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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
32/51

22.なつのたいかい

※作者はサッカーをやったことがないため、描写がほとんどありません!ごめんなさい!

で、でも、これはサッカーが主題じゃないから…(震え声)

 捻挫をしてから一週間とちょっと。

 いやー、最初の頃はみんなが助けてくれて、本当にありがたかったよ。移動教室とか、部活とかね。

 マネージャーの仕事は殆ど島根さんがやってくれました。



「大した仕事無いんだから任せときな!」


 なんて島根さんは言って、私には座ってできることばっかり回してくれた。いやいや、一人でやったら作業の往復だけでも大変だろうに。

 申し訳なくて情けない顔になった私に、島根さんはじゃあこれ、と一冊のノートを渡してきた。


「なに、これ?」


「サッカー部の出納帳」


「見つかったの!?」


 驚く私に、島根さんは険しい顔でコクン、と肯いた。

 …えー、我が部には前年度までマネージャーがいませんでしたね。だから部費の管理は部員でやってたそうなんだけど、まー、そういう事務作業が好き! っていう人がいなかったらしく。引き継ぎしたものの、ノートを紛失しちゃって、私たちの手元に今まで無かったんですよ。

 今年度入ってからの請求書等々、必要な物は全て別に保管してある。


「畑先輩が、昨日持ってきた。と、言うわけで、丁度良いからこれ書いてよ」


「ラジャっす……」



 とまあ、そんな事務作業をしたりなんだりで、すっかり足は良くなりまして。

 なんと時が経つのは早いと言いますか、明日から夏の大会が始まります。



「お前らァ! 良いか、明日は大事な初戦だ! 今まで付けてきた力を出し切って勝つぞ!!」


「「オオオオォッッ!!」」


 日の暮れたグラウンドで、喝を入れる部員たち。その熱気とか力とか、端で聞いててビリビリくるくらい凄い。

 とうとう始まるんだって実感して、この前まで寂しかったっていうのに、今はもの凄いドキドキしている。選手でもないのに、空気に当てられるってこういうことなのかな。

 明日は現地集合だから、私と島根さんは必要な物をバッグに入れてお持ち帰り。試合に出ない一年生何人かにもちょっと手分けしてもらいましたが。やっちゃうと困るから、何度も二人で忘れ物が無いかチェックした。元バスケ部で試合慣れしてる筈の島根さんも、なんだか緊張してるみたいだ。


「あ、樹ちゃん!」


「はい?」


 さて帰るかと思ったところで、小国先輩に声を掛けられた。さっき部員の士気上げをしていたからか、若干まだ顔が強張っている。


「あ、あのさ、明日から地区予選なわけなんだが」


「はい」


「その地区予選を勝ち抜いたら……」


 小国先輩は、そこまで言って下を向いてしまった。勝ち抜いたら、なんだろう?


「先輩?」


「―――いや、なんでもない。とにかく、頑張るから応援よろしくな!!」


「はい! 任せといてください!」


 そう言って小国先輩は帰って行った。「死亡フラグだよな……」と聞こえた気がするが、なんだったのだろう。




「はぁ、なんだか私も緊張する……」


 帰り途、とうとう私は喜成にそう零してしまった。

 もうすぐ家に着く、住宅街。街灯はポツポツとしか無く、コンビニも無いため大通りと比較すると随分暗い。その雰囲気がいつも黙っていられなくさせるが、今日はそれだけじゃなく、興奮と夏場の熱気が胸のあたりを締めつけて、口を開かせた。


「気にしないで、笑顔で応援してくれ。その方が先輩も勝てる」


 そう言う喜成は、全然緊張しているようには見えない。明日は控えだから、というのもあるかもしれないが、私だったら控えでも心臓がバクバクするに違いなかった。これが心臓の強度の差か。


「あー、でもなんか、樹がサッカー部のマネになってくれて嬉しいわ」


「え?」


「いや、今までだと樹は楽器担いで野球部の応援だったろ? 随分勝ち進まないと、俺が試合出ても樹が応援に来てくれることって無かったからさ」


 たしかに、喜成の言うとおりである。吹奏楽部の定めと言おうか、まずは野球部の応援。で、兄ちゃんたちと琴美、そして喜成の応援は後回しだった。特に中学までは琴美のことが好きだったから、琴美の応援に行きがちだったし……。


「あの時はハングリー精神って言うかさ、『樹に応援に来てもらうために勝つ』って思ってたけど、これからは俺が樹に優先的に応援してもらえるだろ? 逆に最初から全力でいけるな。まあ、明日は出番無いだろうが」


「なっなっなっ……」


 なんという恥ずかしいことをさらりと言うんだ、あんたはああああ!!?

