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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
26/51

20.あしもとちゅうい

「次は正悟の試合だー! 集まれ乙女どもー!!」


 兄ちゃんの試合が終わった後、審判をしていた体育委員がマイク片手に変なアナウンスをした。もしかして、兄ちゃんの試合前にもこんなのが流れたのだろうか。

 キャーキャー五月蝿いギャラリーも何のその、兄ちゃんのクラスメイトは正悟先輩のクラスメイトに応援場所を明け渡していた。私も琴美と共に撤退しようとしたところで、汗をかいた兄ちゃんと正悟先輩に捕まった。


「樹の応援のお陰で勝てたよ」


「いや、私だけじゃないからね、応援してたの」


 ファンの女の子たちが聞いたら、泣きそうだ。


「樹、俺のことも応援してくれるって言ったよな?」


 そう言って私の肩を掴んだのは正悟先輩だ。また頭を振られては敵わない。私は即座に肯いた。


「はいはいわかってますよ。ちゃんと応援します。兄ちゃん倒す勢いで頑張ってください」


「おう!」


「えー……」


 良い笑顔の正悟先輩と、微妙な顔の兄ちゃん。

 だって、私には二人に優劣はつけられないもん。


「あ、あとさ、ちょーっとお願い聞いてくんない?」


「はい?」


 バチン、とウインクをした正悟先輩に、不安が隠せない。



 …曰く。


「しょ、しょう兄ちゃん、頑張って」


 うう、なにこれ拷問だよお……。

 正悟先輩のお願いは、呼び方を変えることだった。ファンの方々から、殺気のこもった視線を投げ掛けられている気がする。て言うか、絶対投げ掛けてるよね皆さん。

 とは言え馴染み深い呼び名だったから、試合が白熱するに従って応援にも熱が入り、気付けば普通に呼んでいた。正悟先輩も私のお陰とかなんとか言ってたけど、応援してくれた大勢の女の子全般に対してお礼と笑顔を振り撒いていたから、その辺は兄ちゃんより高評価ですよ。まあ、一般人なのにアイドルみたい、とは思わなくも無い。


 そろそろ自分達の試合が始まる時刻だったので、戻る道すがら、テニスコートを使って行われていたドッジボールの試合にも顔を出してきた。女子の方がまだ勝ち残っているようで、互いに応援しあった。そこで小国先輩に会ったので応援したのだけど、なぜか手を握るように包まれてすごく感謝された。そこまで感謝されるようなことはしていないから、不思議で仕方ない。顔が赤かったので、熱中症に気を付けてくださいねとも言っておいた。

 あ、島根さんは他のクラスメートとともにかなり燃えていました。


「アンタんとこのクラスにも負けないわよ!」


 みんな頑張って、と心の中で追加応援しておいた。



 ■ ■ ■



 体育館に戻って暫くすると、私たちの順番が回ってきた。予定より時間がずれ込んでいて、審判役の体育委員が何度も急いで、と言っている。そんなのを背中で聞きながら、私たちはコートの中で円陣を組んで声を出し、気合いを入れた。これくらいのタイムロスは許してください。

 ポジションについて試合開始の合図を今か今かと待つのだが、何故かホイッスルが鳴らない。なんかざわめいてるなあ、と思っていたら、琴美につつかれた。促されてギャラリーを見ると、そこには喜成と兄ちゃん、そして正悟先輩が揃い踏みしていた。


「うわ~……。」


「イケメンの見本市だね!」


 琴美の台詞に、思わず頷いてしまった。できれば奴らとの関係性を絶ってしまいたい。いや、応援に来てくれたのは嬉しいけど。


「樹、頑張れー!」


「琴美ー、バスケ部の根性に懸けても負けるんじゃねーぞ。」


「分かりましたから、先輩方どっか行ってくださーい。うちの子たち、緊張してガチガチですよー、もー。」


 そう言われて初めて気付いた。クラスメイトを見回すと、みんな正面を見たまま少しも動かない。マネキン?

