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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
33/51

23.よ~ろれいひ~

拍手とコメント、そしてお気に入り登録をしていただき、ありがとうございます。励みとなっております。

前回投稿から時間が開いてしまい、申し訳ありません。

今後も亀更新かと思いますが、ゆったりと待ち構えていただけますと幸いです。

 今日はサッカー部の打ち上げで、焼き肉食べ放題に来ています。



「カルビ来たぞー!」

「カルビー!」

「ちょっとタン塩どこよ」

「焼けた? 焼けた!?」

「ちょ、そこ野菜焦げてる!」


 …さながら戦場だなあ。

 かなり盛り上がっている皆を見ながら、一歩下がったテンションでお肉を食べる。いやいや、私がローテンションってわけじゃないよ? 皆が超ハイテンションなだけで。あ、ロースうまい。

 しかし、皆楽しそうで良かった。


 最後の試合は、今でも瞼の裏に焼きついている。

 呆然とグラウンドを見る人、男泣きの嗚咽、ワントーン暗く感じた景色。

 忘れられないし、忘れてはいけないんだとも思う。この感情を胸に刻みつけて、人間は成長するのだろうから。


 でも、悲しみに後ろを向いていばかりじゃ駄目で。

 だから悲しみは悲しみで置いておいて、今を楽しんでる皆を見て安心したのだ。


「樹ちゃん梨佳ちゃん、ちゃんと食べてる!?」

「ほらー、お前たちがガツガツ食うから、樹ちゃんと梨佳ちゃんが食えてねーだろ!?」

「「さーせん!!」」

「いえ、ちゃんと食べてますから! 大丈夫ですから! そんなに食べられませんからああ!!」


 取り皿に山のように積まれた肉に、私たちは青くなる。そんなに食べられませんからああああ!!


「明日からダイエットね……」

「ちょ、島根さん!? 覚悟決めないでえええ!!」




 もう入らないって言う位までお肉を詰め込んだ私たち。もう駄目、動けない。

 でも男どもはさすが成長期というか、そこまでだれていない。どころか、栄養を吸収して、さらに元気になっている。わ、私だって、男のままだったら同じように食べれたんだからね! そして身長だって伸びていたんだからね!


「よっし、お前らー、しっかり食ったな!?」

「「ウッス」」


 立ち上った海斗先輩が声を発し、皆は私語をやめて先輩を見た。先輩は笑顔だったが、その顔はどこか寂しげで、この楽しい時間と、楽しかった今までの部活動の終焉を、嫌でも感じさせる。


「名残惜しいが、俺たち三年は今日で引退だ! 喜べ後輩ども!!」


 そう言う海斗先輩に、一年二年の皆から「喜べないッスよ!」と声が上がる。三年生からは笑い声が上がった。


「二年半という短い間だったが、楽しい事も辛い事も、山ほどあった。部長なんて役柄になって、それでもここまでやってこれたのは、皆がいたからだ。ありがとう」


 馬鹿騒ぎが嘘みたいに、場が静まる。先輩に励まされたことを思い出して、鼻の奥がツンとした。


「今年は、俺らが入部してから一番の成績だった! 皆の頑張りと、俺らのチームワークが良かったからだと俺は思う! 念願のマネージャーも入ったんだし、お前ら! 次の試合は、更に上位に食い込め! でないと許さん!!」


「「ハイッ!!」」


 部員が一丸となった返事に、体が痺れる。零れそうになった涙を、皆に気付かれない様に拭った。




「樹~、アンタちょっと泣いてたでしょ?」

「うえっ、見てたの!?」


 焼き肉屋の駐車場で、皆はまだ別れを惜しむように屯っている。そんな中近づいてきた島根さんが、ニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。


「あのタイミングで目元に手ぇやったら、泣いてますって宣言してるようなもんでしょ」

「うっ……。だって悲しくて……」


 気付かれていたとは思わなくて、恥ずかしい。なんか女になってから、泣きやすくなったような気がするんだよね。映画見て涙が零れたときはちょっと慌てたよ。


「はいはい、で、どの先輩が好きなの? 告るなら今よ」

「だーかーらー、違うのー!」


 あはははと笑う島根さんは、私の背中を軽く叩いた。どうやら励ましてくれたようで、私の顔にも笑顔が戻る。それを見て、島根さんは「挨拶回り行ってくるわー」と先輩たちのもとへ駆け寄っていった。先輩は引退するけれど、私たちの部活はこれからも続くんだ。そして、そこには数は減っても仲間がいる。そう考えたら、寂しくてもまだまだ頑張れると思えた。


「樹ちゃん」

「海斗先輩……」


 ぼんやりと皆を眺める私に、海斗先輩が声を掛けてきた。なんだか、照れくさそうな顔をしている。


「たった半年だったけど、樹ちゃんにはすごく世話になった。ありがとな」

「そんな。私の方こそ励まされて……」


 ヤバい。やっぱり泣きそうだ。


「先輩がもう引退だなんて、寂しいです……」

「樹ちゃん……」


 ポンポン、と俯いた頭を優しく撫でられた。


「そう言ってもらえて嬉しいよ。引退って言っても、受験勉強に疲れたら息抜きにシゴキに来るさ」

「ふふ、先輩ったら」


 涙をこらえて、口の端に笑みを作る。優しく微笑んだ先輩の顔を見て、元男の意地にかけても、涙は零すまいと静かに息を吸った。


「でも、受験生かあ」

「先生は、夏休みは無い! なんて言ってた。折角の休みなのに、そりゃないよなあ」


 高校受験で青くなっていたのが、ついこの間のような気がする。きっと、大学受験もすぐ来るのだろう。折角の夏休み、と言ってはいるが、真面目な海斗先輩のことだから、夏期講習も真面目に出席するのだろうと思う。


「なあ樹ちゃん。良かったら―――」

「……? なんです?」


 言葉を途中で止めてしまった先輩に、その続きを尋ねる。今度は、先輩は言葉を繋げてくれた。


「その、良かったら、は、花火大会に一緒に行かないか!?」

「八月第三土曜の、河原のですか?」


 確認する私に、海斗先輩はそれそれと肯く。その花火大会というのは、県内で一番規模が大きく、学校からほど近い河原が会場となっている。屋台も出て、その日は一帯がお祭りモードで賑やかだ。毎年、兄ちゃんや喜成、琴美と見に行っている。


「あ、無理なら全然構わないんだけど」

「いえ、大丈夫だと思います」

「ほ、ほんと!? やったー、俺その予定があったら、勉強頑張れるよ!」

「大袈裟ですよ」


 盛大に喜ぶ先輩に、ちょっと笑ってしまう。

 部活は引退しても、先輩はまだいるんだ。ちょっとだけ、寂しさが和らいだ気がした。


「なーに話してるのよお、海斗くうん!」

「樹ちゃんを一人占めなんて、許さないわよーう!」

「ギャー、お前ら、のしかかんな! 熱い! 重い!!」

「あははは!」

「樹ちゃーん!? 笑ってないで、助けてええええ!!」



海斗がでえとのお誘いに成功した模様。

だがしかし、甘い展開が待ち受けているわけが無いじゃないですかー。

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