三年生からは笑い声が上がった。
「二年半という短い間だったが、楽しい事も辛い事も、山ほどあった。部長なんて役柄になって、それでもここまでやってこれたのは、皆がいたからだ。ありがとう」
馬鹿騒ぎが嘘みたいに、場が静まる。先輩に励まされたことを思い出して、鼻の奥がツンとした。
「今年は、俺らが入部してから一番の成績だった! 皆の頑張りと、俺らのチームワークが良かったからだと俺は思う! 念願のマネージャーも入ったんだし、お前ら! 次の試合は、更に上位に食い込め! でないと許さん!!」
「「ハイッ!!」」
部員が一丸となった返事に、体が痺れる。零れそうになった涙を、皆に気付かれない様に拭った。
「樹~、アンタちょっと泣いてたでしょ?」
「うえっ、見てたの!?」
焼き肉屋の駐車場で、皆はまだ別れを惜しむように屯っている。そんな中近づいてきた島根さんが、ニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
「あのタイミングで目元に手ぇやったら、泣いてますって宣言してるようなもんでしょ」
「うっ……。だって悲しくて……」
気付かれていたとは思わなくて、恥ずかしい。なんか女になってから、泣きやすくなったような気がするんだよね。映画見て涙が零れたときはちょっと慌てたよ。
「はいはい、で、どの先輩が好きなの? 告るなら今よ」
「だーかーらー、違うのー!」
あはははと笑う島根さんは、私の背中を軽く叩いた。どうやら励ましてくれたようで、私の顔にも笑顔が戻る。それを見て、島根さんは「挨拶回り行ってくるわー」と先輩たちのもとへ駆け寄っていった。先輩は引退するけれど、私たちの部活はこれからも続くんだ。そして、そこには数は減っても仲間がいる。そう考えたら、寂しくてもまだまだ頑張れると思えた。
「樹ちゃん」
「海斗先輩……」
ぼんやりと皆を眺める私に、海斗先輩が声を掛けてきた。なんだか、照れくさそうな顔をしている。
「たった半年だったけど、樹ちゃんにはすごく世話になった。ありがとな」
「そんな。私の方こそ励まされて……」
ヤバい。やっぱり泣きそうだ。
「先輩がもう引退だなんて、寂しいです……」
「樹ちゃん……」
ポンポン、と俯いた頭を優しく撫でられた。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。引退って言っても、受験勉強に疲れたら息抜きにシゴキに来るさ」
「ふふ、先輩ったら」
涙をこらえて、口の端に笑みを作る。優しく微笑んだ先輩の顔を見て、元男の意地にかけても、涙は零すまいと静かに息を吸った。
「でも、受験生かあ」
「先生は、夏休みは無い! なんて言ってた。折角の休みなのに、そりゃないよなあ」
高校受験で青くなっていたのが、ついこの間のような気がする。きっと、大学受験もすぐ来るのだろう。折角の夏休み、と言ってはいるが、真面目な海斗先輩のことだから、夏期講習も真面目に出席するのだろうと思う。
「なあ樹ちゃん。良かったら―――」
「……? なんです?」
言葉を途中で止めてしまった先輩に、その続きを尋ねる。今度は、先輩は言葉を繋げてくれた。
「その、良かったら、は、花火大会に一緒に行かないか!?」
「八月第三土曜の、河原のですか?」
確認する私に、海斗先輩はそれそれと肯く。その花火大会というのは、県内で一番規模が大きく、学校からほど近い河原が会場となっている。屋台も出て、その日は一帯がお祭りモードで賑やかだ。毎年、兄ちゃんや喜成、琴美と見に行っている。
「あ、無理なら全然構わないんだけど」
「いえ、大丈夫だと思います」
「ほ、ほんと!? やったー、俺その予定があったら、勉強頑張れるよ!」
「大袈裟ですよ」
盛大に喜ぶ先輩に、ちょっと笑ってしまう。
部活は引退しても、先輩はまだいるんだ。ちょっとだけ、寂しさが和らいだ気がした。
「なーに話してるのよお、海斗くうん!」
「樹ちゃんを一人占めなんて、許さないわよーう!」
「ギャー、お前ら、のしかかんな! 熱い! 重い!!」
「あははは!」
「樹ちゃーん!? 笑ってないで、助けてええええ!!」
海斗がでえとのお誘いに成功した模様。
だがしかし、甘い展開が待ち受けているわけが無いじゃないですかー。