 なんか余計に心臓に負荷がかかった……。


「お、大袈裟な……」


 漸く口に出来たのは、そんな言葉だった。赤くなっている私を、喜成は優しい笑顔で見るものだから余計に恥ずかしい。やめて欲しい。





 試合当日。アップしている部員とは別に、マネージャーの私たちはドリンク作成中。クーラーボックスに詰めた氷が、すでに熱くなった空気の中で弱々しい冷気を放ってくれる。溶けては困ると、すぐに蓋をした。


「何て言うか、サッカー部の応援って、こんなに人が来ないものなの?」


「あー、吹部の何割かは野球部優先だろうしねえ」


 そろそろ試合が始まるのだが、うちの学校の制服を着た生徒は、そんなにいない。吹奏楽部時代のことを、ふと思い出した。応援で使った曲は、楽譜を見ないで吹ける。ノリも良いし好きだ。

 中学時代、野球部が一回戦敗退したとき、ちょうどすぐサッカー部の試合があったから急いで会場に向かったことがあった。あの時は河川敷の芝なんて無い場所で、もちろん観客席も無く、楽器にボールが当たると困るからと楽器を出せなかった。それでも、あのとき、喜成は応援ありがとうって凄い喜んでくれたっけ。

 って、うわああああ! なんか昨日の思い出しちゃったよおおお!

 なんだ!? 私イケメン耐性下がった!?


「外でやる競技ってもっと応援いると思ってた」


 一人、内心であたふたしていたら、島根さんがぽつりと言った言葉が引き戻してくれた。ありがとう。

 たしかに、室内競技は応援席が狭いから、数が限られるだろう。元バスケ部らしい発言である。


「昨日聞いたんだけど、書道部と茶道部は、剣道部と弓道部の応援に分かれるらしいよ」


「え、なんで?」


「剣道部と弓道部って、書道か茶道か、どちらか兼部なんだって。だからその(よしみ)で」


 心を鍛えるためとかなんとか。恵美子さんが書道部で、昨日どこの応援に行くのかと聞いたらそんな話をしてくれた。本人は、彼氏の野球の応援に行きたいようだったけど。


「あー、兼部の話は聞いたことがある。なるほどね。文化部の花形持ってかれたら、確かに応援も少なくなるわ。あとは、男子バスケ部の応援かなー?」


「ああ…、それはあるね、確かに」


 応援席にぎゅうぎゅう詰めの女子の大群が、目に浮かぶ……。



 試合は三十五分ハーフの七十分。スコアを取りながら、声を張り上げる。炎天下の中、先輩たちはコートを行ったり来たりでぶっ倒れるんじゃないかとヒヤヒヤだ。

 後ろでは、私たちが作ったポンポンを持って、生徒が応援している。うーん、やっぱり男子が多いような……。


「樹、アンタも小まめに水分取りなさいよ。顔赤い」


「うひゃ! あ、ありがと」


 隣に置いていた凍らせたペットボトル飲料を、ヒタっと腕に付けられてびっくりした。氷は半分溶けていて、冷たい液体が体を内側から冷やしてくれた。




「よーし! 前半で1-0、俺たちがリードしてる。5番が予想より随分動きまわるから、注意しとけ」


「うす!!」


 休憩で、どばどばドリンクを飲みながら皆が前半を踏まえた試合形成を話し合っている。

 こういう臨機応変なのが、逞しいなあと思ったりして。


「マネージャー! ちょっと、一言応援くれ!」


「え!?」


 突然掛けられたお願いに、一瞬驚く。島根さんは慌てもせずに、「このままこっちのペースで行きますよ!」と、とびっきりの笑顔で応えていた。プロだ。

 次はアンタよ、と言わんばかりに目を向けられて、頭が真っ白になってしまった。そして付いて出たのがこれ。


「西高が勝ちます!!」


「え、何それ、予言?」


 島根さんの突っ込みに、部員のほとんどが笑った。うう…、笑ってくれてありがとうございますう…。


「よし、梨佳ちゃんの笑顔と樹ちゃんの予言で、俺たちに怖いものは無い! 行くぞ!」


「「おう!!」」


 そう叫んで、皆は疲れを忘れたかのようにコートに出て行った。

 ずっと思ってたけど、凄いタフだ……。





 そして、初戦を勝利で納めたうちの学校は、二回戦三回戦と勝ち進み―――


 四回戦で敗退しました。




仕掛けそびれた小国先輩。なんか仕掛けてきた喜成。


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