 やっぱり慣れない人にとっては、奴らの影響力は強いのだろう。まだ試合も始まってないのに、みんな汗だくである。マネキンではなく、人間であることが証明された。相手方は三人に見とれているし、審判もだ。通りで試合が始まらないと思ったよ。


「兄ちゃん、しょう兄ちゃん、直ちに消えて!」


「えー! 樹の勇姿を見に来たのに!」


「じゃあ私たちから見えない所で観戦してて! そうじゃなきゃ、決勝の応援行かないからね!」


 最後の一言が効いたらしい。二人は渋々といった体でギャラリーから消えた。なぜか喜成も伴って。喜成は別に連れていかなくて良いのに……。


 試合結果? クラスメイトの動揺が抜けきらなかったのか、相手方に兄ちゃんたちのファンがいたのか、負けました。やっぱり私が集中攻撃を受けたんだけど、これってあの二人に関係しているのかな……。




 クラスメイトからの情報によると、うちのクラスは全滅したらしい。燃えている上級生がいる中で、二回戦まで進めただけでも良しとしますか。

 応援する競技も無くなったので、私と琴美は、隣でやっているバスケを見ることにした。体育館を中央からネットで区切り、バスケコートとバレーコートを作っているのだ。バスケの試合は、カウンターによると残り時間一分。点数も一対一と同点であり、皆が勝利を掴むべく走り回っている。男子がやると、どの競技も荒っぽいと言うか、力強いというか、とにかくパワーが溢れているなあと感じるのだが、どうだろうか。特に高校生も三年になると体が大きくて、中学までには無い熱気が溢れている気がする。もし男のままでここに放り出されたら、と考えるとちょっと怖い。


「あ、よしくんだ。先輩たちから解放されたの?」


「次試合だから、なんとか」


 どこか疲れたように見える喜成は、その口ぶりから察するに今まで兄ちゃんたちといたのだろう。自分で言っといてなんだが、どこに隠れていたのだろう。


「そっか、次試合かあ。喜成頑張って」


「よしくんダンクダンク!」


「スリーポイント!」


「無茶言うな!」


 琴美と茶化したけれど、喜成なら出来るんじゃないのかなー?

 と思ったらスリーポイント決めてくれました。なにこいつ。なんでもできるのか! いや、知ってたけど。やっぱりちょっと釈然としないね!

 でも、この試合は相手方もスリーポイント決めたりなんだりで、結局喜成のクラスは負けてしまいましたとさ。……相手三年生だったんだけどさ、三年生はどのクラスも気合い入ってない? なんだろう、受験勉強のストレス発散だろうか。


「お疲れ。汗だくだね!」


 戻ってきた喜成は、琴美の言うように汗だくだった。室内は蒸すから私も汗ばんでいるけど、尋常でない。かなり走り回ってたからなあ。


「あっちい……。」


 Tシャツの胸元を掴んで空気を送るその姿は、そこはかとなく色気があるように思う。試合中も「和田君カッコいい」なんて言われているのが聞こえた。


「キャーキャー言われてたね」


「応援は、二人の声しか聞こえねーし」


 なぜかぶすっとして言われた。まあ、私も琴美と喜成に応援されたら、二人の声は聞き逃さない自信があるよ!


「どうする、どこか見に行く?」


 琴美の提案に、私はちょっと悩む。絶対見に行かなくちゃいけないのは、兄ちゃんたちの決勝のみだ。本音を言ってしまえば、他の競技にそれほど関心が無い。


「あー、飲み物買いにいかね?」


 未だに汗が引かない喜成が、手を挙げる。脱水で倒れられては困るしな。


「いいよー。じゃあ自販機にレッツごぅぉお!?」


 いざ出陣とばかりに踏み出した足に、何かが勢いよく当たり、バランスを崩したところで何かを踏んだ。結果、おもいっきりコケた。


「樹!?」


「いっちゃん!?」


「……いった~」


 尻餅をついた状態の私の足元を、コロコロと転がっていったボールから察するに、あれを踏んだのだろう。


「なんてどんくさい……」


 情けなくて天井を仰ぐと、心配顔の喜成と琴美が見えた。


「ちょっといっちゃん大丈夫!?」


「あはは、コケちゃった。イタッ!」


 手を借りて立とうとしたら、足首に痛みが走って無理だった。


「あちゃー、痛めたみたい……。」


 思い出したようにジクジクと痛み出す足に、眉をしかめた。



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